上から下まで、各段階が「ワンオペ」になってしまうと
日経ビジネスに "ガバナンスも「ワンオペ」だったゼンショー" という記事がある。同社の経営改善を目的とした第三者委員会の調査結果に、厳しい労働実態を生んでしまった原因の一つとして 「コーポレートガバナンス(企業統治)の欠陥」 が指摘されたというのである。
今回問題となったすき家などの「悲鳴を上げている現場の実態」を、「経営陣が十分に把握できなかったことが対策を遅らせ、事態を悪化させた」とされている。私はこの記事を読んで驚いた。経営陣は現場の厳しい労働環境を十分承知の上で、無理強いしていたものとばかり思っていたからである。
ちょっとネットを覗けば、ゼンショーがいわゆるブラック企業の代表格であるという情報が掃いて捨てるほどあった。今回の報告でも、従業員が 1ヶ月に 400時間以上働くこともあったと指摘されている。月に 27日間働くとして、1日あたり 15時間近くになる。通勤とメシ食って風呂入って寝る時間を除けば、何も残らない。
こんなひどい実態でも、小川社長は「ブラック企業」と言われていることについて、「そんなレッテルは、甚だ不本意」程度にしか認識していなかったらしい。「世界から飢えをなくす」という理想に燃え、大量の雇用を創出し、安くて早いメシを食わせる「ホワイト企業」だと思っていたようなのである。
すき家のバイトがひいひい言ってるという情報はあふれていたし、知人の息子がゼンショーに入社して 1年ももたなかったとか、すき家でバイトして心も体も壊しそうになったとかいう話は、いくらでも聞こえてきていた。外部の人間が別に必死で調べなくても知っていたことを、その会社の経営者が知らなかったというのである。
これは、構造的な問題としか思われない。現場のバイト店員の悲鳴を、店舗の責任者が聞こうとしない。聞こえても上に伝えない。だから中間管理職にはそうした情報が滅多に入らない。そもそも中間管理職自身が悲鳴を上げそうになるのを必死に耐えているのだから、下の者の悲鳴なんか「特別なこと」と思わない。
役員レベルでは、創業当時からの滅私奉公が当たり前だと思っているから、多少のことが耳に入ったとしても、そんなことは社長に伝えるほどの重要事項じゃないと思う。だから当然、役員会で討議されることもない。
つまり、初めから「過重労働なんて大したことじゃない」と思っている経営者だから、下の者は「伝えてもどうせ握りつぶされるし、下手すると自分の立場が危ない」と思い、ますます何も伝えなくなる。上から下まで各段階が全て「ワンオペ」になってしまうと、閉塞状況の連鎖に陥って、硬直以外の道がない。
そんな状況で、経営者は軽い気持ちでどんどん「合理化策」を押しつける。どんなに押しつけても反発が聞こえてこないから、つけ上がってさらに「合理化という名の理不尽化」に走る。そして突然、臨界点を越える。
現場を知らず、しかも妙に美しすぎる理想に酔う経営者が、最も陥りやすい罠であるが、実はこれ、多くの中小企業がはまってしまう可能性があるんじゃないかと、私は思っている。「ゼンショーなんか、まだマシな方だ」という声もあるぐらいだしね。
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コメント
tak-shonaiさん
ごきげんよう~こんにちは!
過重労働なんかあたりまえ、滅私奉公あたりまえと思って昭和を生きましたし、
現在もそれで生きていますので、tak-shonaiさんの言葉は身に沁みます。
私達は考えを変える時が来たのですね。
ありがとうございました。本当に、そうなんだ。
変えなくちゃ~~~~~~!!!!
ありがとうございました。
投稿: tokiko6565 | 2014年8月29日 12:53
tokiko さん:
実は私の労働時間もかなり長いですが (つまり、時給換算すると激安 ^^;)、まあ、個人商店みたいなものだし、働きながら楽しんで遊んでますから、苦労とは思っていません。
問題は、従業員をこき使うことなんですよね。
投稿: tak | 2014年8月30日 12:40