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2015年1月26日

馬鹿なことばかりしていたから、戦争に負けたのだ

慰安婦報道巡り、慰謝料求め朝日新聞社を提訴」と、当の朝日新聞が報じている。朝日の慰安婦問題の報道で 「国民の名誉が傷つけられた」として、8749人が、1人あたり 1万円の慰謝料と謝罪広告の掲載を求めている。原告の中心みたいな感じで名前が挙げられているのは、渡部昇一氏で、他にも研究者、評論家、衆院議員らが名を連ねている。

ちょっと前までは朝日的論調が日本の主流にあって、従軍慰安婦に関する当然の疑問を述べただけで「右翼」呼ばわりされた。ところが今はその力関係が変わってしまって、朝日的な「行き過ぎたリベラル」が、槍玉に挙げられてしまっている。

「従軍慰安婦」に関しては、いろいろな資料を検討してみても「強制的に徴用された」というのは明らかに虚偽の言いがかりであり、どうしても日本を悪者に仕立て上げたい勢力が作り上げてしまったでたらめだという指摘に、私も賛成する。その意味で、朝日の犯した罪は重いと思う。

しかしかといって、戦時中の日本には恥ずべき点などなく、悪いイメージはすべて東京裁判において戦勝国側が押しつけたものであるといわんばかりの論調は、「そりゃ、悪のりし過ぎだろうよ」と思う。いちびりにもほどがある。

戦後になってアジア諸国の独立が勝ち取られたのは、太平洋戦争初期において日本が欧州の植民地となっていた東南アジアに侵攻したおかげだとして、「あれは聖戦だったのだ」という主張まであるが、私としてはそれはあくまで「結果論」だと思っている。まあ、このくらいのことがなければ、あまりにも救いがたいので、ありがたい結果論ではあるが。

太平洋戦争が崇高なものだったとしたら、多くの日本人が一時的な挫折感を超えた後はむしろ進んで敗戦を受け入れ、それまでの価値観をあっさりと捨て去り、開放感さえ覚えていたという事実を説明できない。やはり戦時中の状況は、当の日本人にさえも「とんでもない無茶」を強いるものであったのだ。

私の父は志願して予科練に入り、特攻隊に選出された。ところがその頃にはもう「神風攻撃」をしかける飛行機は残っておらず、上陸してきた敵に爆弾を背負って自爆攻撃をかける訓練ばかりしていたという。そのうちに終戦になって、父は死なずに済み、巡り巡って私がこの世に生を受けた。

予科練時代の集まりに行った父が、ある年「海軍精神注入棒」という記念品を持ち帰った。昔の海軍には、新兵の人間としての尊厳を打ち砕いてしまうために尻をぶん殴る固い樫の棒があり、それを「海軍精神注入棒」と称したらしい。その棒を卓上に飾るための小さなレプリカとして、記念に配られたのだそうだ。

予科練時代の思い出を時に懐かしく語る父だったが、その記念品はちっとも喜ばず、押し入れの奥に無造作に押し込めていた。実家の荷物の整理でそれを見つけた私が、「これは一体、何だ?」と聞くと、父は「そんな馬鹿なことばかりしていたから、戦争に負けたのだ」と、苦々しく吐き捨てた。

太平洋戦争中の日本の軍隊は、決して誇れたものではなかったと、私は考えている。事実として、行く先々で様々な蛮行をしたのだ。それは、後から誇張に誇張を重ねて語り継がれた「南京大虐殺」というほどのものではなかったにしろ、立派な行為ばかりしてきたとは、とても言えない。それは生還した元兵士たち自身の口から生々しく語られている。

これまでの揺り戻しで、日本軍のしてきたことが美化されてしまいかねないのを、私は危惧している。私は自分を愛国者だと思ってはいるが、「そんな馬鹿なことばかりしていたから、戦争に負けたのだ」という父の一言は、重く受け止めている。

ありもしなかったことを「あった」というのと同様に、あったことに目をつむるのも、やはり罪である。

 

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コメント

初めまして。
昨年からブログ拝見しております。

この問題に関して、まさに私の思っていることと全く同じでしたので、思わずコメントさせていただきました。

これからもいろいろなジャンルの御意見・随想の書き込みを楽しみにしております。


投稿: KRT | 2015年1月28日 13:31

KRT さん:

コメント、ありがとうございます。
このように考える方がいらっしゃるのは、「リベラルな愛国者」として心強いです。

投稿: tak | 2015年1月28日 22:48

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