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2016年2月12日

製造業の国内回帰

"「海外生産が安い」はもう古い、エプソンの国内回帰戦略" という日経テクノロジーの記事を読んで、「そりゃ、もっともだ」と思った。エプソンによると、「2013年以降、労働集約型の海外工場に比べて、自動化設備を積極的に導入した国内工場の方が労務費の面で安く抑えられている」 のだという。そうなるのはごく自然なことだと思う。同社は次のように説明している。

2012年までは、国内と海外の製品内労務費の差が10倍以上あった。2013年に国内の生産設備の自動化を進め、生産性を10.5倍に向上させた。この取り組みは組み立てセル間の搬送や除給材といった作業もロボットに置き換えるほど徹底したものだ。

国内の人件費の上昇率は 2~3%。一方、海外での人件費の上昇率が年間で 10~15%である。この結果、同社は 2020年には国内と海外の製品内労務費の差は3.5倍に縮まると見積もる。自動化された国内工場の労務コストはほぼ横ばいなので、国内工場の方が、コスト競争力で大幅に上回ることになる。

さらに国内生産によって経営リスクが排除できること、生産拠点と研究開発拠点を密接に連携させ、知識集約が進められることも大きなメリットになる。こうしたトータルなメリットを勘案すれば、国内生産は海外生産を上回る競争力をもつことになる。とくに最近の中国経済の不透明さは、将来を悲観視するに十分な材料である。

こうしたストーリーは、労働集約型の典型と思われている繊維産業でも可能なことと、私は前々から考えていた。私のキャリアは繊維産業でその大半が形成されているのであろ。

繊維産業の中でも織布や丸編みなどの分野はかなりの部分、装置産業化している。同じ原料と同じ機械があれば同じ製品が生産できるのだ。こうした工場を取材するにつけ、私は「これならどこで作っても同じじゃん。どうせ同じなら、近い方がいいじゃん」と思っていた。きめ細かい生産コントロールに対応できる国内工場の方が、有利になる時がくる。

思ってはいたが、本格的にその有利性が表れるには時間がかかるのもしょうがないとも考えていた。その有利性を発揮する前提条件が徹底したロボット生産ということなので、多額の初期投資が必要になるからである。これまで日本の企業はバブル崩壊からずっと続く景気低迷で、それを行うだけの体力がなかった。

しかし今、そのチャンスが巡ってきている。もしかしたら最後のチャンスかもしれない。

定番品ばかりを大量生産するという「少品種大量生産」なら人件費の安い国の方の有利性が継続するだろう。しかし「多品種少量生産」なら国内生産の方が有利だ。製品の品質管理、出荷コントロールなど、目に見えない部分で国内工場の方がノウハウをもつからである。

徹底したロボット生産が前提なら雇用は増えないので、国内経済への好影響は限定的と思われるかもしれないが、そんなことはない。周辺の品質コントロール、IT 産業、部品産業、ロジスティックスなどが、総合的に発展する。

これまで日本の製造業は、オフショア・ビジネスに過度に傾斜しすぎていたと思う。そろそろ揺り戻しがきてもいい頃だ。その動きは徐々に出始めている。

 

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