"with news" というサイトに、「すき家バイト店員の不満が異常なレベル 再生の契機になるか」という記事がある。このアンケートは内部調査を行った弁護士らが、全国約 33,000人のアルバイト店員のうち 468人を対象にして実施したもので、回答率は 49%だったそうだ。この回答率、ちょっと低すぎないか?
で、結果はその 84%強が「労働環境に不満があった」「オペレーションが回っていないと感じることがあった」と答えている。サービス残業もかなりあり、実際の労働時間通りに申請すると上司から指導されたり、勝手に改ざんされたりする例もあったという。
私の知り合いの息子が、大学を出てからすき家の親会社であるゼンショーホールディングスに就職したが、1年持たずに辞めたと聞いた。「このままいたら、人間として壊れてしまいそうで、辞めた」という。その息子は私の知る限り、「結構真面目ないい奴」という印象なので、「相当酷いんだな」と思ったものである。
ゼンショーホールディングス社長兼会長の小川賢太郎という人は、東大で全共闘をやったという経歴をおもちだそうで、インタビューの動画などをみても、まあ、「優秀な人」という印象だ。ただ、優秀な人ならいい経営をするというわけでは、必ずしもない。
話は変わるが、7年前に死んだ母の三回忌のなおらいで、私の田舎の料亭に親戚を集めて昼食を摂ったことがある。その店の評判は事前に聞いた限りでは結構よかったのだが、実際はひどいもので、完全に失望したのである。
料理の量だけは常人の食える 3倍ほど出たが、どれも冷えていてまずい、飲み物を頼んでもなかなか出てこない、従業員に何を聞いても頼んでもトンチンカンで、トイレの場所を聞いても答えられない。
その上、座敷までの通路と階段にわけのわからない荷物がどっさり積まれていて、狭くて歩けない等々、本当に呆れた。何を食ってもおいしい酒田という土地の料亭で、失望したのは初めての経験だった。もうこの店には 2度と来るまいと思った。
その店のウェブサイトで客の書き込む掲示板をみると、最初のうちは多かった「おいしい」「満足」という書き込みが、時間軸に沿ってどんどん少なくなり、直近の反応は「ひどい」「失望した」「客をなんだと思っているのか」というものばかりになっている。
後で聞いたところによると、その店は開店当初は評判がよく、ランチタイムなどは行列ができるほどだったらしい。ところが従業員を大切にしない社風であったらしく、開店時の優秀なスタッフの不満が爆発して、ごっそりといなくなってしまった。それで、「昨日や今日のスタッフ」 ばかりになってしまっていたというのである。
料亭とか、まあ、中級程度以上の飲食店の世界では、従業員を大切にしない店は結局、このようにして客をも大切にしない店に成り下がってしまうのである。この店はやがて潰れてしまったようで、今は別の店になっている。
ところが、すき家のような大衆店というか、安さが売り物の店では、客はことさらなサービスを要求しない。早く、安く、腹一杯食えさえすればいいと思っている。だから「従業員は大切にしないが、客の要望にはそれなりに応えている」という結果になり、「あんな店、もう二度と行かない」なんてことにはなりにくい。
すき家の問題がここまでこじれてしまったのは、そのためである。従業員は不満一杯なのだが、客まで不満をもつことはまれなので、一見「繁盛している」という様相が継続していた。それで、経営者はいいと思っていたのだろう。
ところがここに来て、少しは景気が上向きになったといわれたとたんに、従業員が我慢しなくなった。バイトが「こんな店、やーめた! と言い出して、従業員不足による閉店が相次いだ。安過ぎる物にはそれなりの理由がある。誰かの犠牲によって、安くなっているのだ。
すき家は、デフレの世の中に最適化しすぎていた。状況への最適化は、求められているようでいて、実は危険なのである。ある状況にとことん最適化しすぎると、周囲がちょっと変わってしまっただけで、すぐにほころびが出る。
すき家は、内部は変わらなかったのに、外部が変わってしまったために大問題になった。「一貫した方針」といえば聞こえはいいが、実際には迅速に変わらないと、状況についていけない。
小川氏は 「すき家は今では社会的インフラになった」なんて言っていたらしいが、そのインフラが機能しなくなったということは、やっぱりお客にツケが回ってきてしまったと言っていいのである。
専門紙誌記者としてのキャリアを積んできた私の知る限り、「いい会社」の特徴というのは、意外に聞こえるかもしれないが、経営者が顧客のことよりも、従業員の幸せを第一に考えているということだ。(念のために断っておくが、「従業員さえ幸せならいい」と、排他的に考えているわけではない)
そのベースがあってこそ、従業員は安心して顧客へのサービスに専念できる。経営者は従業員の幸せを考え、従業員は顧客の幸せを考えるという分業が自然にできている。そして自然に顧客のロイヤルティも向上する。
ゼンショーにも、是非そうなってもらいたいものである。
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