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2015年3月24日

「聞き流すだけ」というおとぎ話

「英語の読み書きはバッチリでも、会話となるとちょっと……という人、多いですよね」というのは、かの有名な「聞き流すだけ」という英会話教材のラジオ CM の一節である。この教材は、そういう人にもオススメなのだそうだ。

しかしこの CM でわかるように、この教材は基本的に英語がわかっていない、というか、言葉ということのわかっていない人をだまして、高い金で売りつけるための商品としか思われない。というのは、「英語の読み書きはバッチリでも、会話となるとちょっと……という人」なんて、絶対に多くない。少なくとも、私はそんな人を一人も知らない。

「英語の読み書きはバッチリ」というのは、News Week とシェイクスピアをすらすら読みこなして、学位論文やビジネスレターを、機関銃の如き速さでタイプできるような人を言うのである。"This is a pen." を読んだり書いたりできるぐらいでは、「バッチリ」の「バ」の字にも及ばない。

とりあえず会話は度外視して、「英語の読み書きはバッチリ」という人だけをとってみても、日本人は当然ながら米国人でも少数派だ。それは「(まともな)日本語の読み書きはバッチリ」という日本人が少ないのと同様である。主語と述語の矛盾しない日本語の文章をきちんと書ける人は、そんなにいない。「読み書き」を馬鹿にしちゃいけないのである。

つまりこの教材は、その程度のことにすら思いが至らず、単に雰囲気でフラフラッとだまされてしまいやすい人をターゲットにした商品なのだと、考えざるを得ないのである。英語を聞き取る練習にだけなら、多分なるだろう。しかしほんの数ヶ月で英語が「口をついて出る」なんてことを期待しちゃいけない。

カーラジオを聞いていると、最近この教材には寝ながら聞き流しできる「枕スピーカー」というものが付いてくるという特典があると言っている。「枕スピーカーだと?」と、私は運転しながらこけそうになった。これって、既に「ピロースピーカー」という言い方が定着してる商品じゃないか。

「英語教材の CM で『枕スピーカー』だなんてちょっとなあ。『枕営業』じゃあるまいし」 と思っていたら。ある時期からしばらく、フツーに「ピロースピーカー」と言うようになった。ようやくまともになったと思っていると、近頃また「枕スピーカー」という言い方に逆戻りしている。

ここまで徹底されると、「ピロー」という言葉すら知らない人、つまり雰囲気だけで「英語をしゃべれたらカッコいいなあ」と思っている人に、ターゲットを明確に絞り込んでいるとしか思われない。"Pillow" が 「枕 であるとわかるまともな人は、そう簡単には引っかかってくれないから、ここは「枕スピーカー」と言っとく方が効果があるということなのだろう。

それからスピードラーニングを(…… あ、うっかり商品名を言っちゃった)聞き流したおかげで、ニュージーランドでホームステイした時に、ホストファミリーの言っていることがみんなわかったという体験も CM で紹介されている。しかしニュージーランド英語のアクセント(訛り)がかなり手強いことを知っている人は、こんなおとぎ話には決して引っかからない。

世の中には楽して金儲けができると思っている人が、少しだけいる。楽してダイエットできると思っている人は、それよりもちょっとだけ多くいる。もしかしたら 1日 5分聞き流すだけで、英会話ができるようになると思う人も、ダイエットの場合と同じぐらいいるのかもしれない。

 

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コメント

そもそも「1日5分聞き流す」のを「毎日」欠かさずやるのって、かなり大変だと思います。オレだけ?(^^;

投稿: 山辺響 | 2015年3月24日 13:26

海外放浪する前のしばらく、一日に3~4時間かけて
必死で英語のリスニング勉強してました。
決して「聞き流すだけ」では身につきません。
私の場合は読む方はかなり自信があったので
英文を必死で聞きつつ目で文字を追って
「この英文はこのように読まれる」というのを
いっぱい経験していき、その蓄積を増やすのが勉強でした。

あるとき、ラジオで流れる英語の曲の
歌詞の単語が拾えるようになってました。
そのためにかけた時間はおそらく300時間
以上ですね

投稿: 江草乗 | 2015年3月24日 15:18

たしかに、ニュージーランド訛りが大丈夫になるなら大した教材だと言えますね。

投稿: きっしー | 2015年3月24日 19:59

同感!
あの教材は20年前からあるそうですが。
誇大広告として今まで苦情もクレームがつかなかったのですかね~

毎日何度も聞かされても、いい加減うんざりです。

投稿: 宮田聡 | 2015年3月24日 22:24

山辺響 さん:

あなただけではないので、安心してください。
私もそう思うクチです ^^;)

投稿: tak | 2015年3月24日 23:05

江草乗 さん:

>そのためにかけた時間はおそらく300時間以上ですね

1日 5分間でそれをやろうとすると、3600日、つまり 10年近く。
スピードラーニングというのは、かなりロングスパンの教材ですね ^^;)

投稿: tak | 2015年3月24日 23:12

宮田聡 さん:

誇大広告ということに関しては、「人による」 ということで逃げられるんでしょうね。

この分野にも薬事法的なハードルがあれば、完全にアウトなんでしょうけど。

投稿: tak | 2015年3月24日 23:14

きっしー さん:

前に仕事でニュージーランドのおっさんの通訳やらされて、往生したことがありました。

早口でやられると、英語に聞こえなかったりします ^^;)

投稿: tak | 2015年3月24日 23:17

江草乗さんのようにしっかり勉強される方もいらっしゃるんだなぁ。しかし、確かに何か明確な期限付きの目標があって集中する方が「1日5分聞き流す」なんてのよりも実行できるのかもしれない……。

ラグビーファンの私としては、ニュージーランドやオーストラリア風の英語に特化した英語教材があったら是非やりたいと思っています(^^; そういえば先日、知人のバンドに新たに入ったギタリストがオーストラリア人で(他は全員日本人)、メンバー紹介されて「グッダイ、マイト!」と挨拶して、「あ、こいつネタにしているな」と(笑)

投稿: 山辺響 | 2015年3月26日 11:01

山辺響さん、ちょうどこんな記事(↓名前をクリックしてください)を書いたところです。よかったらどうぞ。
※takさん、掲示板みたいな利用をしてすみません。ご連絡がついたらこのコメントは削除していただいて結構です。

投稿: emi | 2015年3月28日 09:29

山辺響 さん:

前にもどこかで書いたような気がしますが、生まれて初めて会ったオーストラリア人に、「日曜日にレンタカー借りたい」と言われて、一瞬 「3台借りるの?」 と思ったことがあります ^^;)

『マイフェアレディ』の世界でした。

投稿: tak | 2015年3月28日 09:52

emi さん:

へえ、あるところにはあるものなんですね。
大したものだ。

投稿: tak | 2015年3月28日 09:53

emiさん、
どうもありがとうございます。これは楽しそう(^^)

takさん、
どうしてそこだけ日本語なの!?(笑)>3台


投稿: 山辺響 | 2015年3月30日 13:45

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