「おもてなし」の語源が「裏表がない」とは、乱暴すぎる
写真は先日 JR 電車内で見かけた某コーヒー業者のポスターの一部である。"おもてなしの語源とは/「裏表がない」/「モノを以て成し遂げる」” というコピーに、ちょっといらっときた。「おもてなし」の語源が「裏表がない」とは、いくらなんでも乱暴すぎる。そんなものが「語源」であるはずがない。
わざわざ言うのも馬鹿馬鹿しいが、「おもてなし」は「もてなす」 の名詞形に 接頭辞「お」を付けただけだから、「表/裏」とは関係がない。後からこじつけで「裏表のない心で、おもてなしします」とかいうなら、まあ、ちょっと気の利いた洒落にはなるかもしれない。「深いい」なんて思う人も、中にはいるだろう。しかしそれを「語源」なんて言った時点でそれも台無しで、単なる無知に成り下がる。
「モノを以て成し遂げる」という方はまだマシに思えるかもしれないが、これもまたかなりこじつけだ。「モノを以て」というのは、関係がない。「モノ」が必ずしも介在しなくても、「もてなし」は成立する。また「成し遂げる」とは、ちょっとヘビーすぎる。
「おもてなし」の接頭辞をとれば「もてなし」で、元々の形は「もてなす」という動詞。そしてその頭の部分の「もて」というのもまた接頭辞で、「もてあそぶ」とか「もてはやす」とかいうのと同様に、「以て」から来ているのは間違いないが、それほどの意味はなく、動詞に付いて意味を強めたり語調を整えたりする働きをする。
「もてあそぶ」が「モノを以て遊ぶ」というわけじゃないし、「もてはやす」が「モノを以てはやす」という意味でもない。だから「もてなし」 だって「モノを以て」というのが条件になるわけでもない。ことさらに「モノ」なんて持ち出さなくても、さりげない心遣いだけで「もてなす」ことだってできる。
「裏表」の話に戻って文字通りにこだわれば、「おもてなし」は「裏表がない」じゃなくて「裏しかない」ってことになるなんて、シュールな揚げ足取りをされかねない。先だっての東京オリンピック招致以来、「おもてなし」が一人歩きしすぎているような気がする。
もしかしたら、「語源」 の意味を知らない人が多いのかなあ。
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コメント
「おもてなし」の語源については考えたことはありませんが、大辞林で当たってみるとみるとtakさんの書かれているとおりですね。
しかし、ネットで当たってみると。出てくるわ出てくるわ「裏表無し」と「成し遂げる」語源説が。
しかも説明の論調が同じ。つまりどんどんコピペされて拡散しているんですね。
http://u-note.me/note/47487286
「うらおもてなし」と言われると、人は「な~るほど」と思うかも知れませんね。「な~るほど」と思う話は疑ってみるのは猜疑心の強い私のいやらしいところですが、コピーライターっていうのは出稿する前にそのいやらしさをなぜ忘れるんだろうって、いつも思います。
言葉を扱うのを生業としているのにです。
因みに上記のサイトの中の解説では{お仕事お疲れさまです」といっておしぼりを出すのもおもてなしなんだそうです。あ〰やだやだ、そんなおもてなし、いらない。「はい、どうぞ」で充分です。
ところで、そのコーヒー会社、イノダコーヒーでなくてよかったです。
投稿: ハマッコー | 2016年4月26日 12:13
ハマッコー さん:
本当に、ネットのせかいでは 「裏表なし」 のオンパレードなんですよね。
まさに 「コピペ」 で広がったなれの果てに違いありません。
「コピペする前に、どうして気持ち悪くならなかったかなあ」 と思うばかりです。
投稿: tak | 2016年4月26日 20:30