自衛隊が「わが軍」であることを巡る冒険
安倍首相が国会答弁でうっかり口を滑らせ、自衛隊を「わが軍」と言ったことが、ちょっとした波紋を呼んでいる。今朝のラジオ番組ではニュース解説者が「ちょっと前だったら、国会審議がストップしてしまうほどの問題発現」と言っていた。自衛隊は「自衛隊」であって、「軍」ではないという合意が形成されているからだそうだ。
しかし自衛隊って、どこからどう見ても「軍隊」だよね。あれをして「軍隊じゃない」なんていう人には、「じゃあ、軍隊って何なの?」と聞いてみたい。
自衛隊の英語の公式名称は "Japan Self-Defense Forces"(略称は JSDF)というのだそうだ。ちなみに "Forces" と複数形なのは 、Japan Ground Self-Defense Force (JGSDF: 陸上自衛隊)、Japan Maritime Self-Defense Force (JMSDF; 海上自衛隊)、Japan Air Self-Defense Force (JASDF: 航空自衛隊)を含む総称だからである。
で、"force" というのは 「威力、暴力、軍隊」といった意味の単語であり、"Japan Self-Defense Forces" はフツーに直訳すれば 「日本自己防衛軍」である。さらにフツーに考えれば自己防衛しない軍隊なんてあり得ないのだから、これはかなり妙な表現である。その妙な表現の解釈を無理くりに、「自己防衛しかしない軍隊」ということに落ち着かせているのが現状だ。
「あれはあくまでも『自衛隊』であって、『軍隊』じゃないんです」 なんていう妙な論理は、少なくとも実質的に国際共通語として機能している英語では、語ることができない。語ることができないから、日本人が日本人に対して日本語でどう言いくるめようとも、国際的には自衛隊は「軍隊」と認識されている。これは当然すぎるほど当然の事実である。軍隊以外の何だというのだ。
そしていくら「自己防衛しかしない軍隊」と言い張っても、憲法 9条は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と謳っているのだから、フツーに考えれば「武力を行使するための組織」である自衛隊は憲法違反であり、それを無理くりな解釈で合憲としているだけである。
自衛隊の存在を認めつつ「憲法 9条を守れ」というのは、自己矛盾も甚だしい。まともに考えれば、自衛隊を認めるならば、それだけで憲法 9条は改正しなければ辻褄が合わない。逆にどうしても憲法を守れというなら、自衛隊は解散しなければならないし、もし日本が他国に侵略されても、パルチザン的に抵抗することすら憲法違反になる。パルチザンだって、武力を使うのだから。
ちゃんと「隊」と言えば 「自衛隊」であって「軍隊」ではないから問題にしないが、その同じ組織を「軍」と表現してしまったら「軍隊」になってしまうから問題にせざるを得ないというアホな理屈こそ、まともな人間の考えることと思われない。
| 固定リンク
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 岸田首相のアドバンテージは「顔」というより・・・(2023.09.26)
- プリゴジンは死んでるのか、生きてるのか(2023.07.22)
- 米国の州ごとの人口が見える国旗デザイン(2023.07.09)
- 「民間軍事会社」とか「傭兵」とかいうもの(2023.07.03)
- 訳がわからない、ロシアとワグネルの「内戦?」(2023.06.25)
コメント
自衛隊は自己を防衛するだけで国民は守らないのかい。という突っ込みが出そうな名前ですが、Japan SelfーDefense Forcesには、そういう突っ込みが入るニュアンスはないのでしょうか?英語が不得手な私にはわからないので、教えていただけませんか?
投稿: basara10 | 2015年3月26日 07:15
英語はともかく「自らを守る盾」の「自ら」を「盾を持っている人」ではなく、「盾そのもの」と解釈する必要はないのでは?
総理の発言ですが、現行の憲法の下で「軍隊ではない」という「解釈」で成立させ運用させてきた自衛隊をどう位置付けるべきなのか、国民世論の反応によっては、(事後の官房長官の対応も含めて)エポックメイキング的な発言ともなり得るので失言かどうかは留保したいです。
投稿: tetoo | 2015年3月26日 09:33
翻訳の仕事をやっていると、海外メディアの報道で陸自をarmyだの海自をnavyだのと表現している例はいくらでも見ます。装備的にも規模的にも、どう見ても「軍」です。英語圏各国の「軍」も、総称としてはForce(s)ですし。
が、今回の首相(及び官房長官)の発言で問題なのは、公権力の長たるものが「建前」を無視するようになった、という点にあると思います。
道路の制限速度だって守っている人はほとんどいませんが(いたら却って迷惑な場合もあるし)、とはいえ警察署長が「制限速度なんて意味はない」と言ってはいかん、と。
投稿: 山辺響 | 2015年3月26日 11:28
basara10 さん:
Japan Self-Defense Forces ですから、「日本の国を自衛する」 ということになるでしょうね。
投稿: tak | 2015年3月26日 21:26
tetoo さん:
>英語はともかく「自らを守る盾」の「自ら」を「盾を持っている人」ではなく、「盾そのもの」と解釈する必要はないのでは?
おっしゃる意味がわかりません。
「『盾そのもの』を守る 『盾』 」 などというような論旨を。少なくとも私は言ったことも解釈したこともないし、そんな発言を聞いたこともないので。
投稿: tak | 2015年3月26日 21:33
山辺響 さん:
「憲法 9条なんて、建前なんだからさ」 という 「本音」 は、右も左も案外共通しているんですよね。
私としては、本当に9条を守りたいなら、本音としても貫かなければならないし、「どうせ建前」 ということなら、改正する法がスッキリすると思っています。
「国を守るためなら、命を捨てる覚悟がある」 という人と、「憲法を守るためなら、命を捨てる覚悟がある」 という人は、案外深い部分で共感し合えるんじゃないかなあ。
投稿: tak | 2015年3月26日 21:43
補足です。
盾の話はすぐ上のbasara10さんのコメント(「自衛隊は自己を防衛するだけで国民は守らないのかい。」という突っ込みが入りそうな名前では、という疑問)に対するものです。
わかりにくくてすいません。
投稿: tetoo | 2015年3月27日 00:11
tetoo さん:
なるほど、了解しました。
投稿: tak | 2015年3月27日 01:23
まぁ教条的左翼は分かりませんが(笑)、左でもまともな人は「9条」を守りたいのではなくて「平和」を守りたいんですよね。その点においてまともな「右」(あるいは保守)の人もそうであろうと思います。
で、平和を守る現実的な道として、建前としては9条を掲げつつ、保険として(あとアメリカにいろいろ言われたんで)自衛隊を用意しておいて、「9条と矛盾しているじゃないか」と言われたら「いやアレは軍隊じゃなくてゴニョゴニョ」とやっておくのが、手間はかかるけど、一番効果的……というのが戦後日本の選択だったのだと理解しています。
その「手間」がいろいろめんどくさくなっちゃったんだろうなぁ、最近は。でもたぶんこういうことはあんまりスッキリさせない方がいいんじゃないかと思うんですが。
投稿: 山辺響 | 2015年3月27日 16:23
山辺響 さん:
確かに。「ごにょごにょ」 の部分の手間がうっとうしくなって、「あぁ、すっきりしたい!」 という雰囲気が強くなりつつあるように思います。
私は基本的には改憲論者ですが、「本気で 9条守る」 というのなら、それはすごいことだと思ってるところもあるんですよね ^^;)
投稿: tak | 2015年3月27日 21:50