東京オリンピックと、英会話熱と、当たり前すぎるお話
2020年の東京オリンピックが決まって、英会話熱が高まっているらしい。「多くの外国人が日本に来るから、英語ぐらい話せなければ」というわけだ。2020年に街を歩くと、外国人に英語で道を聞かれまくるので、親切に道案内してあげなければいけないと思っているらしい。
あるいは来日した外国人と友だちになり、寿司をご馳走しながら英語で日本の観光案内をしてあげるのが、日本人としての「おもてなし」の心だと思っているらしい。
70歳近い知人も、急に「英会話を勉強したいと思っている」と言い出した。「国際化の時代だから、英語ぐらいできなきゃね」というのである。国際化は今になって急に始まったわけじゃないのだから、やっぱり東京オリンピックがきっかけになっているのだろう。
そして「スピードラーニングなんか、いいと思うんだけど、どうかなあ」なんて持ちかけられてしまったので、正直言ってどっちらけた。
「まあ、何もしないよりはいいかも知れないけど、聞き流すだけで英語が話せるようになるなんて、期待しない方がいいですよ」
「でも、赤ん坊が言葉を覚えるのだって、聞き流しているうちに自然に覚えるんだから、いいんじゃないの?」
「頭がまっさらで、吸収力旺盛で、回りを飛び交っている言葉を理解しないと生存にすら関わる赤ん坊が 1日中聞いているのと、いい大人が 1日 5分間聞き流すのとでは、全然わけが違いますよ」
「そうかなあ、いいと思うんだけどなあ」
スピードラーニングの宣伝に相当洗脳されているらしく、なかなか諦めきれない様子だ。
「まあ、日常の挨拶と買い物と簡単な道案内ぐらいなら、できるようになるかもしれませんがね」
「それそれ、それよ。それができるようになりたいんだよ。それができるだけで、大したものじゃないの」
それを聞いて、またしても呆れた。大学まで出ているくせに、今さら日常の挨拶と買い物と道案内ぐらいの中学生レベルの会話をしたいがために、何万円もする教材に投資しようというのだ。
「その程度の英語ができればいいんだったら、NHK の初級英会話講座を聴けば、安いテキスト代だけで済みますよ」
「でも、NHK の番組は繰り返し聞けないじゃない」
「いくらでも聞けますよ。録音しちゃえばいいじゃないですか」
ここまで言うと、彼は黙りこくってしまった。
ああ、またやってしまった。この類いのことで、当たり前すぎることを無造作にホイホイ言ってしまうと、傷ついてしまう人がいるのだ。ちょっと考えればわかることを考えていない人には、あまり気軽に本当のことを言っちゃいけないのだ。
やっちまう度に「気をつけよう」と思うのだが、つい忘れて同じ失敗を繰り返してしまう。
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コメント
こんにちは。
その御仁の本音は、スピード...がいいと思っているんだが、君もそう思うよね?ということなんですよね。
ちなみに、NHK語学のページでは、アカウントを作ると
ラジオ講座なら直前の一週間分をストリーミングで
いくらでも聴くことができますから、
録音の必要すらありません。
1か月前の放送とかは聴けませんが・・・。
でも、その方はネットでストリーミングとか言っても
出来ないのでしょうか。そもそもyoutubeで
英会話レッスンを観るという手だってあるでしょうに。
投稿: hokkaidense | 2015年8月 9日 22:03
hokkaidense さん:
>ちなみに、NHK語学のページでは、アカウントを作ると
>ラジオ講座なら直前の一週間分をストリーミングで
>いくらでも聴くことができますから、
>録音の必要すらありません。
へえ、知りませんでした。
それだったら、高い教材を買うなんてあまりにも馬鹿馬鹿しいですね。
>でも、その方はネットでストリーミングとか言っても
>出来ないのでしょうか。そもそもyoutubeで
>英会話レッスンを観るという手だってあるでしょうに。
問題は、そこなんですよ。
PC は持ってるんですけど、YouTube も無理みたいですね ^^;)
投稿: tak | 2015年8月10日 02:41
英語関係で最近嘆かわしいと思ったのは、世界遺産登録にまつわるすったもんだ。日本のエリートと言われる人たちですらここまで英語のセンスがないのか、と。
本件、forced という単語を入れてしまったことで日本は非常にまずい立場に陥ってしまったわけですが、原文を良く見ると、forcedがかかるのは ”to work under harsh conditions”(「厳しい環境下で働くことを」余儀なくされた)なわけです。
つまり、「”forced labor” と ”forced to work” は違う物だ」という主張は全く意味がなく、単に「無理なことを言い張って謝罪を避ける卑怯な奴ら」というレッテルを貼られることに寄与しただけなのです。
正しい議論は、上記の通り、”forced” がかかっている文節を指摘することです。外務大臣を始め、日本側の人たちが皆これを分かっていないようなのは、本当に嘆かわしいと思”います。上記のバカな議論をしてしまったために、英語圏のメディアまでそれに引きずられてズレた論点になってしまいました。
そして、そもそもこういう問題でわざわざ誤解を招く(あるいは利用される)おそれのあるforcedという単語をわざわざ使った外務省のスタッフのセンスのなさにも呆れます。単に "had to" とすればよかったのに。
投稿: きっしー | 2015年8月10日 09:40
→きっしーさん、
「forcedがどこに掛かるのか」という議論も、批判を免れるうえにはあまり効果がないのではないかと思います。forced laborを「強制労働」、forced to work under harsh conditionsを「厳しい条件下で働くことを余儀なくされた」と訳すというのは翻訳上の裁量でしかなく、後者を「厳しい条件下での労働を強制された」と訳してもまったく問題ないからです。日本語にどう訳すかにかかわらず、英語でのforcedの語感は揺るぎません。
だから結局のところ、きっしーさんが最後の段落でおっしゃっているように、この単語を選んでしまったこと自体が失敗だったんですよね……。
投稿: 山辺響 | 2015年8月10日 16:29
9月のロンドン行きに向けて英会話を強化しなければいけない私としては(仕事は翻訳なんだけど会話は全然自信なし(^^;)、もっぱら「聞き流し」に励んでおります。もちろんスピードラーニング……ではなくて、BBCのポッドキャストですが(当然ながら無料です)
投稿: 山辺響 | 2015年8月10日 16:31
>山辺響さん
Forcedの語感が揺るがないというのは全くおっしゃる通りですね。
ただ、やっちまった後となっては、せめて「翻訳の裁量」の範囲まで持ち込んで引き分けにするのが外交担当者には求めたい水準じゃないでしょうか。恥の上塗りみたいなことをせんでもなあ、と思う次第です。
投稿: きっしー | 2015年8月10日 18:10
きっしー さん:
"Forced" はやばいなあと、私も思っていました。
ほかにいくらでも言い方はあるだろうに、どうしてそこにはまり込んだまんまなんだと。
投稿: tak | 2015年8月10日 23:02
山辺響 さん:
「翻訳上の裁量」 というか、順序としては、もともと日本語で考えていて、それを英語にする際に、つい "forced" を使っちゃったって感じですね。
"Force" って単語の強烈さを、あまり意識していなかったみたいです。
投稿: tak | 2015年8月10日 23:05
NHKのラジオ講座は本当にお勧めです。私自信も高校留学の前後に聞きまくってました。もちろんその日の会話を繰り返し繰り返し口に出して。
意図的にしゃべらないと語学(というか会話力)は身に付かないのに、どうして「聞き流す」教材ばかりがもてはやされるんでしょうね?簡単に実行できるのが魅力なんでしょうけど。
投稿: めぐみ | 2015年8月15日 01:04
めぐみ さん:
英会話もダイエットと同じで、みんな楽したいんですね。ちょっと考えれば、楽していけるわけないのに ^^;)
投稿: tak | 2015年8月15日 22:22