”Thank you for your patience" という言葉が、日本語にも欲しい
NAVER の "「全盲なら乗るなよ」「相当イラつくのは確か」川越線での全盲女子負傷 加害者への同調がツイッターで続出” というまとめ記事に、かなり驚いた。
基本的にタイトルにもなっている「全盲なら(ラッシュ時に)電車に乗るのは、控えるべきだ」というややおとなしい意見と、「ただでさえ混んでるのに、全盲の人が紛れ込んだらイラつく」という感情的発言が多いが、さらに「障害者だからといって、無条件に被害者ヅラするのはおかしい」という攻撃的発言もある。
まあ、正直言ってわからんでもない。似たような気持ちに自分がちらっとでもなったことがないと言ったら、それは嘘になる。でもそれをぶっちゃけた話として言うってのは、まともな人間として恥ずかしいという感覚をもつ方が、世の中の多くのことは円滑に運ぶんじゃないかと思うのだよね。
まあ、実際にはラッシュ時の駅構内の雑踏や満員電車の中で、白い杖をついた人や妊婦や足の不自由な人がいたりしたら、私はいつも自分の体を盾にしてでも彼らを守ってきた。だって行きがかり上、そうするしかないじゃないか。様子がわからないうちは私が不自然に体を突っ張っていることで憤る人もいたが、隣の誰かを守っているのだと知れば、「そうだったのか」と納得してくれた。
私は常々、英語の ”Thank you for your patience" と同じニュアンスの言葉が日本語にないことを、とても残念に思っている。これは直訳すると「あなたの忍耐に感謝します」ということだが、実際の場面では、日本語だったら「お待たせいたしました」なんて言うだろうというケースで、案外気軽に使われる。
何かのオープニングで朝から長い列ができて、ようやく開場になったというような場合なんかの、決まり文句みたいなアナウンスの言葉と私は理解しているが、用例はそれだけではない。例えばバスから降りる時に料金を支払う場合など、全然要領を得ないお年寄りなんかが、もたもたしてものすごく手間のかかることがある。
そんな時、日本だったら列の後ろの方であからさまに舌打ちしたり、これみよがしにため息をついたり、下手すると「早くしろよ!」なんて声が上がったりすることもあるが、欧米だと別に紳士淑女ばかりでなくても、案外みんな呑気に待つ。
それがごくフツーのことのようなのである。そしてようやくことが済んで列が動き始めると、運転士が ”Thank you for your patience" と、決まり文句を言ったりする。
まあ、並んでいる人たちは、そりゃあ少しもストレスを感じないわけじゃないだろう。多少はイライラしたりするはずだ。しかしそれをあからさまに態度に表したりするのは大人げないし、相手の尊厳を傷つけるようなことをするのは人間としていかがなものかという共通認識があるんじゃないかというような気がする。
それでいらついた素振りは見せず、解決するまでおとなしく待つ。いくらなんでも 10分も 20分もかかることなんかないから、待ち時間なんて実際には知れたものだ。そしてそのちょっとした「我慢」に対して ”Thank you for your patience" (あなたの忍耐に感謝)と言われるのだから、そりゃあ、悪い気はしない。いい言葉である。
ところが日本では、運転士が「忍耐に感謝」なんてことは言わない。感謝せずに、一方的に「大変お待たせして済みませんでした」なんて、謝ったりする。本来は彼が謝る筋合いではないのに、なぜか謝るのである。
こんな場面で謝られちゃうから、客の方は何か悪いことをされて、被害を被ったような勘違いをする。その悪いことをしたのは、あの多少ボケかかったじいさんだと思えば、「料金の払い方も知らない年寄りは、バスに乗るな!」なんてことをつい言いたくなる。
これが年寄りじゃなくて、視覚障害者で、バスを降りる時に多少手間取ったりした時に、「全盲なら、バスに乗るな!」なんて、口汚い言葉をわめいたりしたら、それがもし米国だったら、いきなり隣の客に殴り倒されても文句は言えない。
川越線で全盲の女子高生の膝の裏を蹴っちゃった奴は、ここが日本だったおかげで周りからボコボコに袋叩きにされずに済んだのである。まったく命冥加な奴である。
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コメント
「視覚障害」と「Patience」というキーワードは同じなのにこの件とは大きく異なる場面に遭遇したことがあったなぁと思い出しました。
http://emisblog.exblog.jp/19769594/
”Thank you for your patience"、なんとか素敵な訳をつけて日本語に入れたいですね。
投稿: emi | 2014年9月16日 22:27
emi さん:
この言葉が出てくる素敵な話を、どこかで読んだことがあったような気がしていましたが、emi さんのブログだったんですね。
ぐっとくるような言い回しが、日本語でできないものかなあと、本当に思います。
投稿: tak | 2014年9月18日 09:39
tak-shonaiさんごきげんよう~
感激しました。その言葉。
その言葉が日本に定着したらすばらしいですね!!!
ほんと。
投稿: tokiko6565 | 2014年9月18日 15:53
tokiko さん:
そうですね。
これを 「お待たせしました」 とまったく同じ意味なんだと言う人もいますが、そんなことはない。
相手に感謝する意味が込められているのは、微妙以上のニュアンスの違いがありますよね。
異なる言語間で、「まったく同じ意味」の言葉があるなんて思っている人は、比較文化論がわかっていない人です。
「おはよう」 と "good morning" を、「まったく同じ」 と思っている人とは、人間について深く語り合えません。
投稿: tak | 2014年9月19日 10:19
行きがかりのものですが,全く同感です.こころが温かくなりました.
投稿: かづ | 2017年1月31日 10:03
かづ さん:
コメントありがとうございます。
こころが温かくなるお役に立てて、こちらとしても嬉しいです。
投稿: tak | 2017年1月31日 14:49
Thank you for your * で検索してたら偶然ここにたどり着いた次第。
朝から良い話に巡り合えた。感謝。
Thank you for your patience.なるほど。
Good morning.
投稿: soju | 2018年3月21日 06:35
soju さん:
Thank you for your comment.
もう 4年近く前の記事になりますが、書いておいてよかったです。
投稿: tak | 2018年3月21日 07:37
大変興味深く読ませていただきました。
謝られると誰かが悪いような気がする,その通りな気がします。
「ご協力頂きありがとうございました」のような言葉では少し違うかもしれませんが,何か"Thank you for your patience"のような,よい(ポジティヴな?)言い回しが使えるようになりたいものです。
投稿: 2342 | 2019年11月14日 20:45
2342 さん:
本当に、謝るのではなく、ポジティブな感謝の言葉で、こうしたシチュエーションを通過してしまいたいですよね。
コメントありがとうございます。
投稿: tak | 2019年11月15日 00:15