「まだ動いていない人」の多くは、これからだって動かない
知り合いのオッサンが、「近所に大型のショッピングセンターができて、大型の書店が入った」と喜んでいる。「その本屋に行けば、近くの本屋でいくら探しても見つからないような本でも大抵見つかるから、ありがたい」と言うのである。
「欲しい本がわかっているんだったら、Amazon で買う方がずっと早いですよ。大型書店の醍醐味は、『何かいい本がないかな』と漠然と探しに行って、思いがけないいい本に出会ったりするところにあるんじゃないですか」と言うと、彼は急に黙り込んでしまった。
ああ、ごめんなさい! つい、またやってしまった。
彼は PC を持っている。インターネットの閲覧とメールのやり取りはできる。しかし、いくら教えても添付ファイルを送ることができない。というか、教えている最中に目が泳いでいて、理解しようという気持ちがまったく感じられない。その程度の人に Amazon を進めても、何の意味もないんだった。
Amazon で買い物をするぐらいは、IT 音痴の私の妻でもできるのだから、つい軽い気持ちで、一般的な常識を適用してしまった。これをやると、インターネットと添付ファイル抜きのメールしかできない人に、ちょっとしたコンプレックスを感じさせて、不愉快な思いをさせてしまう。
「Chikirin の日記」に、「まだ動いてない人をいかに動かすか」というエントリーがある。ネット・ビジネスはかなり普及したように思われているが、普及率をこれ以上あげるためには、まだ Amazon で本を買ったことのない人、PC に何もダウンロードしたことがなく、あたかも冷蔵庫や扇風機のごとく買った状態のまま使っている人などを、新たに取り込まなければならないというのである。
それで、これまでネット広告しかしなかったような企業が、積極的にテレビ CM を流し始めているというのだ。ふぅん、私はテレビをあまり見ないから、そんなことはちっとも知らなかったよ。
ただ私は「まだ動いていない人」を動かす試みに関して、かなり悲観的だ。今に至るまで動いていない人のほとんどは、多分一生動かずに終わる層だ。これは経験から知ったことである。これまでもそうした人たちに懇切丁寧に教えてあげて、なんとか動かそうとしてきた私が、すっかりあきらめているのだから、これは実感である。
私の周囲には、PC を「使っている」というレベルではないものの、「一応、触っている」という程度の中高年がかなりいる。彼らの PC はすべて、買ってきた状態から私が最低限の設定をしてあげたものだ。インターネット接続、その人が注目しているサイトのブックマーク、メール、住所録の最低限の登録、PDF リーダーのダウンロード、必須の専門用語の単語登録などなど。
彼らはそれ以上のことは何もしていない。それどころか、私が設定してあげた必須事項の半分も使いこなしていない。せっかく写した写真を添付ファイルとして送ることすらできず、直接訪問して USB スティックにコピーさせてもらうしかないのだから、「Amazon で買い物すると便利ですよ」とか「ホテルの予約はネットでするのが便利ですよ」 なんて言っても、まったく意味がない。
彼らのほとんどは還暦をとうに過ぎた世代だから、生きてもせいぜいあと 20年である。だから、無理矢理引っ張ってきたとしても、実効的な活用はほとんどなされないままに、あと 20年足らずで消え去るユーザーだ。コストをかけてこのマーケットを取り込んでも、表面上のユーザー数が一時的に増えるだけで、実効的なユーザーが増えるわけではない。
この実感は年齢層のみによるものではない。30〜40代でも、PC を持っていながらAmazon で買い物をしたことがない人、ネットでホテルの予約をしたことがない人、ちょっとした疑問をググってみたことのない人はいくらでもいる。彼らはネットを使って自分でやるより、人に頼んだ方が早いと思っている。こうした層は、たとえやりかたを知ったとしても、アクティブなユーザーにはならない。
無駄な努力をしなくても、若い層の多くがどんどん「ごく当たり前にネット利用」するのだから、普及率は自然に上がるに決まっているんだがなあ。
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コメント
いつも楽しく拝見させていただいております。
当方ニュージーランド在住で、妻が留学生のアドバイザーをしているのですが、担当している学生(高校生)は残念ながら「ごく当たり前にネット利用」ができていないようです。LINEやメールはごく当たり前に使っているので、そいう意味ではネットを利用しているのですが、彼らにとってのネットとはLINEだったりメールでしかなく、ネットを利用しているということが(逆に)よくわかっていないようです。そのため、妻が「ネットで調べれば…」というようなアドバイスをしても、今ひとつ使いこなせないようです…
必ずしも年代全般に広げられる話ではないとも思いますが、以前話題になっていたTIWTTERの騒ぎなどを見ると、ネットネイティブ世代は逆にインターネットは概念(例えば世界につながっているとか…)を理解できていないのでは?と思ってしまいます。
投稿: nzsheep | 2014年5月26日 15:16
nzsheep さん:
確かに、かなり若い世代になると、PC 発想の 「ネットワーク」 というものには、あまり馴染んでいないようですね。彼らが20代半ば頃になったら、ネットワークというもののあり方も、かなり変わってくるのかもしれません。
ただ、「ネットワーク」というものを意識している/いないに関わらず、現実に使ってはいるわけですので、必要に迫られれば抵抗なく使いこなすことができると思います。
投稿: tak | 2014年5月26日 22:01