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2015年8月19日

キュウリの 「スリスリ儀式」

昔、高校を卒業して東京の大学に入り、一人暮らしを始める前に、今は亡き母にキュウリの「アク抜き」の仕方を教わった。端をちょっと切って、その断面同士をスリスリすると、白っぽいアクがしみ出てくる。これをやってから調理すると、キュウリがおいしいというのである。

一人暮らしを始めてからしばらくは、そのやり方を忠実に守っていたが、そのうちにそんなことしなくても味は変わらないと気付いた。元々面倒なことはしたくない性分なので、キュウリのアク抜きなんて全然しなくなった。そのせいでキュウリがまずかったり苦かったりしたという経験は一度もない。

そうなると、「あの『アク抜き』って、一体何だったんだ?」ということになる。単なる迷信だったのか? それとも我が家だけに伝わる大いなる勘違いだったのか?

試しに「キュウリ アク抜き」というキーワードでインターネットで検索してみると、「楽天レシピ」というサイトに、「小技!きゅうりをおいしく。きゅうりのあく抜き レシピ・作り方」というタイトルのページが見つかった。ここに、まさに私が母から教えられた通りの「アク抜き」の方法が公開してある。

「よりおいしい、きゅうりのお料理を作るための小技です」なんて表示してあるので、ガックリである。だ〜から〜、こんなことしたって、味なんか変わらないって言ってるじゃないか。

さらに深く調べてみるために、キーワードを「キュウリ 断面 スリスリ」に変えて検索してみた。すると「Yahoo 知恵袋」に 「きゅうりの処理?」 というページがあり、質問者が「料理初めてからついクセでスリスリしてしまいますが、別にしなくても味は変わらない気がするし」と、私と同じ疑問をぶつけている。

そのベスト・アンサーは 「昔のきゅうりは苦味があり、独特の臭みやアクがありましたので、端を切り落とし塩をつけてスリスリすると白い苦味成分を出すことができます。でも、今のきゅうりは品質改良され、上記のような作業を省くことができます」というものだった。

なんだ、そうだったのか。今のキュウリはアク抜きしなくてもおいしくなっているのか。そういえば、そうだった。昔のキュウリはものすごく苦かったらしいのだ。自分で書いた記事を思い出した。

それはまだ、Today's Crack がココログに移行する前の、平成 16年 5月 13日の記事である。もう 11年以上前に書いたものだ。気象予報士、森田正光さんの、「江戸時代以後、河童が減ったのは、キュウリの品種改良のせいで、河童の口に合わなくなったから」という珍説を紹介しているので、以下に再録する。

そもそも、キュウリというのは奈良時代に日本に渡来した野菜なのだが、当時のキュウリは苦くて大変まずいモノだったらしい。水戸黄門も「毒多くして効能少なし」と書いて、栽培に圧力をかけていたほどで、それだけに、逆に河童のような異界のものが好んだのだろう。

ところが江戸後期以降、キュウリの品種改良が進んで、現在のような人気野菜になった。しかし河童としては、逆に好みの味ではなくなったものと思われる。好物がなくなったために、個体の数も激減し、今ではほとんど見られなくなったというのが、森田説なのである。

というわけで、私は「それならば、(昔の苦いキュウリの代替品として)沖縄のゴーヤーを使って河童をおびき出せば」なんて書いている。最近はゴーヤーを使ったグリーンカーテンなんてものが増えてきているから、もしかしたら河童も復活するかもしれない。

それにしても、キュウリの品種改良は江戸時代以後に進んだとあり、既に昭和 40年代にはアク抜きなんてしなくても味は全然変わらなかったのだから、日本人は 100年以上にわたって、思い込みによる「スリスリ儀式」を続けてきたもののようなのである。まさに、一度染みついたことは、不必要になっても止めるのは難しい。

そんなような馬鹿馬鹿しい「慣習」や「慣例」というのが、世の中にはまだまだたくさんある。

 

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コメント

洗ったきうりをまな板に乗せ、粗塩(すんません。当家は普通の塩です。)ぶっかけて「板ずり」します。

きっと、その「スリスリ」と同じ位置付けかと思われます…。(実はスリスリ文化を知りませんでした)

今時硬くて渋くて苦いきうりは少ないと思いますが、なんだか習慣と言うかおまじないと言うか、きうりの皮にある灰汁を吐き出させている気がして、ゴロゴロし終わった緑色にまみれた手を見て、悦に浸ってます。

きうりに塩気をしっかり入れようとするならば、「叩いて塩水に浸す」が、塩気(塩分)コントロールできて良いと思ってます!
(そこにごま油をちろっとさして、素敵に風味付け。)

遠征、お身体おかわりなく。

投稿: 乙痴庵 | 2015年8月19日 23:41

麺類を茹でるときの「びっくり水」もおなじようなもんですね。
蕎麦屋に言わせると、それで麺がキュッと締まるんだそうですが、100度が一瞬99度に下がったからって何も麺に変化は生じないだろうと思います。

全国の蕎麦屋とうどん屋で「びっくり水」を実践しているのはどれくらいなんだろうか?

投稿: ハマッコー | 2015年8月20日 00:03

いや~私が子どもの頃(つまり昭和40年代~50年代)は、たまに苦いキュウリに当たることがありましたよ! だから「断面スリスリ」は知っています(笑)

乙痴庵さんのおっしゃるキュウリに塩ぶっかけて……は、少し水分を抜いて締めるためじゃないですかね。昨日やりました(その後キッチンペーパーで塩と表面に浮いてきた水分を拭き取る)。

投稿: 山辺響 | 2015年8月20日 10:57

私はtakさんと同学年なので、キュウリスリスリはかつての常識、小学校の家庭科の調理実習で野菜サラダを作ったときもスリスリした記憶があります。その頃のキュウリは、指の腹に盛りっとのるくらいのちょっときたない泡が生じたものです。しばらく前、ふと思い立って久しぶりにスリスリしてみたら、泡は全くと言っていいくらい出ませんでした。

キュウリだけでなく、トマトもピーマンも人参もレタスもほうれん草も、昔ほど自己主張しなくなったなぁと思う今日この頃。総じて栄養価も下がっているらしいです。

投稿: JIzi_t | 2015年8月20日 11:11

乙痴庵 さん:

確かに、「おまじない」の領域なのかもしれませんね ^^;)

私はフツーに塩漬けしています。ちょっと重石を載せるといい感じ。

投稿: tak | 2015年8月20日 17:56

ハマッコー さん:

最近では、そば屋の業界でも「びっくり水」は流行らないと聞いています。やっているのを見たことがありません (^o^)

あれは火力の調整が難しかった時代に、吹きこぼれを防ぐために行っていたのだと、私は考えています。今はガスをちょっと絞ればいいので、必要のないことでしょうね。

投稿: tak | 2015年8月20日 17:58

山辺響 さん:

確かに、昔のキュウリはほのかな苦みがあったように思いますが、私はその苦みが好きでした。ですから、今のキュウリはちょっと物足りないかも。

投稿: tak | 2015年8月20日 18:01

JIzi_t さん:

確かに、昔のキュウリは黄色っぽい泡が出ましたね。
でも、その泡を出す儀式を怠っても、十分に美味しく食べていました。

>キュウリだけでなく、トマトもピーマンも人参もレタスもほうれん草も、昔ほど自己主張しなくなったなぁと思う今日この頃。

山辺響さんへのレスにも同様のことを書きましたが、まさに賛成です。

投稿: tak | 2015年8月20日 18:03

はじめまして。
いつも拝読させて頂いてます。

スリスリ文化は知りませんでした。
家庭菜園できゅうりを作ってますが、在来種のためか苦味が強いです。
ただ、ゴーヤーとはちょっと違う苦味でして、カッパはやはりきゅうりを選ぶかもしれませんね。

投稿: kaki | 2015年8月22日 16:54

kaki さん:

おお、まだ苦みの強い在来種が存在しているんですね。
苦みのあるキュウリが好みの人もいますから、まだまだ存在価値はあるのでしょう。

ただ、周辺に河童が集まってくるかもしれません (^o^)

投稿: tak | 2015年8月22日 20:36

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