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2015年12月15日

「バター不足」に見る、商人の悲しい業

日本経済新聞が「バターはどこへ消えた? メーカーと小売店食い違い」と、今年も去年に引き続いてバター供給不足を伝えている。ただ去年と違うのは、受給の川上と川下で、言ってることが食い違っていることだ。

大手乳業メーカーは「在庫は十分にあるはずだ」「足元は一昨年並みの在庫が積んであり、この冬は潤沢に供給できる」とコメントし、農林水産省も「緊急輸入でバターの供給は十分」としている。それなのに店頭ではバター不足なのだ。クリスマスケーキなどで大量のバターを使う全日本洋菓子工業会は、「一体どこにあるのだろうというのが業界の疑問だ」と言っている。

「一体どこにある?」という疑問への答えは簡単だ。「流通の各段階で少しずつ隠されている」のである。それぞれの企業が大量に隠しているというわけではないが、各段階でやっちゃうから、「塵も積もれば山となる」のである。

まずメーカーは「隠している」とは言わないが、「本格的需要増に備えて」とかなんとか都合のいい理由で出荷を微妙に調整し、それを受けて一次卸は在庫の一部を倉庫の奥深くに隠す。すると危機感を覚えた二次卸も隠しまくって、小売りに対しては「入荷が少ないので、ご理解下さい」なんてシラを切る。

このあたりの事情は、4年前に "「米不足」 の風評に踊らされると、高い買い物をすることになる" という記事に書いている。4年前にしても、平成 5年(1993年)の「記録的な冷夏による米不足」といわれた時も、ほとぼりが冷めた頃にはいつの間にか店頭には米が潤沢に並んでいた。ちっとも不足なんかしていなかったのである。「米とバターは違う」なんてことにはならない。

まったくもって、商人というのは悲しい業を抱えているものである。皆が隠すから、自分とこでも隠さざるを得ないような気になってしまう。そんなことをしても、隠す作業の手間に見合うほどの利益なんて得られるとは思われないのに。

今回の「バター不足」にしても、そのうち在庫負担(常温じゃ保存できないんだし)に耐えきれなくなって、クリスマス需要の直前にはどっと出てくるに決まっている。それが過ぎたら、今度は「不良在庫」になるからね。

だから、今の時期にあせって必要以上にバターを買い溜めしたりすると、一番高い時に無駄な買い物をすることになるから、止めといた方がいいよ。

 

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コメント

バター不足の原因は業界では全て分かっているのは間違いないですね。みんなが”不思議だ、どこに消えてるんだろう”としらばっくれている。日経新聞も事情は知っているでしょう。

私は基本的に商人とは ”あざとい人種” だと思っています。それは町の米屋から近所のスーパー、一流百貨店まで同じことです。

ネット上で ”バター不買運動” でもやって需要を減らせば在庫を抱えている業者は一気に震え上がると思いますが、そこまでのパワーは消費者にはないと舐められているんでしょうね。

先日、バターを買おうとしたら ”一人一品にお願いします” とか書いてあって価格も高いのでマーガリンにしてやりました。

投稿: ハマッコー | 2015年12月15日 10:57

昨年、日本酒に使われる山田錦という品種で同様なことが起こっていたようです。他地方で見学に行ったときに複数の酒蔵で聞きました。

近年人気の山口にある某巨大地酒メーカーが大量消費するので山田錦が不足気味だったことから、そういう連鎖反応が起きたとのこと。本当は昨年は不足するはずではなかったのに、と。

案の定、年も明け、醸造シーズンが終わる頃になるとどこからともなく大量に在庫が出現してきたそうです。

ちなみに、その山口のメーカー自身は、山田錦の栽培農家の支援など色々努力もしているのですが、業界にはいろんな思惑で動く人がいるとのことのようです。

投稿: きっしー | 2015年12月15日 11:13

ハマッコー さん:

こんなことをしても大して利益が上がるわけじゃないのに、ついやってしまうのは、「右へ倣え」体質なんでしょうね。

小売店としては、「ウチはたくさんありますよ。いつもの値段でいくらでも売ります!」 とやってしまったら、次の日から入荷がままならなくなるんじゃないかと、余計な心配をしているのだと思います。

問屋はそうした小売店にこそどんどん卸して、利益を確保すればいいのに、一次卸から睨まれるのを恐れてるんでしょう。

投稿: tak | 2015年12月15日 22:14

きっしー さん:

山口県の地酒メーカーって、あの 「○祭」 のメーカーですか?

古くからの業界って、いろいろあるんですね。
とくに地酒メーカーは小さな蔵本ばっかりですからね。

投稿: tak | 2015年12月15日 22:17

それです。
お米をガメてたのは、たぶん蔵元ではないと思いますが、ま、ややこしい業界です。

投稿: きっしー | 2015年12月15日 23:50

きっしー さん:

いくら大手だからといって、一つの蔵元がそんなに大量に買い占められるものなんでしょうかね。それとも、山田錦という品種はそんなに簡単に影響が出るほどに、生産量が少ないのか。

いずれにしてもややこしい業界のようですね。税金がからむから、国の手もかなり入ってるみたいだし。
消費者としては、うまい酒を安定的に飲むことができればいいだけですが。

投稿: tak | 2015年12月16日 16:54

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