南庄内では「終わらせる」を「おわす」というらしい
昨日の記事の続きである。「出身地鑑定 方言チャート 100」を試してみたところ、山形県庄内出身の私が、新潟県下越エリア出身と判定されてしまった件で、その誤判定のポイントは「宿題を終わらせる」を「宿題をおわす」というかどうかという問題だった。
私は「おわす」なんていう言い方をしたことがないので、「いいえ」をクリックしたのだが、その途端に新潟県出身と判断されてしまったようなのである。それで、もしかしたら同じ庄内でも南庄内(鶴岡エリア)では「おわす」と言うのかもしれないと思い、教示を呼びかけたところ、さっそく yukiho さんから "鶴岡では「終わす」と言います" というコメントをいただいた。
"「しゅぐではやぐおわしてままけ~」とか言われていました" とおっしゃるのである。庄内弁感覚のない方のために、念のため翻訳しておくが、これは 「宿題早く終わらせて飯喰え」 という意味である。庄内弁では「食う」は「かね、(くいます)、く、くどぎ (食う時)、けば、け、こ」と、変則四段活用になる。(ちなみに連用形の 「くいます」 はネイティブでは滅多に使われない)
なんと、やっぱり南庄内では「終わらせる」という意味合いで「おわす」と言うようなのである。「庄内弁」とひとくくりにしてしまいがちだが、やはりそこはそれ、地域によって微妙な違いがあるものだ。そして「小さな違いが大きな違い」なのである。
こうした違いを目の当たりにするにつけ、「出羽国」は庄内平野を横切る最上川によって「羽前/羽後」に分けられているという事実を思い出す。鶴岡市は羽前国で、私の生まれた酒田市は羽後国だ。同じ庄内藩だったのに、国が違う。
もっとも旧庄内藩が羽前と羽後という 2つの国にまたがっていたというわけではない。出羽国という律令制に基づく国は、なんと明治元年 12月 7日になって羽前国と羽後国に分割されたので、江戸時代の庄内藩は同じ「出羽国」だったのである。
羽前国はほぼ山形県全域だが、庄内の最上川以北は羽後国として、今の秋田県と一緒にされてしまったのである。これは戊辰戦争で最後まで官軍に逆らった庄内藩への懲罰的な措置として真っ二つに分割されたのだと、私はこれまで思っていたのだが、どうやら言葉も最上川を境として少々違っているという事情があるのだと、再認識した。
北庄内と南庄内の言葉の違いでかつて衝撃を受けたのが、「やばち」という方言の意味合いである。私の生まれた北庄内では、「やばち」は 「濡れて冷たい状態」を言う。例えば道を歩いていて誤って打ち水をかけられたりした時に、「やばち!」と言う。標準語では「冷たい!」などと言うところだが、それでは水に濡れた感覚を表現しきれない。「やばち」はニュアンスに富んだ言葉である。
ところが南庄内では、打ち水をかけられたぐらいでは「やばち」とは言わないらしい。「やばち」はもっと「汚れた感覚」がなければならないというのである。例えば油でドロドロに汚れた感じなどが、典型的な「やばち」という状態なのだそうだ。
だから北庄内では 「しぇんだぐもの、ひたが?」「まだやばち〜」(「洗濯物乾いたか?」 「まだやばち = 濡れて冷たい」) という会話が成立するが、南庄内ではあり得ない。洗濯物が 南庄内流の「やばち」という言葉で表現されるような「汚れた状態であろうはずがないからである。
私は 50歳を過ぎるまでその違いを知らなかった。道理で酒田の人間がちょっと水に濡れただけであっけらかんと 「やばち〜」 なんて言うと、それを聞いた鶴岡の人間が怪訝な顔をするわけだ。「その程度で汚れたと思うなんて、酒田の連中、どんだけ綺麗好きなんだ?」なんて思ってしまうのかもしれない。
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