煮干しと焼干し
和食の出汁は、昆布出汁、鰹、鯖などの削り節、茸など、多種多様のものがある。最近は即席出汁の素が多くなったので、なかなか見られなくなったが、「煮干し」もポピュラーな出汁の一つである。
ただ、私は高校を卒業して東京の大学に入り、一人暮らしを始めるまで「煮干し」というものにはあまり縁がなかった。私の田舎、山形県庄内地方でポピュラーだったのは、「焼干し」の方だったと思う。
煮干しと焼干しの違いは、まあ、読んで字の如し、煮て干すか、焼いて干すかという、言うまでもないことなのだが、より詳しくは、Wikipedia によるとこんな具合である。
- 煮干し: 小魚を煮て干したもので、主に出汁をとる材料として使われるほか、そのまま、あるいは乾煎りにするなどで食べられている。カタクチイワシで作ったものが最も一般的だが、マイワシ、ウルメイワシ、キビナゴ、アジ、サバ、トビウオ(あご)などを原料としたものもある。イリコ (炒り子)、じゃこ (雑魚)、だしじゃこ (出汁雑魚)など多くの別名がある
- 焼干し: 特に山間部においては川魚の焼き干しを貴重な蛋白源として利用してきた。
焼き干しに利用される漁獲物は、アユ、イワナなどの淡水魚からイワシ、トビウオ、ハゼなどの海水魚まで多岐に渡る。(中略) そのまま炙って酒の肴や惣菜として利用する他、味噌汁や雑煮など汁物の出汁として広く利用できる。最近ではラーメンのスープ原料としても人気がある。また佃煮や甘露煮にしたり、身をほぐして炊き込みご飯の具とする事もある。その他にも燗酒の風味付けとしても利用される。
へえ、焼干しの世界の方がちょっと深いみたいなのだ。知らなかったよ。とくに最近は、我が郷土の名物「あごだし」(トビウオの焼干しによるもの)が一部で注目されているようで、「あご出汁ラーメン」なんかが珍重されたりしている。うちの田舎に来れば決して珍しくないのだけれどね。
ちょっと考えるだけでも、どさっと湯に入れて煮たものを干せばいい煮干しと違い、焼干しは手間がかかる。さらに、煮てしまったらその時点で旨みや栄養価のかなりの部分は失われてしまうが、焼いただけなら油が飛ぶだけなので、いい出汁が取れるだろう。
実際、青森県むつ市の脇野沢村漁業協同組合のウェブサイトには、次のようにある。
焼干しはカルシウムが多く栄養価が高いことで知られ、また魚を煮てから乾燥させる煮干と比べても、魚の旨みを凝縮させて封じ込める事が出来るため、煮干しの約5倍ものダシが取れると言われています。
ちょっとウェブで検索してみただけなので、あまり自信を持って言い切ることはできないのだが、どうやら焼干し文化圏は東北や山陰に偏っているようなのである。焼干しの方がどうみても 作るのに手間がかかるので、江戸を中心とした関東では消費に生産が追いつかず、一般化しなかったのだろう。
一方、上方は昆布出汁が多いのかしらん。また鰹節は、江戸時代中期以後に広まったもののようで、比較的新しい出汁の取り方とみられる。(間違ってたらごめんなさい。誰か指摘してください)
細かいことはよくわからないが、私は幸運なことに、美味しい出汁の取れる焼干しの文化圏で育つことができたということだけはわかった。何はともあれ、これはありがたいことだったと思う。
ちなみに庄内では焼干しは 「やぎぼす」 と発音する。煮干しの発音は、えぇと、法則からいえば 「にぼす」 になるが、私は庄内弁でそう言った覚えがない。それほど庄内では焼干しばかりだったと思う。
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