結果とプロセスの(意図的)混同が、エンブレム騒動の根本原因
東京オリンピックのエンブレムの一連の騒動で、多分誰もが薄々と感じてはいるが、明確に言い切っていないことがある。それは、今回の騒動を必要以上にややこしくした最大の原因は、当事者たちの「結果とプロセスの(意図的)混同」 にあるということだ。
今回の当事者たちは、「見かけは似ていても、発想や成り立ちが違うのだから、『盗用』ではない」と主張した。OK。それは確かに理解できる。客観的証明は難しいが、「パクリじゃない」という主張は可能である。ところが異なるプロセスをたどっても、結果として明らかに似てしまうことは十分あり得ることで、結果とプロセスは別問題なのだ。
その意味で、佐野氏自身の会見での「要素は同じものはあるが、デザインに対する考え方がまったく違うので正直まったく似ていないと思った」という発言は、常識的にいえば明らかな「無理筋」である。これほど似ているものを「まったく似ていない」とは、「目が節穴」と言われてもしょうがない。
「似ている/似ていない」というのは、結果をみての判断であって、結果にたどり着くまでのプロセスなんてどうでもいいことだ。ところがこの結果とプロセスを、多分意図的に混同して、結果として明らかに似ているものを、プロセスが違うんだから「まったく似ていない」と言い切ってしまう傲慢さが、デザイン業界の一部では通用するようなのである。
もしこれが、世の中を甘くみたことによる意図的混同でなく、「自然の振る舞い」なのだとしたら、今回の騒動の関係者たちは頭が悪すぎる。明らかに基本的な大問題であり、根本から考え直してもらわなければならない。
こうしたことは、例えば商標や商号の登録ではあり得ないことだ。製作プロセスがどう違おうとも、結果として類似性が認められ、紛らわしければ、「アウトはアウト」というのが常識というものである。
ところがデザイン業界では、「(佐野氏のデザインを)プロのデザイナーとしては納得できるが、一般の人には理解できないかもしれない」なんて、したり顔で発言している人もいる。そんな発言自体が、この業界の一部に特殊な価値観があるらしいことを物語っている。
このあたりで、他の視点から語ろう。音楽でいえば狭義の「ブルース」というのは、12小節でコード進行までほぼ決まり切っており、同じ曲に聞こえる別の歌がゴマンとある。それが「本来のブルース」である。
つまりブルースというのは、ある意味、俳句や短歌のような「定型芸術」であり、初めからその定型に沿って作られるので、いくら似ていても、「パクリ」という概念の外にある。似ていて当たり前というジャンルなのだ。
根本的なことを言えば、私としては「どう工夫してもある程度似通ってしまうのはしかたがない」みたいな分野では、「ブルースのコード進行」のようなフリーの「入会地的ソース」を認めておいて、利権主義的な「知的所有権」のコンセプトから、ある程度解放してあげなければ、そのうちにっちもさっちもいかなくなると思っている。
音楽で言えば、そうした例はいくらでもある。例えば、"Careless Love" と "Release Me" は、下の YouTube ビデオで聞けばわかるように、ほとんど同じ曲と言ってもいいほどよく似ている。それは同じ古い民謡を原曲としているので当然だ。同じ原曲をアレンジによっていろいろなイメージに膨らませ、別個の楽曲にしている。
デザイン業界でもこんなような手法がきちんとオーソライズされれば、問題なくなるのにね。どうせ似たようなことがフツーにやられてるようなんだから。
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コメント
>明らかに似ているものを 「まったく似ていない」 と言い切ってしまうことが、
デザイン業界ではフツーに通用するようなのである。
デザイン業界でもフツーに通用してませんし、
>「プロのデザイナーとしては納得できるが、一般の人には理解できないかもしれない」
デザイナーとしての矜持はあるぞと自覚してる身としては
ミソもクソも一緒にして欲しくないです。
往々にして、クライアントのほうが「似てる」ことに気がつかない場合がありますが、
多くのデザイナーは、「似てる」と解った段階で、
クライアントに正直に話をし、代案を作っていると思います。
空港写真の無断使用にしても「審査委の内部資料として内輪の段階だから使った...」
という意味のことを言っていたようですが、応募した時点で内輪じゃないでしょ?
それともやっぱり審査委員会は佐野氏にとっては内輪だったのかな。
今回の件は、インターネット上で数々の類似が指摘されてヒートアップしたのですが、
案外彼も、インターネットをうまく使ってデザイン業界を泳いできたのかもです。
全くデザインを舐めていると思います。
投稿: さくら | 2015年9月 2日 14:28
さくら さん:
失礼しました。さくらさんのような、まともな価値観のデザイナーもいらっしゃるのですよね。
以下のように本文を書き直しましたので、ご了承下さい。
(旧) 明らかに似ているものを 「まったく似ていない」 と言い切ってしまうことが、デザイン業界ではフツーに通用するようなのである。
→(新) 明らかに似ているものを 「まったく似ていない」 と言い切ってしまうことが、デザイン業界の一部では通用するようなのである。
(旧) これが意図的混同でなく、「自然の振る舞い」 なのだとしたら、デザイン業界の人たちは頭が悪すぎる。
→(新) これが意図的混同でなく、「自然の振る舞い」 なのだとしたら、今回の騒動の関係者たちは頭が悪すぎる。
(旧) そんな発言自体が、この業界がいかに特殊であるかを物語っている。
→ (新) そんな発言自体が、この業界の一部に特殊な価値観があるらしいことを物語っている。
投稿: tak | 2015年9月 2日 14:42
あらら。お手を煩わせてしまったみたいですみません。
四捨五入してお書きになっていることは重々承知してます。
今回の一連のニュースを見て吠えてる私に、
ダンナが「ドゥ、ドゥ、ドゥ〜」と言うております。
私、馬じゃないんですけどね...。(アハハ...)
投稿: さくら | 2015年9月 2日 17:40
さくら さん:
いえいえ、今回の書き直しは、例のエンブレムの場合と違って、さくらさんへのリスペクト故です。
ありがとうございます。
投稿: tak | 2015年9月 2日 20:54