中国の食品スキャンダルの意味を考える
中国の上海福喜食品による期限切れ食肉使用がスキャンダルになったのは、当初からテレビによるスクープが発端だったと報じられていて、私はずっとそのことが気にかかっていた。
期限切れ食材使用なんてことは、日本の赤福だって似たようなことをつい近年までやっていたのだし、「中国がやっていないはずがない」と思っていた。床に落ちた肉を拾って製造工程に戻すとか、カビの生えた食材を使うとかいうのも、中国のことだから、とくに驚くには当たらない。
そんなことは想定内としておかなければならない。ただそれが、中国人自身の手で暴かれ、中国内でも批判的に報じられて大問題になったというのは、ちょっと想定外だった。今回の件に関して、中国内の自浄機能が働き始めている証拠として、積極的に評価する向きもあるが、私はそれは一面的な見方でしかないと思っている。
別の見方として当初から出ていたのは、 「外資叩き」というものだった。上海福喜食品は米国資本 100%の企業だと言うから、その見方は当然だろう。中国では年中行事のように、マスコミの手によって外資系企業が槍玉にあげられる。
最近ではトヨタもアップルもさんざん叩かれた。あれは典型的な「ガス抜き」である。中国では自国商品への不満が高まる中、「外資の方がひどい」と言わんばかりの情報発信をすることで、大衆の不満を逸らそうとする。
今回のスクープも、「中国の食品は危なくて口に入れられない」と、自国民の間で言われているぐらいだから、その不満を逸らす狙いがあったのは確実だろう。「中国だけじゃない。外資系だって、こんなにひどいことをしている」と訴えたかったに違いない。だからこそ、米資本の企業を潜入取材のターゲットにしたのだ。
トヨタやアップルが槍玉にあげられたのは、「外国から来て、中国に酷い物を暴利で売りつける会社を糾弾する」という意味があった。中国人が本当はトヨタ車や iPhone が大好きだったとしても、槍玉にあげることで、確実にガス抜き効果があったのである。
だが今回の場合は、ガス抜きでは済まなかった。スキャンダル効果が、当初の思惑を完全に超えてしまったのである。この企業が「外国から来て、中国に酷い物を暴利で売りつける」のではなく「中国で作ったものを、中国のみならず世界中に売りつけている」という事実があることを、あまりにも軽く見過ぎていたようなのである。
報道が国内に止まっていれば、「ひどいのは外資」というキャンペーンで済んだのだろう。しかしそれが世界中に広まった時点で、「中国製食品はヤバい」ということになってしまったのである。「愛国無罪」的な意識で外資系のスキャンダルを暴き立てたつもりだったのに、「中国製食品全体」に跳ね返ってきてしまった。
要するに、余計なことをして、寝た子を起こしてしまったのである。
これは、国際市場における自国の影響力が自分たちの想像以上に大きくなってしまっていることに、中国人自身がまだ十分に気付いていないことから来たのだろう。勝手な都合による行為が、天に唾することになる時代になったということに、少しは気付いてもらわなければ困るのである。
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コメント
今件、工場のスタッフがかなり協力的と言う印象です。
外資系のタタキと言う背景があれば、なんとなく疑問のピースが埋まって行く気がします。
あれだけ整った「不正行為」は、一方的な潜入調査では撮影できないと考えます。
ホントに短絡思考ですが、工場側から「不正行為を見に来ない?」的なアプローチがあったんじゃなかろうか。
…、と邪推しております。
「天に唾きす」、中国から教えてもらったんですよね。
投稿: 乙痴庵 | 2014年7月26日 07:57
乙痴庵 さん:
なるほど。
工場の上の方の人たちは起訴されたりしてるようですが、現場ではそんなことがあったかもしれないですね。
今の工場がおかしくなっても、転職先はいくらでもあるさってな感じで。
投稿: tak | 2014年7月26日 21:22