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2016年6月24日

アヤしいマーケティング手法

『現代広告の心理技術 お客が買わずにいられなくなる心のカラクリとは』(ドル—・エリック・ホイットマン 著)という本が、ネット上で注目されている。まあ、注目されているといっても、SNS などで自分で宣伝しているだけなのだが。

どんな本かというと、「消費者心理を科学的に暴きお客の心理を研究し尽くした本」なんだそうだ。とくに話題になっているのが、"悪用厳禁:「恐怖を利用して売る」とても簡単な方法" というものである。一見かなりもっともらしい。

一流大学の教授と一流企業の研究機関が共同開発した 100%ダニの侵入を防止する ”枕カバー” (価格は 980円) を売る際に、どんなチラシを作ればいいかと、この本は問うている。で、どうするのかというと、こんな風にチラシに書くのだそうだ。

実は、2年間使用した枕の重さの10%は、ダニの死骸とその排泄物だと知っていましたか?

実はあなたの枕カバーには、何千、何万匹というダニがいます。そのダニはどんどん卵を生み続けます。ダニの数は増えるだけではありません。そのダニは糞を撒き散らしたり、そのまま死んでいくダニがどんどん増えていきます。

(馬鹿馬鹿しいからちょっと中略)

でも、大丈夫。ダニの侵入を 100%防ぐ枕カバーというのがあるんです。これは、一流大学の教授と一流企業の研究機関が共同開発したもので、しかも、値段は1000円もしません。

と、こうした「恐怖を利用して売る」やり方をすると、販売のレスポンスが飛躍的に高まるのだそうだ。ふーん、なるほどね。

私がここで「なるほどね」と書いたのは、広告の作り手の方から悪用スレスレの方法論をバラしてもらったので、騙されにくい消費者になることができるという意味である。これから先は、こうしたあざといやり口に遭遇しても引っかからなくなる。「ハハーン、例のヤツだな」ってなもんである。

本当に枕の中がダニの糞と死骸だらけだったとしても、それを知らなかったら、なんてことなく寝ていられるのである。知った途端に変な気分になる。まさに「知らぬが仏」である。そしてたとえ知ってしまったとしても、「それがどうした?」で済ませることができる。「そんな枕を何十年も使ってきたけど、別にダニの糞まみれなんかにならずに済んでるじゃん!」と気付きさえすればいいのだ。

そもそも、このダニを防ぐ枕カバーという例からして「あり得んだろ!」という無理な設定である。まともな消費者なら、「ダニの侵入を 100%防ぐ」 という枕カバーがわずか 980円だなんて、「どんな仕掛けなんだ?」と疑心暗鬼になる。「人体にだっていいはずがないんじゃなかろうか」と思う。そして、そうした疑問に丁寧に答えよとは、この本は全然言ってない。

よく考えると、この本、かなり「トンデモ」なんじゃあるまいかってなことになる。そしてふと思い出して発売元を調べてみると。「ダイレクト出版」という会社である。この出版社の本については、前にもクサしたことがある。去年の今頃の、"ならば私は「¥記号をつけた数字で表示:¥1,200」 の店を選ぶ" という記事だ。

槍玉に挙げたのは、『脳科学マーケティング100の心理技術』という本だ。この本は、レストランのメニューでは、 値段を表すのに「¥1,200」でも「千二百円」でもなく、単に「1200」と書けば、客の心理的抵抗感を軽減できるとしている。

しかし実際問題として、メニューに単に「1200」なんて書いているレストランなんてろくなもんじゃないと思うのは、私だけではなかろう。うさんくさすぎるではないか。で、今度の本はモロに「柳の下のドジョウ」みたいなのだ。巧みに恐怖心を煽るのは、カルト宗教と同じ手口で、ますます信用できない。

この本を書いた著者にしても、出版社にしても、そんなに有効な方法論があるなら、秘密にして自分だけで実行すればいいようなものだが、こんなアヤシげな本にして売るというのだから、それだけで「なんだかなあ」と思ってしまう。

馬券の指南という商売があるが、そんなに競馬で当てることができるなら、誰にも教えずに自分だけで大穴馬券を買えばいいではないか。実際には自分でやっても儲からないから、人にやらせて金を取る方が確実なのである。そしてその先のことまでは、責任を取らない。

 

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コメント

こういうレヴェルの本はよくコンビニで売られていますが、十秒ほど立ち読みすれば閉じてしまいますね。

こういう本を誰が買うのかと思いますが、全国の55000軒のコンビニで一冊ずつ売れても採算が取れるんでしょう。内容に「なるほど」って思う人が一定数存在する。


ところで、「一流大学の教授と一流企業の研究機関が共同開発した」なんて言えば、人は「ほうっ、なんだろ」って耳を傾けるのかな?と思います。
そんなフレーズを言われたら、私なら途端に疑ってしまう。

「元検事である公正公平な第三者である弁護士」というフレーズを何十回と多用した御仁がいましたが、聞けば聞くほど猜疑心が湧いてきますね。実際あの弁護士は、第三者でも何でもなかった。

権威付けするために言葉を費やすほど怪しさが増すということに気が付かない人が多い。

投稿: ハマッコー | 2016年6月24日 23:13

ハマッコー さん:

なるほど。

「疑似科学」よりタチが悪いですね。

投稿: tak | 2016年6月26日 01:03

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