大都市の選挙における「知名度」という魔物
昨日の「どうしてまともなと知事が選ばれないのか?」という記事の続編である。昨日の記事には、K.N さんが次のようなコメントをしてくれた。
先日TV番組で、あるアナリストが言っていたことですが、都知事に当選するには、「政治手腕・資質プラス『知名度』が必要なのです。」とのこと。
候補者の「政治手腕・資質」なるものを一般市民がある程度把握するには結構な時間、手間、若干の費用を費やさなければいけないし、そこまでやって選挙に臨む人っていないのでは・・・。結局、メディアに露出しまくって、口達者で、一見知識人的な人を気軽に選んでしまったのでしょうね。
うぅむ、多分、これなのである。 これが「どうしてまともな都知事が選ばれないのか?」との疑問への最もわかりやすい解答だ。
これだけ情報社会となって、ちょっとインターネットにアクセスすれば溢れるほどの情報があるのに、有権者の多くは、単にメジャーなメディアに登場しまくって、「口達者で、一見知識人的」という印象の人に貴重な 1票を投じてしまう。そして東京都のような大都市圏では、「メディアに登場しまくる人が存在して、その中にはその知名度を選挙に利用する人がいる」ってなことなのだ。
さらに割り切れないことに、わざわざ投票所に行く人の多くが、「知名度」なんていう薄っぺらな基準に左右された投票投票行動を示すのである。有権者のたかだか半分以下しか投票所に足を運ばないというのに、その「わざわざ投票所に行く、意識ある有権者に見える人たち」の投票行動が、その程度のものなのだ。
どうして大都市においてこんなことになるのかといえば、それは「大都市だから」としか言えない。田舎の選挙なら、候補者の人となりを多少なりとも口コミなどで伝え聞くことが可能だが、隣に住む人との交際もほとんどない大都市においては、メディアへの露出度がモノを言う。そしてメディアへの露出度がハンパじゃない候補者が、大都市には当たり前に存在してしまうのでとにかく始末が悪い。
選挙期間中はさしものインターネットも、その強力な情報力が制限されてしまう。下手なことを書くと選挙妨害として訴えられかねないから、まともな人はまともなことを書きにくくなる。そして無責任な情報だけはあふれかえるから、インターネットそのものの信頼度が低下する。
その結果、それまでのメジャーなメディアへの露出度だけが力をもってしまう。そう考えると、あの青島幸男さんを選んでしまったことや、大阪で横山ノック府知事が誕生したことなどの意味が理解される。
逆に言えば、「知名度なんかくそ食らえ」と思っているような「冷めた人たち」は、投票所に行かないのである。それで私はずっと、都知事選挙の結果をみてびっくりしっぱなしだったのだ。「まともにモノを考えて選んだ結果とは信じられない」と思ってきたが、よく考えれば単純なことで、実際に「まともにモノを考えて選んだ結果」なんかじゃなかったのである。
これまで、田舎の選挙の汚職まみれに暗澹たる思いでいたが、大都市圏では別の意味での「民主主義の危機」が存在するわけだ。これは大都市における投票行動が、「民主主義そのものがもつ最大の弱点」である「ポピュリズム」の傾向に振れやすいことを意味する。
インターネットの情報力がもっと地に着いたものとなれば、このリスクは乗り越えられる可能性があるが、逆に、より極端なポピュリズムの方向に振れてしまうリスクもある。
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コメント
前回の記事と一緒にコメントします。
1995年の知事選挙で東京の青島幸夫と大阪の横山ノック(山田勇)が対比されることが多いですね。
当時から大阪府民であった私には、お笑い芸人を選んだ大阪の方に比べて、まだしも作家を選んだ東京の方がましなような表現には反発を感じておりました。
1995年の実際の選挙戦を振り返ると、大阪は与野党相乗りの科学技術庁の事務次官と何でも反対の共産党候補と、元民社党参議院議員で党籍を離脱した山田勇の三択でした。
借金を増やし続ける与野党相乗り候補にNoを宣言して、現実的な政策を希望する者(私も)には他に選択肢がありませんでした。
一方東京は、大阪と同じく後継指名を受けた元官僚候補と共産党に青島候補以外にも大前研一や岩国哲人さんも出ていたわけですから、有権者の判断に優劣をつけるなら東京の方が問題だろうと思っています。
さて山田勇氏は金銭的にはクリーンで堅実な運営で課題をこなしていましたが、女好きという弱点を突かれて引き摺りおろされました。
その後の役人上がりの相乗り候補の女性知事で借金を再度拡大することになり、橋下・松井の荒療治が必要な状況を作ってしまいました。
ハマッコーさんが挙げられた山田勇氏の学歴をけなすような話であったり、橋下氏の発言の一部を切り取ったり、強権的な手法の一部のみを全国に発信しているような主要マスメディアは、地道な努力をしていた彼らに対して大変非礼であったと感じています。
大阪のお笑い基礎票が100万票とか喧伝されたりしますし、大阪人はインタビューにノリで応えたりしますのでわかりにくいかもしれませんが、大阪の有権者の本質はシビアなものだとお伝えしたくてコメントしました。
投稿: ちくりん | 2016年5月23日 10:14
ちくりん さん:
私も当時、青島さんに比べればノックさんは格段によくやっているという印象がありました。
東京の有権者は確かに大阪よりも「お気楽」すぎです。
ただ、ノックさん、最後があまりにもカッコ悪かった。
投稿: tak | 2016年5月23日 21:32
知名度ともう一つの要素に「人柄がよさそうだから」と言うのがありますね。
街頭インタビューで、○○候補を応援する理由は何ですか?と質問されて「人柄がよさそうだから」と言うのが多いですね。大体がおばさんですね。
政治家と言うのは「人柄がよさそう」を演じるプロですよ。
テレビに登場するときは終始ニコニコしてるけど、それ以外は実に無礼で高圧的な議員を個人的経験から知っています。(その議員は知名度は高く人柄はよさそうですが、結局は何もできない、しない人でした、ただの政治屋ですね。)
「人柄がよさそうだから」で投票しちゃうのは民主主義の破壊につながると言ってもよいと思う
投稿: ハマッコー | 2016年5月24日 12:19
ハマッコー さん:
「人柄がよさそうだから」 というのは、結局何も言っていないのと同じですね ^^;)
投稿: tak | 2016年5月24日 18:48