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2016年2月 7日

懐かしのシネサロン

なぜか急に、故郷酒田の「グリーンハウス」という映画館のことを思い出した。小さな田舎町の映画館ではあるが、知っている人にとってはとても大きな意味をもつ。その素晴らしさは、あの淀川長治さんが絶賛したというほどのものだった。詳しくは Wikipedia の記事をご覧いただければわかる。

Wikipedia の記事にもあるが、グリーンハウスは昭和 51年 10月 29日の酒田大火の火元となって焼失した。映画館 1軒が消滅しただけではなく、吹き始めていた強烈な冬の季節風に煽られて火は上ではなく横へ横へと広がり、風下の 1767棟が焼け落ちた。繁華街の中心だったこともあり、私の高校時代までの思い出の街並みが、たった一晩で消え去った。

私は中学後半から高校時代に至るまで、グリーンハウスに入り浸った。とくに足繁く通ったのは、客席 14席というミニシアター、「シネサロン」 。正確な金額は忘れたが、当時 200円以下の低額で、田舎の一般の劇場では絶対にかからない、もっといえば都会の名画座でもあまり見られないような、ハイブロウな洋画が見られたのである。

スクリーンの大きさは、畳 1帖より一回り大きい程度のものだったかなあ。私はあのこじんまりとした空間の小さなスクリーンで、昔の名画や、興行的な大成功を収めたわけではないが玄人筋には好評をもって迎えられたアバンギャルドな映画を、毎週のように見ていたのである。思えばませたガキだった。おかげで今でもハリウッド大作とかアクション大作みたいな映画は全然性分に合わない(参照)。

私はこのシネサロンをたまらない懐かしさで思い出す。できることなら、もう一度でいいからあの小さな空間で映画を見たい。そしてその 「もう一度でいいから」 見たい映画は、『マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺』にとどめを刺す。

これはペーター・ヴァイスの前衛的な戯曲の映画化で、フランス革命時にジャコバン派に属して過激な共和制を主張していたジャン=ポール・マラーが、シャルロット・コルデーというジロンド派を支持する若い女性に浴槽で滅多刺しに遭って暗殺された事件を描いている。ただしその描き方が劇中劇になっていて、事件当時シャラントン精神病に実際に入院していたマルキ・ド・サドが、この病院の患者たちを俳優として使い上演しているという設定になっている。

とまあ、設定からしてかなりややこしいうえに、劇中劇(いや、この場合は映画中劇という方がいいかな)の演出がまたとびきり前衛的なので、わからない人にはさっぱりわからなくて、死ぬほど退屈ということにもなるだろうが、演劇好きにはたまらない映画だった。高校生の私は「こういう演劇に浸りたい!」と思いながら、わくわくして見ていた。

ああ今どき、あんなに心躍るような前衛的フィルムを、劇場映画として見られることは稀になってしまった。そうした稀なタイプの映画を、もう一度小さなハイブロウなシネマ空間で見たい。私の小さな、しかし途方もない願いである。

 

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