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2014年8月11日

従業員を大切にしない会社は生き残れない

"with news" というサイトに、「すき家バイト店員の不満が異常なレベル 再生の契機になるか」という記事がある。このアンケートは内部調査を行った弁護士らが、全国約 33,000人のアルバイト店員のうち 468人を対象にして実施したもので、回答率は 49%だったそうだ。この回答率、ちょっと低すぎないか?

で、結果はその 84%強が「労働環境に不満があった」「オペレーションが回っていないと感じることがあった」と答えている。サービス残業もかなりあり、実際の労働時間通りに申請すると上司から指導されたり、勝手に改ざんされたりする例もあったという。

私の知り合いの息子が、大学を出てからすき家の親会社であるゼンショーホールディングスに就職したが、1年持たずに辞めたと聞いた。「このままいたら、人間として壊れてしまいそうで、辞めた」という。その息子は私の知る限り、「結構真面目ないい奴」という印象なので、「相当酷いんだな」と思ったものである。

ゼンショーホールディングス社長兼会長の小川賢太郎という人は、東大で全共闘をやったという経歴をおもちだそうで、インタビューの動画などをみても、まあ、「優秀な人」という印象だ。ただ、優秀な人ならいい経営をするというわけでは、必ずしもない。

話は変わるが、7年前に死んだ母の三回忌のなおらいで、私の田舎の料亭に親戚を集めて昼食を摂ったことがある。その店の評判は事前に聞いた限りでは結構よかったのだが、実際はひどいもので、完全に失望したのである。

料理の量だけは常人の食える 3倍ほど出たが、どれも冷えていてまずい、飲み物を頼んでもなかなか出てこない、従業員に何を聞いても頼んでもトンチンカンで、トイレの場所を聞いても答えられない。

その上、座敷までの通路と階段にわけのわからない荷物がどっさり積まれていて、狭くて歩けない等々、本当に呆れた。何を食ってもおいしい酒田という土地の料亭で、失望したのは初めての経験だった。もうこの店には 2度と来るまいと思った。

その店のウェブサイトで客の書き込む掲示板をみると、最初のうちは多かった「おいしい」「満足」という書き込みが、時間軸に沿ってどんどん少なくなり、直近の反応は「ひどい」「失望した」「客をなんだと思っているのか」というものばかりになっている。

後で聞いたところによると、その店は開店当初は評判がよく、ランチタイムなどは行列ができるほどだったらしい。ところが従業員を大切にしない社風であったらしく、開店時の優秀なスタッフの不満が爆発して、ごっそりといなくなってしまった。それで、「昨日や今日のスタッフ」 ばかりになってしまっていたというのである。

料亭とか、まあ、中級程度以上の飲食店の世界では、従業員を大切にしない店は結局、このようにして客をも大切にしない店に成り下がってしまうのである。この店はやがて潰れてしまったようで、今は別の店になっている。

ところが、すき家のような大衆店というか、安さが売り物の店では、客はことさらなサービスを要求しない。早く、安く、腹一杯食えさえすればいいと思っている。だから「従業員は大切にしないが、客の要望にはそれなりに応えている」という結果になり、「あんな店、もう二度と行かない」なんてことにはなりにくい。

すき家の問題がここまでこじれてしまったのは、そのためである。従業員は不満一杯なのだが、客まで不満をもつことはまれなので、一見「繁盛している」という様相が継続していた。それで、経営者はいいと思っていたのだろう。

ところがここに来て、少しは景気が上向きになったといわれたとたんに、従業員が我慢しなくなった。バイトが「こんな店、やーめた! と言い出して、従業員不足による閉店が相次いだ。安過ぎる物にはそれなりの理由がある。誰かの犠牲によって、安くなっているのだ。

すき家は、デフレの世の中に最適化しすぎていた。状況への最適化は、求められているようでいて、実は危険なのである。ある状況にとことん最適化しすぎると、周囲がちょっと変わってしまっただけで、すぐにほころびが出る。

すき家は、内部は変わらなかったのに、外部が変わってしまったために大問題になった。「一貫した方針」といえば聞こえはいいが、実際には迅速に変わらないと、状況についていけない。

小川氏は 「すき家は今では社会的インフラになった」なんて言っていたらしいが、そのインフラが機能しなくなったということは、やっぱりお客にツケが回ってきてしまったと言っていいのである。

専門紙誌記者としてのキャリアを積んできた私の知る限り、「いい会社」の特徴というのは、意外に聞こえるかもしれないが、経営者が顧客のことよりも、従業員の幸せを第一に考えているということだ。(念のために断っておくが、「従業員さえ幸せならいい」と、排他的に考えているわけではない)

そのベースがあってこそ、従業員は安心して顧客へのサービスに専念できる。経営者は従業員の幸せを考え、従業員は顧客の幸せを考えるという分業が自然にできている。そして自然に顧客のロイヤルティも向上する。

ゼンショーにも、是非そうなってもらいたいものである。

 

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コメント

従業員を徹底的にこき使うこと = ワンマンオペレーション

カタカナにすると、なんか学問的根拠のある立派な経営学用語に聞こえるから不思議ですね。

あの社長は、そこんところを充分理解した上で、“ワンマンオペレーション” という言葉を使ったとおもいますね。

お見事!

しかし、時代がその化けの皮をひっぱがしたということでしょうね。

記者会見の受け答えを聞く限りでは、歯切れが悪く、問題の本質を理解してないように感じました。

私の経験からしても、労働者をひと扱いしない企業は長きにわたり繁栄することはないと確信しています。

投稿: ハマッコー | 2014年8月11日 22:04

追記
東大卒が社長やってて、“Sukiya is, delious” 。
実店舗に顔を出したことがないのでしょうね。
だから、現場の抱えている問題に無頓着だった?

投稿: ハマッコー | 2014年8月11日 22:19

ハマッコー さん:

>記者会見の受け答えを聞く限りでは、歯切れが悪く、問題の本質を理解してないように感じました。

ブラック企業と呼ばれていることに関しては、「そんな風に呼ばれていることに関しては、ウチは被害者だ」という言い方になるのに、一歩手前でようやく踏みとどまっているという感じですね。

オブラートのかけ方は、「さすが東大!」と思いましたが、本音としては、「ブラック企業呼ばわりされて、迷惑を被っている」 と考えているんだなと、しっかりと伝わってきました。

自分の周りの茶坊主の言うことしか聞いていない人ですね。

そして、部下や手下に耳の痛いことを言われても聞きたくないが、権威ある第三者の言うことなら、仕方なく聞くという、つまり「相手によって態度を変える人」でもあるようです。

>東大卒が社長やってて、“Sukiya is, delious” 。
>実店舗に顔を出したことがないのでしょうね。
>だから、現場の抱えている問題に無頓着だった?

実店舗に顔を出したことがないわけはないと思いますが、そこに気付かなかったというのは、そこまでのお人なんでしょうね ^^;)

投稿: tak | 2014年8月12日 01:20

tak-shonaiさんごきげんよう~
おはようございます~
《女性を大切にしない国家は生き残れない》
私にはそういう風に読めました。
日本はすばらしく経済大国になっていますが、
かげりが出ています。
女性を大切にする歴史があまり無いので、
他国よりも女性の個性が発揮される場所が少ないようですね。
結婚できない、子供が産めない社会にしていますね。
家も小さいごちゃごちゃの家しか持てないなんて。
他国の貧乏な人々でも広々とした家に住んでいますよね。
自国民を大切にしない日本は自滅です。

朝からとがってしまいました~失礼いたしました~

投稿: tokiko6565 | 2014年8月12日 05:57

tokiko さん:

「家族を大切にしないやつは、仕事でも最後にはこける」ってこともあります。

身内をないがしろにするのは、「その程度のやつ」っtことでしょうね。

投稿: tak | 2014年8月13日 00:24

夜分に恐れ入ります。

以前勤めていた会社が、「従業員本意でその家族も大切に」と言う意味を込めた立派なスローガンを額に入れて壁に掲げ、あたかも社員に優しいふりをしてました。

それは、「家族を思えばまだ頑張れるよな。」と、まるで家族を人質に取られたかの様な環境でした。

その会社も、昨年なくなってしまわれました。
上層部の…、会合、セミナー、懇談会など、入れてくる知識は豊富になるんでしょうが、それを下々に教育することなくやらせてナンボ的な発想だったため、駒になるべき従業員が混乱することしばしばでした。

以下内容を略します。
愚痴と戯言とちょっぴり悪口が跋扈することまちがいなし。

駒を育てることが、技術なり不文律なりの教育だと考えているアタクシは、やはり古い考えの持ち主なのでしょうか。

投稿: 乙痴庵 | 2014年8月16日 02:45

乙痴庵 さん:

「俺は立派な経営者」と思い込んでいる人が、一番ヤバイですね ^^;)

投稿: tak | 2014年8月19日 23:13

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