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2015年3月 3日

大塚家具の騒動を外野から眺めて

大塚家具という会社が創業者の身内同士でゴチャゴチャしているというニュースが、やたら流れている。私はこの会社にちっとも興味がないので、個人的にはどうでもいいことなのだが、改めてニュースを読むと、トラブルの元となっている経営方針というか、マーケティング方針の違いというのは、結構多くの企業にも当てはまる問題なんじゃないかと思った。

職人気質の創業社長が昔ながらの「いいものさえ作ったら売れる!」というコンセプトに固執し、高度成長期とバブルの時期にそれが実際の身の丈以上に売れすぎた結果、きちんとマーケティングしなければもたないぐらいの企業規模となる。バブル崩壊以後は企業規模が中途半端に大きすぎて、ドラスティックな改革も小回りを利かせた経営もできず、その結果、創業社長と二代目(あるいは三代目)社長の間で確執が生じる。

結構多くの企業で、いや企業だけではなく、農家などでも親父と息子が農業経営の方針で対立して口も利かなくなるなんていうのは、よく聞く話だ。大抵は大塚家具の場合と共通したパターンである。

私は大塚家具に関しては、新橋から有明方面に向かう「ゆりかもめ」の車内にあった吊り広告で見て、"IDC" というやたら大規模なショールーム兼ショップを運営している会社という認識しかなかった。今となっては古典的な販売システムである。コストがかかって大変だろうと思っていた。

そもそも "IDC" というのは、家具屋さんなんだから "Interior Design Center" かなんかの略かと思っていたが、当の大塚家具によると "International Design Center" なんだそうだ。なんだかなあ。

この会社の経営方針の対立というのは、創業社長が従来の会員制システム(といっても厳密なメンバーシップってわけじゃないらしいが)による「まとめ買い」主体の需要に対応しようとしているのに対し、娘がもっとオープンな単品買いにも対応したマーケティングに転換しようとしたのが発端らしい。

これ、外部からみてもなかなか難しい問題である。中間所得層がちょっとがんばれば見た目の麗しい「中の上」か「上の下」クラスの家具をまとめ買いできた時代は終わってしまい、市場は「ステイタス・シンボル」を求めるお金持ちと、「安くてそこそこの品物」で満足するフツーの貧乏人とに二極化している。大塚家具のプライス・ゾーンは、このどっちでもない中途半端なところなのだろう。

高度成長期とその後しばらくは、日本において最も成長していたセクターは、この「中途半端なところ」の品物を供給する企業だった。安くもないけど、メチャクチャ高くもなく、デザイン面ではちょっとダサさも感じさせるが、ディテールに関してはヨーロッパの高級品に迫る技術で作られているというのが、多くの日本製品の売り物だったのである。

大塚家具の商品も、多分そうしたものなのだろう。つまり「そこそこの値段の、無難で良質な家具」というコンセプトが売り物というイメージが強い。だが、今やそのレンジの商品の市場規模は、見る影もなく縮小してしまった。

私としても、家具なんてニトリかイケアで買えば十分と思っている。その中にほんの何点か、ちょっとこだわりの「いいもの」を混ぜておけば、十分満足だ。すべて大塚家具で取り揃えて、自分の家の中をよくある「ちょっとした小金持ち」のインテリアにしてしまおうとは、絶対に思わない。

そもそも「一生モノの家具、代々伝えられる家具なんてものを高い金を出して買ったとしても、子孫がそれを喜んで受け継いでくれるとも限らない。豪勢な嫁入り道具を持たされたが、マンションの部屋に入りきれなくて(というより、本当のところは新婚夫婦の趣味に合わなくて)、実家に送り返して蔵に眠らせているなんて話をあちこちで聞くにつけても、トゥーマッチなモノを所有するのはリスクである。それが国宝級のお宝とでもいうなら、別のリスクのお話になるが。

大塚家具という会社は、高度成長期の日本に最適化して伸びてしまったから、今になって体質改善に苦労しているという典型的な例なんだろう。従来手法を維持するにしても、新しいマーケティングを採用するにしても、多分どちらの道も多くは望めないだろうと思う。いっそ高級ゾーンと普及ゾーンの 2つのマーケットに対応するために、分社してしまえばいいのに。

 

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コメント

「いっそ高級ゾーンと普及ゾーンの
 2つのマーケットに対応するために、分社してしまえばいいのに。」

そうですよね。
この騒動を知ったとき、
「IDC-2」でも何でもいいから、ターゲットを分けた店を作ればすむじゃんと思いました。

なんでそんな発想ができないのか、不思議です。

投稿: さくら | 2015年3月 3日 20:58

さくら さん:

そうですね。会社を分けてしまえば、それぞれ適正規模の小回りの利く体質にしやすいだろうと思うんですがね。

投稿: tak | 2015年3月 3日 22:05

>「分社」

失礼ですが、このお父様にそのような選択肢はありえないように見受けられます。

「『私の』作った会社、『私の』可愛い社員・・・」という絶対的発想の上に立った考え方しかおできにならないようなので。

今のマーケット事情に合わせて生き残るために「2分化する」というような柔軟な考え方ができるようならば、そもそもこのような騒動にはならないかと。

現実に目を向けられず、頑なな思いだけで自己を貫き続ければ、結果は目に見えているので、何だかお気の毒にさえ感じられます。

投稿: KRT | 2015年3月 4日 12:43

KRT さん:

この会社は、社長以外は 「変わりたくない」という意思で固まっているように見受けられますね。

分社がいやなら事業部制にするという手もありますが、ここまで来ると社内で足の引っ張り合いになりそうです。

投稿: tak | 2015年3月 4日 20:41

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