父の物欲
死んだ父は本当に物欲のない人で、買い物ということを滅多にしなかった。母が寝たきりになってからは、必要に迫られてスーパーで食料品や日用品の買い物はしていたが、それ以外の買い物をするのを見たことがない。
だから、実家にあるものは、家具から食器、寝具、タオル、座布団などに至るまで、すべて母が元気なうちに買ったか、子からプレゼントされたかのどちらかである。もっともプレゼントにしても、あまり余計な物をもらうと、決して口には出さないが、ありがた迷惑に感じていた節がある。
私の妻は割と着る物が好きだから、父の誕生日や父の日が来る度に、ちょっとお洒落なシャツなどを送っていた。きっと喜んでもらえると思っていたのである。ところがある時、父が「着る物をこれ以上もらっても、死ぬまで一度も袖を通さないでしまっておくことになるから、もういらないよ」と言い出した。
それ以後は、本を送ることにした。父の好きなフォークロアや魚釣りなどの本である。ところが、父も年を取ってくると目が弱って、活字を読むのも辛くなる。それでまたある時、「くれるなら、食べ物にしてくれないか。食べ物なら、口に入ったら消えてなくなる」と言い出した。
身の回りに余計なものがあるのが、よほどストレスになるようなのである。というわけで、それ以後は、何かの時のプレゼントは食べ物ということになった。酒が好きならワインなんかを送るのが手っ取り早いのだが、父は酒を飲めないので、ちょっとした和菓子、洋菓子、珍味の類いを送ることになる。
しかし今から考えると、父へのプレゼントはそんなものより、ごく日常の食べ物にする方がよかったかもしれない。父は食い道楽という趣味はなく、食事は命をつなげるために、しかたなく食うものと思っていた節がある。だから、日常の食事以外のものをもらっても、食うのがおっくうだったかもしれない。
こんなことをいうと、「なんて味気ない人生を送った人だ」と思われるかもしれないが、そんなことはない。父は「モノ」で満足するよりも、内面を深めることで満足するタイプだった。死ぬ時は、「満足した一生で、思い残すことは何もない」と言っていた。それは私も父の子で、そんなところを受け継いでいるからよくわかる。
というわけで息子としては、父へのプレゼントは、「モノ」じゃなくて「コト」にするのが一番良かったかもしれないと、今となっては遅いが、思い始めている。一番喜んでくれる「コト」というのは、子供や孫との触れ合いだったかもしれない。
ちなみに私も、「モノ」がありすぎると負担にしか感じられない。しかもいかにも高級そうなブランドが付いていればいるほど負担だ。例えば、アルマーニのスーツやロレックスの腕時計やグッチのバッグなんかをもたされたら、居心地が悪くてたまらない。ただでもらえるとしても迷惑だから、要らない。
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コメント
tak-shonaiさん
ごきげんよう~
あのね、
物も食べ物もいらない私達ですが、
子供というのは何かしたいらしくて、とうとうipadが二つただただおいてあるし。
写真を流してくれるのも3つもあって、ただただしまってありますし。
コトというのはもっといらないです。
子供達が会いにきたらしんどいです。
ごめんなさいね。
私達はただただ子供達や孫がしあわせそうなら
それが親孝行だと、こころから思っています。
何もしてくれなくていいのですよ。
実際、会わなくてもいいのです。
あの子達がしあわせなら、何もいらないのですよ。
ほんとうです。
だから、コトをしたらよかったかな?なんて、無駄なことを
思わなくていいんですよ。
70過ぎた人間はそう思います。
投稿: tokiko6565 | 2014年10月27日 17:16
tokiko さん:
すてきな言葉、ありがとうございます。
なんだかほっとしました。
投稿: tak | 2014年10月27日 18:40
tokikoさんのコメントを読んだら、正直言いにくくなってしまいましたが…(^^;;
それでも子供は、やはり親に何かしたくなり、してあげたい、しなければならないような、そんな気がしますよね。
自分も子供を授かってからは、そういう気持ちになりました。
気持ちの上での、tokikoさんのコメントはよくわかりますが、それでもなお、何か喜ばれるようなことはないのか…どうしても考えちゃいます。
投稿: もりけん | 2014年10月28日 00:20
もりけん さん:
親が生きてる間は、いろいろ考えてください。考えるのも楽しみですよね。
私の親は二人ともなくなりましたので、後は拝んでさえいればいいので、気楽といえば気楽です ^^;)
投稿: tak | 2014年10月28日 17:20