「誘う」 と 「誇る」 を手書きで書き分けられない
ビジネス文書はワープロで書くようになって久しい。私が社会に出て働くようになった 1980年代初頭頃までは、企画書なんかも手書きで書いていた。鉛筆で書いて、書き損じたところは消しゴムで消して修正し、それをコピーすると「もっともらしい体裁になる」なんて思われていた時代である。今からすればお笑い草だけど。
当時の私は英文を書く仕事をしていたから、必要に迫られてタイプライターを使い、その流れで 82〜3年頃には日本語を書くにもワープロ専用機(富士通の OASYS ってやつだった)を使い始めた。そして Windows になる前の、MS-DOS という魔法の呪文みたいなのをキーボードで打ち込む時代に、既に PC に移行していた。
ビジネス文書の手書きからワープロへの移行を、当事者としてリアルタイムで(しかも割と早めに)経験したというのは、ある意味貴重だろう。私より年上の世代の多くは定年を迎えるまでキーボードを敬遠し、もっと若い連中は手書きのビジネス文書なんて見たこともないだろうから。
というわけで私は 30年以上、メモ以外の文書を手書きで書くことがほとんどないライフスタイルである。そのせいで「漢字を読めるけど書けない症候群」が、どんどんひどくなっている。メモの時は時間の勝負だから、アヤシい漢字にはあえてこだわらず、カタカナで済ませてしまい、改めて調べ直すなんてこともない。だから、ますます漢字を忘れる。
この問題は、若い人ほどペーパーテストで手書きをしていた学生時代からさほど離れていないので、大きな問題になっていないんじゃないかと思う。ただ、安心してはいけない。時が経つにつれて、どんどん漢字を書けなくなる。
私の場合。とくにアヤシいのは「誘う」と「誇る」である。この 2つはちゃんと読み分けることができるのに、書く段になると「ありゃ?」となってしまって、カタカナで済ませる代表例になってしまっている。
まあ、メモなんて自分しか読まないし、人に読ませる文書にする時は PC を使うから、書けなくても全然実害はない。「tak-shonai は 『誘う』 と 『誇る』 を手書きできない」 と気付いているのは、私自身以外に世の中に一人もいないだろう。そんなことをわざわざこうして自分からバラしてしまうというのも、我ながら困った性分である。
ただ。こうして自らバラしたことをきっかけに、これからは「誘う」と「誇る」をきちんと手書きできるようになりたいものだと、殊勝にも思っているわけなのである。
40歳を過ぎてから島根県と鳥取県、さらに 50歳を過ぎて香川県と徳島県の位置関係を正確に把握できたのだから、還暦を過ぎて 2つの漢字を明確に書き分けることができるようになるというのも、できないことじゃないだろう。
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コメント
なるほど、此れは深いですね。人を「誘つたり」人に「誇つたり」しないので「誘」や「誇」という字はよく覚えてゐないというtak先生の高潔なお人柄がうかがへます。
翻つて私はといふと、輸入の「輸」を書こうとして、よく「輪」になつちまいます。
「輪」つまり自転車が好きなので自然にさうなつちまうのでせうね。ゑへへへ。
投稿: はぎ原みづ禰 | 2016年3月17日 00:01
はぎ原みづ禰 さん:
いやはや、無駄な深読みはご無用です。
「誘致」 とか 「誇大広告」 とかいう熟語もあるので、その度に困っていたのであります ^^;)
私は 「諭」 と 「論」 が、時々 「あれ?」 になります。
投稿: tak | 2016年3月17日 20:08