妙な日本語を使っちゃっても、自分で気持ち悪くならない人
「日本語の上手な人は、絵の上手な人よりずっと少ない」という記事を先月 25日に書いたが、Twitter でまさにそれを確認させるような tweet があって、一部で話題になった。Shichinohetowada さんという方の「文法的に何か違うような気がする真鶴駅」というもので、下の画像が添えられている。
料金を示す路線図の下に書いてある注意書きは、こんなようなテキストだ。
新幹線経由で、横浜線内の乗車券をお求めのお客様はご迷惑ですが、係員まで申し出下さい
普通の感覚なら、一読しただけで「はぁ?」となってしまう。この日本語は、「文法的な誤り」を修正したらまともになるというような、生半可なレベルじゃない。とにかく根本からひどい。
まともな日本語を書ける日本人というのは、かくの如く本当に少ないのである。この表示を書いた駅員は、当然ながら言いたいことの内容は自分ではわかっているのだろう。しかし自分でわかっていることを、他人にもわかりやすいテキストとして表現することができていない。
で、この表示のココロを推し量ると、「当真鶴駅から、横浜線内のいずれかの駅に、新幹線経由で行きたい場合は、乗車券の経路の設定がちょっと複雑になる(多分、東海道本線で小田原駅まで出て、そこで新幹線「こだま」に乗り換え、新横浜まで行って横浜線に乗り換えることになる)ので、とりあえず係員に申し出てくれ」ってことなのだろう。
この解釈が正しいと仮定して(ほぼ確実に正しいと思うけど)、僭越ながら表示のめちゃくちゃな日本語を添削させてもらうとすると、次のようになる。
当駅から新幹線経由で横浜線内の駅まで行かれる方は、乗車券をお求めの際、係員にお申し出ください。
これで十分だ。原文の「ご迷惑ですが」というアヤシい一言の真意を尊重するとすれば、後半部分に「恐縮ですが」の一言を添えて、「恐縮ですが係員にお申し出ください」 とすればいい。「ご迷惑ですが」では、ぶちこわしだ。
私の 2007年 8月 31日の記事に、「社員教育としての日本語検定」というのがあり、その中で、銀行の ATM の横の張り紙について書いている。その張り紙には 「明細票はご持参ください」 とあった。
どういう意味かと、そばにいた案内係のオジサンに聞くと、「明細票を屑篭にお捨てになりますと、拾われて犯罪に使われたりすることがございますので、ご持参くださいということなんです」 と、慇懃無礼なほど丁寧に言う。「どの窓口に持参するの?」 と重ねて聞くと、「ご自宅とか会社まで、ご持参いただきたいんです」 ときた。
この人、「持参」 という言葉の使い方がわかっていない。「ご持参ください」 と言ったら、要するに 「持って参れ」、つまり 「持って来い」 ということになる (注: 文末参照) なのだが、彼としては 「持ち運ぶ」 の丁寧語だろうぐらいに思っているようなのだ。その誤りを説明してあげたのだが、どうもよくわかっていないようだった。みずほ銀行も、(あ、言っちゃった)この程度なのかね。
しかし翌週に行くと、さすがに「明細票はお持ち帰りください」という貼り紙に差し替えられて、一件落着となっていた。さんざん悩んだ挙げ句に、誰かまともな日本語のできる同僚に相談したんだろうね。まあ、最近では手を突っ込めないようなスリット型のくずかごに変わって、こんな張り紙は不要になっているが。
というわけで、妙な日本語を使っちゃっても自分で気持ち悪くなったりしない人が、世の中には結構いるということなのである。周りを気持ち悪くさせちゃうから、実はちょっと「ご迷惑」なんだけどね。
ちなみに、この時期だから言っちゃうけど、「気持ちの悪い日本語」 の最たるものは、公職選挙法第141条の3の 「選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない」 という条文だと思うのだよね。日本一シュールな法律条文である。選挙運動をすることはできないが、連呼は OK なんだそうだよ(参照)。
* 自分を主語にして「持参する」 と言ったら、「持って行く」 ということになるが、他人に対して「どこそこに」という補語なしに 「持参せよ」と言ったら、フツーは「持ってこい」ということになる。念のため。
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コメント
なるほど、これは一瞬、凍りつきますな~。
かの内田百間氏は困窮時代、某社の社内文書添削係をしてしのいだらしいですが、ある程度大きな会社なら、そういう(第三者的な)人が必要ではないですかね。
もし必要でしたら私にお声かけください(おいこら)。
投稿: 萩原下衆兵衛 | 2015年4月10日 10:59
できるだけ字数を変えずにいくなら、「お手数ですが」かなぁ。だとしても、「お客様は、お手数ですが係員まで」と切りたい。「迷惑」を使いたいなら「ご迷惑をおかけしますが」? でも、そもそも「迷惑」ってのも違うような。
投稿: 山辺響 | 2015年4月10日 11:17
萩原下衆兵衛 さん:
>ある程度大きな会社なら、そういう(第三者的な)人が必要ではないですかね。
社内でチェックする機能が必要でしょうね。必要がありますね。広報部内に 「構内表示チェック担当」 みたいなのを設けて。
とはいえ、担当者が気持ち悪くならない人だったりすると、どうしようもないです。大手広告代理店を通したポスターなんかでも、時々 「はぁ?」 ってコピーがありますから。
投稿: tak | 2015年4月10日 11:29
山辺響 さん:
>できるだけ字数を変えずにいくなら、「お手数ですが」かなぁ。
なるほど、「お手数ですが」 の方が言葉としてこなれてますね。
しかしもしかししたら、慣れない人にはとっては、自動販売機で新幹線の乗車駅と降車駅を選択して特急券を購入すると同時に乗車券も購入するという手順の方が、ずっと 「お手数」 かも知れません。
さらに推し量ると、自動販売機の前で往生してしまっているお客をしょっちゅう救出する駅員にとっては、こんな事態は 「ご迷惑」 以外の何ものでもないので、初めから 「自力で買うなんて考えずに、駅員に言ってきてくれ」 ってことなんだろうなと、気付きました。
投稿: tak | 2015年4月10日 11:42
>妙な日本語を使われて気持ち悪くなる
ほっとしました。私だけじゃないんだとわかって。
このようなことが日常的にあふれています。とある商品の説明書きにも酷い日本語が使われていました。たまたま一緒にいた義姉に「これって酷いと思いません?」と言ったら、「言わんとしていることはわかるから別にいいんじゃない?杓子定規に考えない方がいいのでは?。」と言われ、ショックでした。私って「杓子定規過ぎるのか。」と。
やはり、正しい日本語を使いたいし、使っていただきたいですね。
投稿: KRT | 2015年4月10日 22:05
KRT さん:
お義姉さんに、「一応、目が二つあって、鼻の穴も二つあって、口が一つあって、ものが見えて、息ができて、美味しいものが食べられるんだから、いいじゃないですか。化粧なんかしなくても」 って、言ってあげましょう。
投稿: tak | 2015年4月11日 01:56
気持ちは悪くならないですが、いつも見るたびに クスッと笑ってしまうのが、
「業務用トイレットペーパー」
いったいどんな業務に使うんでしょうか。
投稿: Sam.Y | 2015年4月12日 18:41
Sam.Y さん:
あれは、「家庭用」と差別化してるんだと思います。
我が家では要らん要素のないシンプルな業務用を愛用してます (^o^)
投稿: tak | 2015年4月13日 11:16