崎陽軒のシューマイは、なぜ 「シウマイ」 と表記される?
崎陽軒といえばシューマイだが、そのパッケージに表記されているのは「シューマイ」でも「シュウマイ」でもなく「シウマイ」というカタカナである(下の画像は崎陽軒のサイト直リンク)。「何故に『シウマイ』なのか?」ということについての「回答」(?)を近頃初めて知ったが、それがアヤシ過ぎるので、書かずにはいられなくなってしまった。
その「回答」(?)は、「気になるアレを大調査ニュース しらべえ」というサイトに載っている「崎陽軒のびっくりネタ 6選!なぜ 「シウマイ」と表記? シウマイ結婚式って?」 という記事の中で紹介されている。引用してみよう。
巷では諸説ウワサされているようですが、本当の理由は初代社長の「訛り」が中国語の発音に似ていたから。シウマイを横浜名物にした社長は栃木県出身で、「シュウマイ」と言おうとすると「シーマイ」になってしまったそうです。それを聞いた中国人に「とても発音がいいですね。中国のシュウマイの発音にすごく似ている」と褒められて、中国語に似せて商品名を「シウマイ」としました。
これ、当の崎陽軒でもそんなふうに言っているようなのだが、当事者が言ってるからと言って無条件に信じるのは危険すぎる。こうしたことに関しては、私はとりあえず疑ってかかる。
まず中国語の発音が本当に「シーマイ」に似ているのかということから検証してみよう。フツーは、中国語では「シャオマイ」に近い発音だと認識されているので、「本当かなあ?」と思いつつ、とりあえず Wikipedia に当たってみると次のようにある。(参照)
中華人民共和国の広州や香港では広東語で「シウマーイ」と発音されている。日本語は広東語の発音を外来語として取り入れている。北京語では「シャオマイ」と発音し、同音の「燒麥」の字を当てる場合がある。
なるほど、「しらべえ」の説に沿うならば、栃木県出身の社長の発音を褒めたのは、広州か広東出身の人ということになる。もしかしたら、香港の人だったかもしれない。
しかし、初代社長の栃木訛り発音とされる(これもかなりアヤシいといえばアヤシいのだが)「シーマイ」と、フツーの日本語「シューマイ」の 2つの発音を冷静に比較したら、どちらかといえば「シューマイ」の方が「シウマーイ」に近いと感じるのは、私だけではないだろう。とにかくいずれにしても「シーマイ説」はアヤシ過ぎるのである。
うじゃうじゃ言うのも面倒だから、あっさりと結論を書いてしまおう。崎陽軒が「シウマイ」の取り扱いを開始したのは戦前の話(上述の『しらべえ』のページによると、1928年とされている)だから、当時の日本語では「シューマイ」と発音される単語でも 「シウマイ」 と表記することになっていた。
それが旧仮名遣いの決まり。それだけの話で、余計な詮索をする必要なんてどこにもないのである。
例えば「州」という漢字に「しゅう」というルビを当てはめるようになったのは、戦後の話で、旧仮名では「しう」と書いていた。「秀」「周」「週」「醜」「囚」も「しう」である。「執」は「しふ」だが、それは中国から漢字が渡来した頃の本来の読みが、「しふ」に近かったためだろう。
「衆」は珍しく「しゆう」(「しゅう」ではない)だが、これは漢音より先に渡来した呉音による「衆生」という熟語が 「しゅうじょう」ではなく「しゅじょう」と発音される(旧仮名では「しじやう」)ように、「しゅう」と発音されることが少なかったので、「しう」 という仮名を当てはめるわけにいかなかったのだろう。ただ「しゅう」という発音の旧仮名表記で、圧倒的マジョリティは「しう」だ。
とまあこのように、戦前の日本語表記の慣習では、「シュウマイ」と発音されるものでも、仮名で書くときには「シウマイ」と表記するのがごく自然というか、当然のことだったのだ。敢えて奇をてらって「シウマイ」と表記したというわけではないのである。
敢えて言えば、「シューマイ」の漢字表記とされる「焼売」の「焼」という字の旧仮名表記は「せう」だから、機械的に読みを当てれば「セウマイ」が正しい。しかしさすがにその表記だと、当時はまだシューマイがそれほど普及していなかっただけに、文字通り「せうまい」あるいは「しょうまい」と発音されて、「ギョエテとは、わしがことかとゲーテ云い」みたいなことになってしまうところだった。
さらに当時は文献の文字情報としてよりも、「シウマーイ」だろうが「シャオマイ」だろうが、口語としての「音」優先で入って来て広まりつつあったのだろうから、表記として馴染みやすい「シウマイ」に落ち着いたのだろうと思われる。
で、崎陽軒は戦後になっても社の伝統に沿い「シウマイ」のロゴを変えずに採用しているのある。「どうして『シューマイ/シュウマイ』じゃなくて『シウマイ』なの?」という疑問は、初めてこのように表記された戦前には生じる余地がなく、戦後になって初めて出てきたのだと言うほかない。
余談だが、どじょう鍋で有名な「駒形どぜう」という江戸時代から続く店があるが、「泥鰌(ドジョウ)」の本来の旧仮名表記は「どぢやう」である。それを「どぜう」としたのは、文化 3年の大火で類焼した後、縁起のいい三文字(奇数文字)に変えたということらしい。
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コメント
表記は大事ですね。私ごとですが、表記間違いばかりしてしまいます。
私の性格上、崎陽幹のシュウマイにピンとこなかった。あたたかくなかったから、シウマイという表記に気づかなかった。
商売の儲けは、字数とか、いろいろ起因してるんでしょうね。s
投稿: bekao | 2015年2月19日 23:42
tak-shonaiさんごきげんよう~
こんにちは!
私などは、「シウマイ」の表記はあったりまえだのクラッカーですね。(古すぎ~)
これが疑問になるっていうのが不思議なくらいですものね。
もちろん私の小学校は戦後ですから今の時代の表記なんですが、
母などがそういう時代の人でしたから、強く影響を受けています。「困っちゃうわ」を、「困っちょうわ」なんてね。
でも、「ドジョウ」は、「どぢやう」ですか~~それはびっくりです~
もう、すっかり、「どぜう」かと思ってしまっていました~~はははははは・・
投稿: 朱鷺子 | 2015年2月20日 17:22
bekao さん:
>表記は大事ですね。私ごとですが、表記間違いばかりしてしまいます。
>私の性格上、崎陽幹のシュウマイにピンとこなかった。
なるほど。確かにそうですね。
投稿: tak | 2015年2月20日 19:46
tokiko さん:
>母などがそういう時代の人でしたから、強く影響を受けています。「困っちゃうわ」を、「困っちょうわ」なんてね。
なるほど (^o^)
Audrey を 「オードリー」 と読むのは、まさに納得ですね。
投稿: tak | 2015年2月20日 19:49
確か富士フイルムもフィルムじゃなく、フイルムでイが大きいです。
長音、促音?どっちでしたけ。いや違いますね。なんでも無いですか?
その辺は勉強不足ですが、お仕事の手伝いで富士フイルムに郵便物を送る時に、よく夫に注意されました。
投稿: keicoco | 2015年2月21日 17:03
keicoco さん:
確かに富士フイルムは、CM でも 「ふいるむ」 と発音されますね。
でも、キヤノンは 「きゃのん」 で、さすがに 「きやのん」 とは言わないようです。
投稿: tak | 2015年2月21日 20:18