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2014年9月 9日

「エンタテインメント」という言葉を巡る冒険 その 2

昨日の "「エンタテインメント」という言葉を巡る冒険" に、米国在住の emi さんから早速コメントがついた。彼女は 5年も前に、自分のブログで「エンターテインメント」を気になる言葉として挙げている。

そして今回のコメントで、"ちなみに私は日本語表記は日本人の発音を反映させたい気持ちがあり、カタカナで書く場合は「エンターテイメント」を使っています" と書かれている、時代の違いをそこはかとなく感じてしまう指摘である。

彼女は 1970年代半ばの 「ザッツ・エンタテインメント」の時代には、多分この世に存在していなかっただろうし、もし存在していたとしても、とても幼くて、ちょっとマニアックなハリウッド映画のことなんか意識していなかっただろう。

彼女がこの言葉をフツーに使い始めた時代、多くの日本人は「エンターテイメント」と言っていたようで、そしてそれを聞いても、70年代に刷り込み完了していた私の耳は、無意識に 「エンタテインメント」 とアジャストして聞いていたのだろう。無意識の反応とは恐ろしいものである。

彼女はさらに、"「アタッシュケース」や「ナルシスト」みたいなもんだと思っています" とも述べておられる。なるほどね。これらが「あり」、というか、普通に使われているのだから、「エンターテイメント」だって十分に「あり」なのだろう。私にはちょっと違和感だけどね。

そういえば私は、"attache case" の英語の 「正しい発音」が、未だによくわかっていない。「アタシェィ」 みたいな感じとは思っているのだが、アクセントが「タ」にあるのか、あるいは原語のフランス語みたいに平板に言うのか(あるいはビミョーに 「シェィ」 にあるのか?)、よくわからないのである。

自分ではアタッシュケースなんて絶対に持たないからどうでもいいのだが、英語の話の行きがかり上では、テキトーにぼやかして言っていたように思う。ぼやかしても、さすがに話の行きがかりだからちゃんと通じるのだが、こっちとしてはモヤモヤしてしまう。

ちなみに英米人でも、「おフランス語こだわり派的な人「外来語だけど、既に英語だもんね派的な人の間でビミョーに違うような気がしていて、誰をお手本にしていいのかわからない。ただ、私がよく英語を使っていたのはほぼ 20年も前の話だから、今はどうなっているのか、これもよくわからない。

そういえば、私は "concierge" (日本語では 「コンシェルジェ」? それとも 「コンシェルジュ?)も、また "parfait"(パフェ)すらも、英語の発音がよくわかっていないまま、テキトーに通じてきてしまっている。どうもフランス語からきたような言葉には、相当に弱いらしい。日本語でも、カレーライスとハンバーグ以外のカタカナ名前の食べ物に疎いし (参照)。

「ナルシスト」に関して言えば、私が 10代の頃までは「ナルシシスト」の方がやや優勢だったように思う。英語は "narcissist" だから「ナルシシスト」の方が確実に近いが、これだと日本語としてちょっと違和感が生じやすいので、今では 「ナルシスト」 に落ち着いたのだろう。

ただ、「ナルシシズム」は、さすがに今でも「ナルシズム」より優勢だと思う。しかし、もしかしたらそう思っているのは私だけで、若い人たちにとっては既に「ナルシズム」なのかもしれないから、コワくて言い切れない。

外来語の中でも日本語の音感としてちょっと違和感のある単語は、どんどん日本語として言いやすいように変化しちゃう力が働くのだろう。この力は、多分自動的なものなんだと思う。”Studio” は 「スタジオ」、”radio" は「ラジオ」だし、先月 13日の記事で触れたように、"diversity" なんて、"diver city" に聞こえるほどだ。

それどころか、日本語としてあまりにもそぐわない語感の言葉は、外来語として入ってくることすらない。例えば 「冷蔵庫」 は英語では "refrigerator" だが、あまりにも言いにくくて舌かんじゃうから、絶対に入ってこない。

これはさすがに、ネイティブでもうっとうしいらしく、普段の会話ではぐっと縮めて "frige" が多用される。ただ、これも日本語としてはちょっと違和感だから、いくらオシャレにカタカナ語を多用したがる電通や博報堂でも、今さら 「エコに強いパナソニックのフリッジ」 なんて言い方はしないだろう。

もう一つ、絶対に入ってこないだろうと思われるのは、"smorgasbord" という言葉である。「スモーガスボード」って、ガス台の上で相撲を取るわけじゃなく、いわゆる「バイキング形式の料理」のことだ。

英語で "viking style" なんて言っても、日本語ではそう言うのだと知っている人以外には、絶対に通じないし、たとえ知っていても、それを思い出してもらえるまで、ちょっとしたタイムラグが生じる。それほどに、英語的にはものすごい違和感のある言い方なんだろうね。

咄嗟には「バイキング料理」と「ジンギスカン料理」の区別がつかなくなってしまう私のような人は、あんまりいないだろうが、最近では日本でも「バイキングという言い方はちょっとダサいかも」と思われ始めたようなところがあって、代わりに「ビュッフェ・スタイル」なんていう言い方が広まり始めた。

これ、フランス語と英語の折衷なのかなあ。英語では「バフェィ」である。

 

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コメント

>外来語の中でも日本語の音感としてちょっと違和感のある単語は、どんどん日本語として言いやすいように変化しちゃう力が働くのだろう。

同感です。輸入→自己流にアレンジ→ガラパゴス化という癖がついているんでしょうね。

「気になる言葉」を書いた頃に、確かNHKの見解を探したなと思って検索してみたら、まだありました。
http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/020.html

これは1998年のもので、当時は「コミュニケーション」「シミュレーション」も揺れていたようですね。その点、「エンタ(ー)テイ(またはィ)(ン)メント」は“正しい”表記を決めて制圧するでもなく、あきらめて日本語訳(「娯楽」など)にするでもなく、長年揺れ続けているわけですから、たいしたものです。揺れ歴が長すぎるから、いまさら一つに決められないというところもあるのかも。

今回のtakさんの記事をきっかけに、どなたかが本格的に研究してくださるといいですね。その際には、ついでに、なぜ略語が「エンタテ」じゃなく「エンタメ」なのかも解明していただきたいです。笑

投稿: emi | 2014年9月 9日 18:25

emi さん:

>輸入→自己流にアレンジ→ガラパゴス化という癖がついているんでしょうね。

なるほど、「癖」 なんですね。「宿業」 の一歩手前ぐらいかな。

NHK の見解の

>「英語のつづりは Entertainment なので、「エンターテインメント」が正しい表記です。

「つづり」 から攻めて来られたのには、ちょっと驚きました。

英語は世界で一番つづり通りに読めない言葉だと思うんですがね。
Leicester や Worcester はどう説明したらいいんでしょ ^^;)

>その点、「エンタ(ー)テイ(またはィ)(ン)メント」は“正しい”表記を決めて制圧するでもなく、あきらめて日本語訳(「娯楽」など)にするでもなく、長年揺れ続けているわけですから、たいしたものです。揺れ歴が長すぎるから、いまさら一つに決められないというところもあるのかも。

「手に余る」 ということなんでしょうかね。

>その際には、ついでに、なぜ略語が「エンタテ」じゃなく「エンタメ」なのかも解明していただきたいです。

「エンタテ」 だと、何となく語感的に 「角が立つ」 からかな。「円立て」 なのに (^o^)

投稿: tak | 2014年9月 9日 23:42

いつも楽しくブログを拝読しております。
現在、たまたまドイツ滞在中に「単語のガラパゴス化」が話題になっているので、今回はじめてコメントさせていただきます。

「言葉のガラパゴス化」についてですが、多言語が行き交うヨーロッパではよくあることのように思います。
 たとえばイタリアの「ミラノ」はドイツ語なら「マイラント(Meiland)」になりますし、ロンドンはフランス語なら「ロンドル(Londres)」です。逆にドイツのミュンヘンも英語では「ミューニック(Munich)」ですよね。
 こんなふうに、同じ都市の名前でも言語ごとに呼び方が違っていますし、おもしろいことにヨーロッパ人はそれでけっこう平気な顔をしてます(国際列車でも終着駅表記が言語ごとに変わるのですが、戸惑わないようです)。
 というのも、ヨーロッパには日本人・日本語とは比較にならないほど小規模な民族・言語が多数存在していて、その共存が当たり前になっているのでしょう。いわば「ガラパゴス群島」ですね。
 逆に日本で「外来語」のアクセントや発音、つづりがよく議論になるのは、良くも悪くも英語の存在感が圧倒的だから、という気もします。

 これからも刺激的な議論の提起を楽しみにしております。

投稿: nh | 2014年9月12日 06:20

nh さん:

ヨーロッパで、固有名詞でもそれぞれの言語によって読み方が違うのは、中国の 習近平 国家主席が、日本語で 「しゅう きんぺい」、中国語で 「シー・チンピン」になるのと同じことですね。これは、ガラパゴス化というよりは、単なる「相互主義」と認識する方がいいんじゃないかと思います。

イエス・キリストが、ジーサス・クライストになったり、耶蘇になったりするのも同じことで、これを 「ガラパゴス化」というのは、ちょっと違和感があります。

東アジアでは、韓国と北朝鮮が、相互主義を認めていませんが、それは、彼の国ではせっかくの東アジアの共有財産である漢字を使わなくなったためです。

漢字同士、アルファベット同士だと、相互主義はごく自然なことですね。

ただ、英字新聞を読んでいると、 ”Xí Jìnpíng” が 習近平のことだとわかるまで、「こいつ、何者?」 と思ったりするのが困りものです ^^;)

投稿: tak | 2014年9月12日 13:02

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