どんなにバタ臭くても「邦楽」なのは、思い切りドメスティックだからなのね
5年近く前に書いた "「邦楽」 と 「洋楽」" という記事で、日本のロックやなんやらが「邦楽」というジャンルに分けられていることに、思いっきり違和感を示した。「邦楽なんていってるけど、どう見ても(聞いても)洋楽じゃん!」 と思っていたのだ。私にとっての「邦楽」とは、長唄とか清元とかいった類いのものなのである。
昔 NHK テレビに「邦楽百選」というのがあった。今は「邦楽のひととき」という番組になっているようだが、そこでは謡曲とか長唄とかが流れている。それこそが、私にとっての邦楽なのだが、今は何ということか、「純邦楽」なんていわれるらしい。ということは、残りは「不純邦楽」である。
そんなこんなで私も認識が少しずつ柔らかくなって、昨年 4月には "なるほど、日本のロックは「邦楽」なのかもしれない" と、やや理解を示す記事を書いたのである。作りとしてはまごう事なき洋楽なのだけれど、その演奏を聴くとやっぱり、本場のロックとは違ったものに聞こえるのである。「和風」ってわけではないが、どう聞いても「日本的」なのだ。なるほど、これは「邦楽」なのかもしれんなあというわけだ。
で、今回さらに理解を示そうと思ったのは、「なるほど、日本のロックは『邦楽』以外の何者でもない」と、しみじみ思ったからである。というのは、「洋楽/邦楽」というこれほどまでに無意味に思われるなジャンル分けが実効的であるということは、私が思ってきたほど無意味じゃないと気付いたのである。
そう気付くきっかけとなったのは、もし日系二世の米国人が慣れない日本語で作詩し、生粋の日本人が作曲し、黒人と白人の米国人の中に日本人ボーカリストが 1人混じったバンドが演奏し、米国のレーベルからリリースされた曲は、洋楽だろうか、邦楽だろうかと考えてみたことである。はてさて、どっちなんだろう。
しばらく考えてみて、「そんなことを考えても意味がない」と気付いた。そんなこと、現状ではあり得ないからである。宇多田ヒカルが一時、米国で活動したりしていたが、あれは「特殊ケース」である。あれについて「邦楽か洋楽か」なんて、誰も問題にしなかった。問題にする必要がないほどのレアケースだったのである。
あんなようなレアケースを別として、日本人のロックを「邦楽」というジャンルに閉じ込めるカテゴライゼーションがしっかり実効的であるということは、要するに、日本のロックが思い切りドメスティックであることの証左であると気付いたのだ。
日本人が作って演奏して、日本の会社からリリースして、日本人がプロモートして、日本人が買って、日本のメディアでしか流れないのだから、思いっきり日本だけで完結している。なるほど、ドメスティックな「邦楽」である。
多少は周辺のアジア諸国やヨーロッパのカウンター・カルチャーの世界に漏れ出している部分もあるらしいが、メインストリームとしては、こんなにまでドメスティックなやり方だけで商売になってきたのだから、「邦楽」でいいのである。
ただし今後日本の市場が縮小して、日本のロックが意識的に外国の市場に意識的に打って出なければならない事態になったら、「邦楽」 なんて馬鹿なことは言っていられない。その時になって "Japanese Rock" なんていうジャンルが(一時の "British Rock" みたいに)国際的に認知されることがあるかもしれないが、それはドメスティックに完結する「邦楽」とは別物になっていなければならないはずである。
今のままの「邦楽を、ある種の際物扱いにするなら話は別だが。
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コメント
tak-shonaiさんごきげんよう~おはようございます~
昨年、テレビで見たお話です。
日本で活躍しているロックミュージシャンがアメリカに渡って、現地の方々とセッションをすることになったのですが、
どうしても微妙なリズムが違って、うまく融合できなくて、苦戦をしいられていました。全く純粋なロックミュージックをしていても、日本人のリズムは、それなりに日本人なんでしょうかね?驚きました。
投稿: 朱鷺子 | 2015年3月 6日 08:10
tokiko さん:
米国のロック・ミュージシャンは、ベースとしてブルースとカントリー・ミュージックがあるんですよね。
日本のロック・ミュージシャンは、たいてい演歌から離れようとしていますが、実は離れ切れません。日本のロックの多くは、演歌にアレンジしやすいというか、一皮剥けばもろに演歌だったりします。
日本の演歌にあたるのが、米国ではブルースやカントリー・ミュージックで、ロックはそこに根を張ってるからこそ、強いんですよね。
日本のロックはその意味で、浮き草っぽいんです。自分のベースを否定して、ロック本来のベースには馴染んでいないんです。
投稿: tak | 2015年3月 6日 16:10