「法的安定性」を巡る冒険
磯崎陽輔首相補佐官の 「法的安定性は関係ない」 という発言が問題になっている。この発言は講演会において出てきたもののようで、その文脈は 「法的安定性で国を守れますか? そんなもので守れるわけないんですよ」というところから来て、「法的安定性は関係ない。我が国を守るために必要かどうかが基準だ」ということになったもののようなのだ。
磯崎氏の真意を、最大限好意的に推し量れば、私がいつも引き合いに出す「健康のためなら命も惜しくない」という健康オタクの例みたいなもので、「国がなくなってしまったら法的安定性もへったくれもない」ということになる。つまり、「法的安全性と国の安全保障を比較したら、当然安全保障が優先されるべきでしょう」と、磯崎氏は言っているのだと思われる。
それについてはあまり問題がないのだが、彼は「法的安定性は関係ない」なんていう乱暴すぎる言い方をしてしまったから、散々突つかれているのだ。ただ、突つかれている割には誰も「法的安定性」という言葉にピンとこないので、巷ではあまり怒っている人がいない。民衆は「ピンとこないこと」にはあまり怒らないのである。
「法的安定性」 というのは、法律の中身や法令解釈が朝令暮改になっては運用するにも差し障りがあるので、その辺はきちんとしっかりしたものにしておきましょうということである。それはもちろん重要なことだ。
そして本来ならば、「国の安全保障も法的安定性もどちらも重要だ」ということになるのだが、国の安全が脅かされる切羽詰まった状況(要するに「非常事態」ね)に限っては、そんな悠長なことは言ってられないから、安全保障が優先されても仕方ないだろうということになる。これについても、あまり反論がないだろうと思う。
問題は、現在の状況が磯崎氏が「法的安定性は関係ない」と言ってしまうほどに切羽詰まった非常事態になっているかどうかだ。はっきり言えば、今が「法的安定性を犠牲にしてまで国の防衛を優先すべき非常事態」だなんて思っている人は皆無とまではいわないにしても、極少数だろう。
この視点からすると、磯崎氏の発言を好意的に解釈するとしても、「やっぱり、暴走発言だったよね」と言わざるを得ない。
問題は「いや、現状は非常事態なんだ。十分に切羽詰まっている」という考えもあるということだ。少なくとも安部さんとその取り巻きはそう思っているのだろう。彼らがそう思っているのだとしたら、それはもう仕方のないことだが、そうした人たちに国を任せていると考えると、ちょっと背筋が寒くなる。
現在の政権にある人たちが、今の政策を推し進めたいならば、現状がそれほど切羽詰まった非常事態なのだという根拠をきちんと説明しなければならない。今回の安保関連法案に関するゴタゴタは、このあたりがちっともなされていないことによるのだと思う。
ただ、そんなことを説明しても国民の理解が得られるわけはないから、彼らはプロセスを省略してでも結論を急ぎたがっているのだと思わざるを得ない。
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コメント
そうそう…言葉尻をとらえると、確かに暴論なんですけど、
文脈からしたらそこまでおかしなことは言ってないんですよね…。
それでも庄内さんのいう通り、暴走発言ではあったんですけれど…。
なんだか批判してる人たちも、そこだけ強調して言うから、どっちもどっちだなあと。
(´・ω・`)
投稿: ひろゆき王子 | 2015年8月 3日 23:33
ひろゆき王子 さん:
>なんだか批判してる人たちも、そこだけ強調して言うから、どっちもどっちだなあと。
参考人招致で、磯崎氏は台本通りに平身低頭でしたが、それに対する野党側の、「何様だと思ってるんだ?」 と言いたくほどのめっちゃエラソーな野次には、モロに胸くそ悪くなりました。
そのうち野次飛ばした当人が、なんか失言やらかして、同じ立場に立ってもらいたいとまで思いました。
投稿: tak | 2015年8月 4日 11:58