「イスラム国」 と、近代的国家観
Gigazine の "「ISIS 愛してる」と Facebook に投稿した女性が逮捕される" という記事の見出しだけを読んだ時には、「そりゃ、いくらなんでもひどいなあ」と思った。
Isis(イシス、アイシス)は、女性の名前である。元々は古代エジプトの豊穣の女神の名前だったが、女の子の名前として案外フツーにつけられる。だから、Isis という女性を愛しているレズビアンの女性が、IS(イスラム国)あるいは ISIS(イラクとシリアのイスラム国)の支持者と誤解されて逮捕されたか、あるいは同性愛を禁じる国だったために理不尽に逮捕されたか、そのどちらかだと思ったのである。
ところがこの女性、「イスラム国」支持の(ごく素朴な)確信犯だったらしい。Gigazine は次のように伝えている。
逮捕されたのはアメリカ・バージニア州在住のヘザー・コフマン容疑者。コフマン容疑者は Facebook 上に複数のアカウントを持っており、その中では「アラーは偉大な功績よりもムジャーヒディーンを好む」という文章が添えられたイスラム国兵士の写真がアップロードされていたり、「アラーのためのジハード」という文章がシェアされたりしていました。当局は該当する Facebook アカウントの情報を得たのちに、テロリズムに関するおとり捜査を行いコフマン容疑者を逮捕したとのこと。
「イスラム国」というのは、想像以上に影響力を拡大しているようなのである。世の中に不満をもつか矛盾を感じているか、あるいはその両方の人間にとって、自らの存在意義を見出し、孤立感を解消し、社会に対して過激なまでの働きかけ(あるいは復讐)をするための受け皿となっているようだ。
かつての過激な学生運動、暴走族、オウム真理教などと同様の機能を果たしているのだと思われるが、決定的に違うのは、彼らがものすごく潤沢な資金源をもっているらしいということだ。そのために、国際的に影響力の大きな活動を展開することが可能になっている。
今回のニュースとなったヘザー・コフマンという女性も、実際には「 イスラム国」との具体的なパイプをもっているという証拠は何もなく、どうやら夢想的な支持者だったらしい。とはいいながらこれは、何もつながりがなくても心情的に「ごく素朴な支持者」となってしまう土壌が、世界中にあることを示す。
私はもちろん、「イスラム国」に関しては否定的だが、理解すべき点がたった一つだけあると思う。それは近代的な国家観に対するアンチテーゼを、彼らが発しているということだ。これだけは彼らの無茶苦茶な行動とは切り離して、冷静に受け止めなければならない。
世界地図には国境があるが、実際の地球には国境線など引かれていない。国境は人間が勝手に引いたものである。もちろん、民族的なまとまりという心情の外縁というものが自然発生的に想定されたというのは、十分に理解できる。ここでいう「民族的なまとまり」というコンセプトに関しては、今年 9月に書いた "「ナショナリズム」を巡る冒険” という記事を参照していただきたい。
しかし現在の中近東やアフリカに引かれた国境線は、それとはほとんど関係がない。西欧列強の都合で機械的に引かれたものである。単純な直線が多いということからも、それは見て取れる。「イスラム国」はこうした勝手な国境線を無視し、新たな、あるいは復古的な国家を、受け入れがたい超原理主義に基づくとはいえ、想定している。
ただ彼らのこうした「国家」作りは、独自通貨や省庁、治安権力の確立と、妙に近代主義を模した形態を志向しているようだ。せっかくアルタナティブなコンセプトの国家を志向するなら、それなりに別の価値観と手法に沿ってもらいたかったのだが、そうはなっていないようだ。私はこの点においてだけでも、彼らの試みは挫折すると見ている。
結局、新たな「国」の確立はメタフィジカルなレベルで追求するべきものなのかもしれない。それはイエスが「わが国はこの世のものならず」(ヨハネ伝 18章 36節)と言ったことと通じる。
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