二の足踏んだら三の足
昨日付の毎日新聞に、共同通信社の実施した世論調査の結果が掲載されていた。選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられるのに伴い、6月末までに 18、19歳になる人を対象にした意識調査である。
この調査では、この夏の参院選に「必ず行く」「行くつもりだ」との回答は計 56%で、「行かないつもりだ」「行かない」は計 12%。残り 32%は「今はよく分からない」との回答だった。少なくとも半数以上は選挙に「行く」と答えているわけだ。
しかし、これは全然アテにならない。この記事も次のように皮肉に結ばれている。
設問の違いなどで直接の比較はできないが、2013年 7月の参院選の前に、毎日新聞が 20歳以上の有権者を対象に行った電話世論調査で、投票に「必ず行く」と答えたのは 60%、「たぶん行く」30%、「たぶん行かない」5%、「行かない」2%だった。実際の選挙区の投票率は 52.61%。
つまり、20歳以上の有権者を対象とした調査で 80%が「行く」と答えていたのに、実際の投票率は 53%に満たなかったのである。この傾向に関しては私も 12年前の記事で「ウソばっか!」と嘆いている(参照)。この年の参院選では、読売新聞の世論調査で「(投票に)必ず行く」が 77%になったが、実際の投票率は それより 20ポイント以上も低い 56.44%だった。この類いの調査って、大抵はこんなもんだ。
「選挙に行くか?」と聞かれたら、多くの人は「行く」と答える。しかしその中のかなり多くが、実際には行かない。聞かれた時には何となくカッコつけて、「必ず」か「多分」かの程度の違いはあるとしても、つい「行く」と答えてしまう。そして結果としては自分の言葉を裏切るケースがかなりの比率になる。
なるほど、これが「二の足」さんというものかと思う。「二の足」さんとは、"emi's" というブログを書いておられる emi さんの造語のようなのだが、要するに「二の足」を踏んじゃう人たちのことである。ワークショップなどの募集をすると彼らは、「おもしろそう」「やってみたい」という反応を示す。しかし実際には参加しない。詳しくは、次の 2つの記事を参照すると 「な〜るほど」 と思うだろう。
emi さん自身は「一の足」タイプなので、「やってみたい=やる」「やらない=やってみたくない」と単純に割り切るというのだが、「二の足」さんたちはそうじゃないようだし、どうやら質問者に対して「気を遣っている」というわけでもないらしい。「興味あり」と「実際行動に移す」ということの間に、結構なギャップがあるとしか言いようがないのだ。
私はこうした傾向に関しては単純に「ウソばっか!」と思ってきた(私も「一の足」タイプのようなので)のだが、emi さんの分析を読んで、「なるほど、まんざらウソばっかってわけでもなかったのね」と納得するようになった。要するに「二の足」なのだね。そうとしか言いようがない。
総務省や選挙管理委員会あたりは、「二の足」さんたちが実際に投票所に足を運ぶことができるような、さりげなく背中を押してあげる環境作りをすることが求められるのかもしれない。「二の足踏んだら三の足!」なんていうようなテーマの、投票促進キャンペーンである。でもまあ、お役人たちはやらないだろうね。発想は案外理解できても、実際にはきっと「二の足」を踏んじゃうだろうから。
それに「二の足」さんたちは、「三の足」を踏み出そうとしても「四の足」を踏んじゃうかもしれないし。
それからもう一つの分析。今の 17〜18歳は、「行く」(「必ず」と「行くつもり」の合計) と答えたのが 56%と、ちょっと前の読売新聞の調査の 20歳以上の 77%が「必ず行く」と答えたのに比べれば、かなり正直な数字に近付いているようなのである。実際の結果がこの数字に近かったら、最近の 10代は「二の足」さんの比率がとても低いことになる。
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コメント
「選挙にいきましょう」だけでは二の足踏むでしょうね。
ある有力候補者を応援するならその方法は三つある。
一つ目はその有力候補者の名前を書いて投票する。
二つ目は白票を投票する。
三つ目は投票に行かない。
その有力候補者に反対なら方法は一つだけ。
他の候補者の名前を書いて投票するしかない。
白票と棄権は有力候補者に有利に働く。
北欧では子供たちにこんな風に教えるんだそうです。
このように呼び掛けたほうがが二の足踏まないと思います。
「政治に興味ない人は寝ててくれたほうがいい」は正鵠を得ていますね。
投稿: ハマッコー | 2016年5月 7日 01:43
ご紹介ありがとうございます。ハマッコーさんがおっしゃるとおり、私も選挙に関しては、「二の足」さんを熟知した人たちがそれを利用することで、戦略的に「二の足」が強化されているという面があるように思います。
私の知る限り、教育には(本来の選挙と同様に)「二の足」を促進させるような場面はあり得ないと思いますが、“教育風”ビジネスでは「二の足」に利用価値を見ている気がします。「二の足」さんたちはそのあたりの見極めが苦手なので、「とりあえず全部に二の足を踏んでおこう」となっているのかもしれません。
「それは防衛にも安全にもならないよ」ということを理解してもらいたいですね。
投稿: emi | 2016年5月 7日 07:28
ハマッコー さん:
私の選挙に関する行動パターンは、ご紹介された北欧での教育の、
>その有力候補者に反対なら方法は一つだけ。
>他の候補者の名前を書いて投票するしかない。
に一致します。
これはごく当たり前の理屈と思ってきましたが、それを理解していない人が案外多いようだと、今さらのように気付きました。
強いて言えば 「他の候補者」 が複数存在する場合は、「よりマシな候補者」 を選択することになり、それがなかなか難しい場合がありますね。
例えば、A、B、C の 3人の候補者がいて、A は最も有力とみられるが、当選させたくない。しかし、残りの B、C は、さらに当選させたくない候補であるという場合、どうするか。
私は B、C のうち、「よりダメじゃない方の候補者」 に投票します。
どうせ A が当選するにしても、「圧倒的勝利」 とならないようにしたいと考えると、このようなパターンに落ち着きます。
投稿: tak | 2016年5月 8日 14:45
emi さん:
>“教育風”ビジネスでは「二の足」に利用価値を見ている気がします。「二の足」さんたちはそのあたりの見極めが苦手なので、「とりあえず全部に二の足を踏んでおこう」となっているのかもしれません。
なるほど。それで世間には、なるべく気軽に二の足を踏みやすいようなプロモーションが、あんなにも溢れているわけですね。
投稿: tak | 2016年5月 8日 14:50