インターネットは、脳みその外付け記憶装置
IT Media ニュースに "ネット検索は「自分は賢い」と錯覚させる 米研究" という記事が載った。4月 1日付だが、まんざらエイプリルフール・ネタでもなさそうだ。「ネット検索は、ネット上の知識と自分の知識を混同させてしまうことで、実際以上に自分が賢いと錯覚させてしまう可能性がある」というのである。
去年の夏に 「スマホ普及率と、日本の平和」という記事で、 「ちょっと疑問に感じたら、(スマホで)その場でググってしまわないと、気持ち悪くて眠れない」と書いてしまった私にとって、これは由々しき問題である。調べないと眠れない体になってしまったからといって、「実際以上に自分が賢いと錯覚」なんかする勘違い人間に自分がなっていたとしたら、逆に気持ち悪くて眠れなくなってしまう。
眠れなくなってしまっては困るので、この研究成果はどんな実験でもたらされたのか知るために、記事の中身をよく読んでみた。するとこんなふうに書いてある。
ある実験では、対象者をネット検索を使ってもいいグループとそうではないグループに分け、「ジッパーはどういう仕組み?」といった4つの質問に答えてもらった。その上で、4つの質問とは無関係な別の質問(「曇りの夜はなぜ暖かい?」など)を示したところ、ネット検索を使ってもいいグループは、そうではないグループに比べ「自分はその質問に答える能力がある」と考える傾向にあったという。
検索を使ってもいいグループは、容易には検索できないような難しい問題や、フィルターによって回答が検索できない質問をされた時でも、「自分の知識は十分にあると感じる傾向」を示したという。「“検索モード”時の認知作用はとても強力で、検索で何も見つからなかった時でさえ、人々は自分を賢く感じているようだ」と、研究者は結論づけている。
ふぅん、これってどうやら、「ネット検索をしていると(脳が "検索モード" に入ってしまうと)、『自分は賢い』と錯覚する状態になりやすい」ってことを言いたいのであり、「ネットで検索しないと眠れなくなってしまう」という私みたいな人間が、常々「自分は実際以上に賢い」とゴーマンにも思い込んでいるというようなことを言っているわけではないようなのだね。
確かにビミョーに違う。少し安心したのである。私がちょっと疑問にぶち当たるとすぐにググって調べてみないと気が済まないのは、「なんでこんなこと知らないで、今まで済ませてきたんだ?」とばかりに、自分の無知さ加減にムカついてしまうからなのだ。いわば「脱・無知」の欲求、つまり「欠乏を満たしたい欲求」からの傾向のようなのである。
で、満足した調べがつくと「ああ、これで一つ賢くなれた」とは思うが、「自分は実際以上に賢い」と勘違いするってことは、基本的にない。「本当にないよな?」と重ねて自分に問いかけてみても、確かに「うん、ない」と答えることができる。だって、まだまだ知らないことだらけと自覚しているからね。
記事によると、研究者は「インターネットでは、『自分が知っていること』と、『自分が知っていると思っていること』の線引きがあいまいになってしまう」と述べているという。これは確かに、私のような「ググりたがり屋」が心して気をつけなければならないことだろう。
しかし私としては、ここで敢えて少し見方を変えてみたいと思うのである。ネット検索で知見を得ることによる「錯覚」を 「陥りやすい罠」として捉えるのではなく、逆に、これこそインターネット時代のアドバンテージと考えることもできるのではないか。
インターネット時代がここまで進展すると、人間の思考もネット対応する方が自然というものである。つまり、インターネットに蓄積された膨大なデータを、自分の脳にとっての「外付け記憶装置」として機能させてもいい時代になりつつあるんじゃなかろうか。ものすごく巨大なハードディスクみたいな外部記憶装置を、自分の脳に接続させたようなものである。
この外部記憶装置はまだまだ発展途上なので、その取り扱いについては十分な注意が必要だが、「自分が知っていること」という概念の定義は、昔と比べたら少し変化して当然だろう。「検索によって容易に得られ、そしてきちんと活用できる知識」は、「準・自分が知っていること」として位置付けてもいい時代になりつつあると言っても、それはあながち傲慢ではなかろう。
インターネットの思想って、そうしたレベルまで深め、高められてもいいんじゃないか。だって、元々そうしたことまでを目指して構築されてきたものなんじゃないのか、このインターネットというシステムは。
もちろん、インターネット上で得られる知見は、それを十分にこなせるバックグラウンドが自分になければ、単なる付焼き刃に終わってしまうが、それは検索を繰り返すプロセスで身についていくと期待してもいいと思うのである。何事もトレーニングが必要だ。
ちょっとだけ自慢げに言わせてもらうと、私はこのことに 20年近く前から気付いていた。そしてそれに関連して 13年前に書いた文章が、私の本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」 の中に残されている。"コンピュータは 「脳みその大腸菌」" というテキストである。お時間があれば、読んでみていただきたい。
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コメント
リビングのテーブルに MacBook を常備する前は、
手の届く範囲に辞書を数冊置いていました。
(あっ、常備って変かな?)
新聞や T.V. で、「ん?」と思った用語や言葉の使い方など、
即、調べないと気が済まないのです。
ネットで調べるようになったら、芋づる式になってしまって、
私も「ググりたがり屋」ですねぇ。
投稿: さくら | 2015年4月 4日 21:16
さくら さん:
やっぱり、脳みそに外付けディスクを接続させているクチですね (^o^)
投稿: tak | 2015年4月 4日 21:51