英語の達人が使っている辞書には、共通した傾向がある
2020年に東京オリンピックが開催されることになり、国際化は嫌でも進展し、外国人との付き合いが増えていく世の中で、「英語ぐらいはしゃべれるようになりたい」という日本人が増えている。英語熱が高まるのは、戦後幾たびか繰り返されてきた熱病のようなものだが、その割にはこの国の人には英語はなかなか身に付かない。
ところが私の友人には、「英語の達人」と言われる人が何人かいる。私とてその昔、あるビジネス系の英語学校の検定で、「海外の法人で現地採用の社員を使いこなし、マネジメントできるレベルの英語力をもっている」とのお墨付きをいただいたことがあるが、その私が舌を巻くほどの英語力の、超レアな日本人がいて、手に負えない難しい英語に遭遇した時など、私は迷うことなく彼らに手助けを頼むことにしている。
彼らが英語が得意になった経緯を聞くと実に様々で、「この方法で勉強すれば英語の達人になれる」という決まり切った方程式みたいなものは存在しないと思う。しかし最近、私は英語の達人たちに共通する傾向に気付いた。
「この方法で勉強すれば」という確実な「方程式」はないが、その代わり「英語に関してこんなような態度を保持すれば、英語の方から自然に馴染んできて、結果的に英語の達人になる」というような「法則」みたいなものがあるようなのだ。
ビジネス書から小説にいたるまで、英語の原書を年間 200冊以上読みこなすという J 氏は。日本語の本より英語の本を読むスピードの方が確実に速いというぐらいの達人である。米国人とジョークを言い合って大笑いしたり、逆に火の出るような論争をしている現場に遭遇したこともある。
その彼のオフィスを訪ねた際に、私は彼が辞書をとても大切にしていることに気付いた。彼の書棚には英語の辞書が20冊以上並んでいて、それが皆ピカピカに綺麗なのである。背表紙の金文字がかすれているなんていうのは、1冊もない。
「僕は辞書は常にピカピカでないと気が済まないんだよね」と、彼は言う。彼は安物の携帯版英和辞書なんか手にしない。常にハードカバーの英語辞書(いわゆる 「英英辞書」)を使う。しかもちょっと手垢で汚れてくると惜しげもなく人にあげて、新品の辞書を買う。そしてその辞書は、マホガニー製の書棚の最上段に誇らしげに並べる。
「このくらい英語を大切にしているから、英語の方で寄ってくるんだと思う」と、彼は自信満々に言うのである。「英語にお金をかけているから、英語がお金を生んでくれる」と言いたげだ。
それに気付いたのをきっかけに、知り合いの英語の達人にずらりと聞きまくってみると、異口同音に「辞書はいつも新品にしている」「改訂版が出る度に買い換える」という返事が返ってきた。J氏のように、書棚に一流の英語辞書が 20冊も並んでいるとはいかないまでも、例外なく「汚れた辞書なんか使っていると、英語運が逃げていく」と言うのである。
さらに私が「最近は紙の辞書なんか使わないで、iPhone の辞書オンリーなんだけど」というと、「そんなことだから、君の英語力はその程度で停まってしまって、それ以上進歩しないんだ」と責められた。余計なお世話だと思ったが、知り合いの英語の達人は、ことごとくそう言うのだから、これは何かありそうだと思うようになった。
どうやら「英語は英語を愛して大切にしている人、英語が好きでたまらない人のところに寄ってくる」傾向があるらしい。その象徴が一流の辞書であり、一流の辞書のある環境でこそ英語は本当に身に付くもののようなのである。
私みたいに 「英語は必要に迫られて使っているので、辞書は iPhone のアプリで十分」(といっても、それなりの値段の有料アプリを入れてるんだけどね)という程度では、「英語が逃げていってしまう」ようなのである。(そんなに遠くまで逃げられているとも思わないが)
「君も騙されたと思って、一流の英語辞書を買って、改訂版が出る度に買い換えるといい。そうすれば英語が英語を呼んで、気付いた時には英語の達人と言われるようになっているさ」と、J 氏はこっそりと秘伝を伝えるように言うのである。しかし私ももう還暦を過ぎてしまっているので、遅いだろうなあ。
【4月 2日 追記】
恐れ入ります。これは恒例のエイプリルフール・ネタですので、真に受けないよう、よろしくお願いいたします。詳しい種明かしは、4月 2日付の記事をご覧ください。
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コメント
このエントリーは大変に面白かったです。
投稿: トモタカ | 2015年4月 1日 01:48
おはようございます。
英語の習得と言うと、中学、高校、大学と学んできたにもかかわらず、未だに難航いたしております。
習得することを強く念頭に置き、「聞き流すだけ」ということのないよう、奮闘努力いたします。
へ〜、そうなんや〜!
投稿: 乙痴庵 | 2015年4月 1日 09:49
私はこの四半世紀というもの翻訳に携わっているのですが、たまたまの流れで就いた仕事でもあり、英文和訳しかできないこともあり(和文英訳や会話はきちんと勉強したこともない)、ぜんぜん、達人と呼べるレベルには至っておりません。したがって、この記事に書かれている辞書云々についても耳が痛い限り……(;_;)
最近ようやく、英文和訳のときの英英辞典のありがたさを痛感するようになったくらい(笑)
投稿: 山辺響 | 2015年4月 1日 10:21
慌ててBlack's law dictionaryをキャビネットから取り出しました。嵩張るので、最下段の一番奥に仕舞っていたため、まったく使わなくなっていました。いいきっかけになりました。ありがとうございます。
より肖りたいのでご質問させていただくのですが、その達人の方々は、辞書の中身もぴかぴかなのでしょうか。汚したら人に譲ってしまうということですので、アンダーラインなど絶対に引かないのかしら。。
それに、辞書に美意識を持つとなれば、並装版と特装版の選択肢がある場合には、特装版を選ばなければならないのでしょうね。ここもまたハードルが高いところです。
どうでもいい話ですが、海外のハードカバーの専門書・専門辞書なんかには、バーコードシールが無造作にペタッと貼り付けてあったりしますね。1万円を超えるようなものでも容赦なく、しかも、綺麗に剥がせない種類のものばかり。辞書をピカピカに保つための難関の一つかと思います。いま、取り出した辞書を見ていて、妙に気になったので剥がしてみたところ、見事に失敗し、達人を目指すなら買いなおしかと冷や汗をかいております。
私も英文に触れる機会は多い方かと思いますが、辞書を引く機会は激減しています。webや端末で英語に触れる時に、コピー&ペーストでの検索があまりに手軽だからだと思います。web辞書ならば、検索履歴も残って便利だからなどと利点(言い訳の要素)も豊富です。
ただ、分からない単語や表現に直面し、意味を調べる時というのは、知識吸収についてのモチベーションも高く、学びのチャンスですので、格調高い英英辞書に当たることは省略してはいけないところなのでしょうね。
投稿: としお | 2015年4月 1日 11:49
ご無沙汰です。
毎年、この日を楽しみにしています。
投稿: ヒロ | 2015年4月 1日 19:58
コメントをくださった皆様:
恐縮です。日付が変わるまでは何ともレスしかねます。
乙痴庵さんとヒロさんは、確実に勘づいておられるようですが ^^;)
投稿: tak | 2015年4月 1日 22:43