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2016年5月29日

固有名詞まで訛っちゃうんだもの

11日の記事で、庄内では「祥月命日」を「しょっづぎめーにづ」と訛るので、ずっと「正直命日」だと思っていたということを書いた。「祥月」と「正直」は、耳で聞いただけではほとんど区別できないのである。同様に、「獅子/煤」も紛らわしい。しかし「寿司」はアクセントの違いによって完璧に区別できる。

東京方面から庄内に来た人は、「庄内弁って、固有名詞まで訛るんだもの、聞いててわけわかんない」と言う。そりゃそうだ。普通の単語を訛って、固有名詞だけは訛らずに発音するなんて不自然なことはしない。すべて平等に訛る。

例えば、庄内では「佐藤、齋藤、馬のクソ」というほど、佐藤、齋藤という名字が多い。しかしネイティブな庄内弁では佐藤さんのことを 「さとうさん」なんて言わない。「さどさん」である。他から来た人は「佐渡さん」だと思うだろう。同様に、「齋藤さん/伊藤さん/後藤さん」 は、「さいどさん/いどさん/ごどさん」になる。

ちなみに、佐藤さん、齋藤さんは、あまりに多すぎるので、大抵は名字ではなく名前の方で呼ぶ。そうでないと、「さどさ〜ん」 なんて呼びかけたら、同時に 5〜6人が振り向くことになる。今はどうだかしらないが、昔は「さとうさ〜ん」と呼ばれても、自分のことと思わない人がいて、3〜4人しか振り向かないなんてこともあった。

「さどさん」が「佐渡さん」じゃなく「佐藤さん」で、「いどさん」が「 井戸さん」じゃなく「伊藤さん」、「ごどさん」が 「神様」じゃなく「後藤さん」だというのは、庄内人の耳がそんな風にできちゃってるので全然問題ないのだが、庄内人でも区別できずに困る固有名詞というのがある。

その代表格が「静子/鈴子/節子」だ。庄内の年寄りが発音すると、「静子/鈴子」は、どちらも「すずこ」になりやすい。極めると、ビミョーに 「ン」が入って「すずこ」になる。こうなると、その人の名前を文字で確認するまではなんという名前なのかわからない。

さらに面倒なのは、「静子」をきちんと意識して「しずこ」と発音すると、今度は「節子」と区別が付かなくなるのである。これは本当に厄介である。

その昔、母の働いていた職場にどこだかの営業のお兄ちゃんが来て、「あれ、今日は節子(せつこ)さん、いねんですが(いないんですか) ?」 と聞いた。きっと気があったんだろうね。母は「節子さんでう人は、元々いねよ(節子さんという人は、元々いないよ)」と答えた。

話がややこしくなって、よく確かめてみると、職場で「しずこさん」と呼ばれている「静子さん」は確かにいるが、その日に限って休みを取っていた。ところが営業でやってくる若いお兄ちゃんは、おばさんたちに「しずこさん、しずこさん」と呼ばれている若い女性は、「節子さん」なのだと思っていたのである。

だって、庄内のオバサンはフツー、「静子さん」のことは「すずこさん」と言うから、よもや本来の発音通りに「静子さん」だったとは思いもしなかったようだ。私だって時々母の話に出てくる「しずこさん」を「節子さん」だとばかり思っていたのだから、営業のお兄ちゃんの勘違いはごく当然である。その静子さんは若くてきれいな女性だったので、オバサンたちもちょっと意識して訛らずに「しずこさん」と呼んでいたのだろう。そのせいでかえってややこしいことになった。

そんなことを言ったら、私の母の名前も、思いっきり訛って呼ばれていた。母の名は「千枝(ちえ)」だが、庄内では女性の名前はなんでも最後に「子」 付けて呼ぶ傾向がある。だから母も親戚中では 千枝子」と呼ばれていた。ところが字で書けば「千枝子」だが、何しろ訛るので、実際の発音は「ついこ」になってしまう。だから知らない人は、私の母は「ツイ子さん」だと思ってしまっても仕方なかっただろう。

その流れで言うと、私が現在住んでいる茨城県では、「い」と「え」がひっくり返る。庄内では区別が付きにくいだけだが、茨城では本当に見事に入れ替わってしまうのである。私が今の家の購入契約をする時、「それでは、『えんかん』をお願いします」 と言われて、一瞬「鉛管?」と思ったが、それは「印鑑」のことだった。何しろ「色鉛筆」が「エロいんぴつ」になるというぐらいである。

茨城に限らないと思うが、「きみい」とかいう名前のおばあちゃんがよくいる。彼女の親は生まれた子の出生届を役場に提出する時、つい平仮名で「きみい」と書いてしまったわけなのだが、意識としては「公恵さん」とか「君枝さん」とかと同じ名前のつもりだったんじゃないかと思われる。だって茨城県では、「公恵さん」も「君枝さん」も「きみいさん」と発音されるんだもの。ああ、ややこしい。

言文一致とは厳密に言えばなかなか難しいもので、一筋縄ではいかない

 

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コメント

静子さん、鈴子さん、節子さんと、宍道湖は近縁性があるのでしょうか。
ちっちゃい「ん」が、かわいかったッス。

エロインピツ、様々な妄想が脳裏をよぎります。
エロと色には、近縁性がありそうで…。

投稿: 乙痴庵 | 2016年5月31日 12:27

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