無駄な苦行はしない、させない
部活の最中に熱中症で倒れ、低酸素脳症にによる障害で、今も寝たきりで意思疎通ができない状態となってしまった女性に、県が 2億 3000万円の賠償を行うという最高裁判決が下された。判決は、出張のため練習の冒頭しか立ち会わなかったテニス部顧問の教諭に関して、「部員の体調変化に応じて指導できない以上、十分な水分補給をするよう指示すべきだった」と、責任を認めた。(参照)
この事件は 8年も前のことで、障害を負った女性は既に 25歳になっているが、現在も両親の介護に頼っている。昔は「運動中は水を飲むな」なんて乱暴なことが言われていたが、8年前なら適切な指導をしていれば防げたかもしれない。
それにしても、本当に昔は無茶苦茶な指導がされていた。運動中は喉が渇いても水を飲んではならないというのである。私が合気道をやっていたのはせいぜい 20年ほど前までのことだが、やはり稽古中に水を飲むのが憚られていた。
とはいえ、師匠が直接「稽古中は水を飲むな」と言われていたわけではない。そんなことは一言も聞かなかった。ただ、運動をするものの(誤った)常識として、「運動している間に水を飲んだらヘロヘロになって、体が続かなくなる」なんて言われていたのである。
ただ、真夏に汗だくになって稽古をしていて喉が渇かないわけがない。「水を飲んだらヘロヘロになる」なんて言われるが、飲まなければもっとヘロヘロになる。どうしても我慢ができなくなったら、頭から水をかぶるようなふりをして、その水を口にも入れて乾きを癒やしていた。
そうでもしなかったら、多分熱中症で倒れていただろう。当時、稽古仲間の誰も倒れなかったということは、みんなそんな風にこっそり水分補給をしていたからだろうと思われる。昔は「軍人は要領をもって本分とすべし」なんて言われていたらしいが、理不尽な空気の中で生き抜くには、確かに必要な知惠である。
ちなみに、運動でハードワークをしている最中に水を飲んだらヘロヘロになるというのは、まんざら嘘でもない。水を飲んだ直後に頭がガンガンして動けなくなるというのは、本当にあり得る。私自身も経験しているし。
ただそれは、我慢に我慢を重ねた末に耐えきれなくなって水をがぶ飲みした時のことで、こまめに少しずつ水分補給をしていれば、そんな事態にはならない。「運動中は水を飲むな」と言われ、下手に我慢した挙げ句、急に大量の水分を摂ると、体がそれをこなしきれずに変調をきたすのだ。つまりこれも、間違った観念の副産物である。
私は常々、「同じことをするなら苦しんでやる方がいい」というメンタリティが問題なのだと思っている。水を我慢して死にそうになってまでやるのが運動選手として誉められるべき態度で、ちょこちょこ水分補給なんかしてると、「あいつ、楽しやがって」なんて思われてしまう空気が、ちょっと前までは確実にあったのだ。
何でもかんでも「楽してやる」のがいいとは思わないが、少なくとも「無駄な苦行はしない、させない」という意識をもつだけで、この国はもっと住みやすくなると思うのだがなあ。
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コメント
あと、大量に発汗するような運動をしている場合は「水」だけ飲むとおかしくなります。塩分などミネラルも摂らないと……。「水を飲むとバテる」みたいな昔の常識は、そのへんから来ていたのかも。
投稿: 山辺響 | 2015年12月17日 18:09
山辺響 さん:
確かに、真夏に大汗かいてる時は、塩を混ぜて飲まないと、体の中がどんどん 「薄くなっていく」 という気がしますね。
投稿: tak | 2015年12月18日 00:25