「日本三大火防神社」の謎
茨城県の笠間市というところに、愛宕山という山がある。標高 300m 余りの、英語なら "mountain" ではなく "hill" と言わなければならない程度の山なのだが、頂上に愛宕神社というちょっと大きな神社がある、
この神社は創建が 1200年以上前の大同元年(806年)と伝えられ、かなり由緒がある。火伏せの霊験があると伝えられ、看板には「日本三大火防神社のひとつ」と記されている。立派なものである。
「日本三大火防神社」 というからには、「じゃあ、残る 2つはどこなんだ?」 と思うのは当然だ。しかしどうも合点がいかない。どうググっても、「日本三大火防神社のひとつ」 と高らかに訴求しているのはこの笠間の愛宕神社のみで、他の 2つは見当たらないのである。
ようやく見つけた「日本三大チョメチョメ」を集めた「お国自慢 旅の心」というサイトの「2 神社、寺院、宗教」というページに、「日本火防三山 日本三大火防神社」という項目があり、そこには「愛宕神社(岩間町・茨城)、秋葉神社(春野町・静岡)」の 2社が挙げられている。おいおい、「日本火防三山 日本三大火防神社」 なのに、2つしかないとは、どういうことなんだ?
(ちなみに (岩間町・茨城) というのは古い情報で、今は友部町と合併して笠間市になっており、静岡県春野町も、今は浜松市に併合されている)
ここで挙げられたもう一つの方の 静岡県浜松市の秋葉神社のサイトをみると、正式な名称は「秋葉山本宮秋葉神社」となっており、創建は笠間の愛宕神社よりさらに古い和銅 2年(西暦 709年)とある。その上「火伏せの神として知られる全国の秋葉神社の総本宮」というから、こっちの方が格が高そうだ。
しかしサイトをざっとみたところでは、「日本三大火防神社のひとつ」などとは謳っていない。「秋葉神社の総本宮」という唯一の存在なんだから、別に「三大何とか」なんていう称号は不必要なのかもしれない。「オンリー・ワン」は「ベスト・スリー」なんて目じゃないみたいなのだ。
こうなると、「日本三大火防神社のひとつ」 という謳い文句は、笠間の愛宕神社の独り相撲なのかもしれないという気がしてきた。しかしそうさせないために、強いて「残る 1つ」を挙げるとすれば、京都市右京区の愛宕山にある愛宕神社あたりがいいかもしれない。
この愛宕神社は落語の『愛宕山』の舞台にもなっており、「全国に約900社ある愛宕神社の総本社」ともいうから、格的には十分である。「愛宕の三つ参り」として、3歳までに参拝すると一生火事に遭わないと言われる(参照)。むしろそうなると、笠間の愛宕神社が一番見劣りしてしまうぐらいのものだ。
しかしこの問題は、なかなか一筋縄ではいかない。愛宕神社の総元締めということになると、同じ京都府の亀岡市にある愛宕神社も名乗りを上げる。Wikipedia によると、「社伝では愛宕山の愛宕神社(京都府京都市)は当社からの勧請とし、そのため「元愛宕」や「愛宕の本宮」とも称される」とあり(参照)、こちらでも「愛宕の三つ参り」の謂われがある。どうやら「本家」の他に「元祖」があるみたいな様相なのだ。
となると、こっちも入れたら「三大」ではなく「四大」にしなければならなくなる。もしかしたら、この辺りの複雑な事情もあって、「日本三大火防神社」は 2つしか挙げられていないという変則事態が生じたのかもしれない。
ちなみに、笠間市の愛宕神社は「悪態祭り」という祭りでも有名らしい。古くから愛宕山に住み着く「十三天狗」に扮した人たちに、ひたすら悪態というか、罵声を浴びせる祭りなのだという。しかしこれがまた面倒なことに、「日本三大奇祭」の一つを自称しているのだ。
「またかよ、笠間市ってところは 『日本三大稲荷の一つ、笠間稲荷』もあるし、よっぽど『日本三大チョメチョメ』の好きなところだなあ」 と思いながらググってみると、とんでもないことになっている。「日本三大奇祭」 は 3つどころじゃないのだ。以下、Wikipedia の「日本三大一覧」から引用する。
御柱祭(長野県諏訪市、諏訪大社)、なまはげ(秋田県男鹿市)、吉田の火祭(山梨県富士吉田市、北口本宮冨士浅間神社)
その他諸説として、島田帯祭(静岡県島田市)、会陽(裸祭り)(岡山県岡山市、西大寺)、黒石寺蘇民祭(裸祭り)(岩手県奥州市、黒石寺)、吉良川の御田祭(高知県室戸市、御田八幡宮)、鍋冠祭(滋賀県米原市、筑摩神社)、裸押合大祭(新潟県南魚沼市、普光寺毘沙門堂)、悪態まつり(茨城県笠間市、愛宕神社)
なんと悪態祭りは、「諸説」あるうちでも最後に挙げられている。なんだかなあ。しかし、神社としてのありがたさには変わりないので、きちんと参拝させていただいた。
ちなみに Wikipedia の「稲荷神」によると、「日本三大稲荷」も、京都の伏見稲荷を別格として、それ以外は諸説あるのだという。私は、伏見稲荷、豊川稲荷、笠間稲荷だと思っていたので、ますますわけがわからなくなってしまったのである。
| 固定リンク
「比較文化・フォークロア」カテゴリの記事
- 「宮型霊柩車」を巡る冒険(2023.03.23)
- 「楽しい」の語源が「手伸し」ということ(2023.03.01)
- 世界の「よいしょ、どっこいしょ!」(2023.02.25)
- 節分行事の鬼が怖くて、保育園に行きたがらない子(2023.02.05)
- 理髪店の「あめんぼう」を巡る冒険(2023.01.27)
コメント
久しぶりにコメントします。
私は京都の愛宕神社の「火迺要慎」のお札を見て育ちました。
家内の実家(京都です)でも行きつけの飲食店でもレストランの厨房でも、京都とその周辺では殆どの台所や厨房で見かけました。
関西圏では商売の伏見稲荷、勝負の石清水八幡宮、火防の愛宕山は欠かせない存在と思っています。
投稿: ちくりん | 2015年6月19日 12:38
ちくりん さん:
京都で 「火迺要慎」 というのは、確かによく見ますね。
(初めは何と書いてあるのか、わかりませんでした ^^;)
火伏せのお札というのは、かなりいろいろなのがありますね。
我が故郷の庄内地方では、羽黒山の牛の絵のお札が、火伏せの霊験あらたかとされています。(下リンク参照)
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2010/12/post-3311.html
商売の伏見稲荷もかなりのものと認識していましたが、勝負事の石清水八幡宮は、意識していませんでした。早速脳内データベースに加えます。
投稿: tak | 2015年6月19日 22:35
本家 宗家 争いに関しましては、秋葉神社のほうにもありまして、こんな具合です。
http://www.zoeji.com/01meguri/01meguri-tokai/01-tk-akihasan/01-tk-akihasan.html
http://www.akihasan.or.jp/category01/index01.html
何処も 火防の神にしては きな臭いかぎりですね。
投稿: Sam.Y | 2015年6月20日 21:51
Sam.Y さん:
ほほう、そりゃまた...... 知りませんでした。
神仏混淆であったところが、廃仏毀釈で無理矢理に制度を変えさせられて、その後は云々かんぬんという例が、あちらこちらで多いですね。
投稿: tak | 2015年6月20日 22:18