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2016年8月 6日

"Hunting cap" と「鳥打帽」

年に数回あるかないかの、ファッション・ネタである。

英語の "hunting cap" は日本語で「鳥打帽」と言われることが多いが、実は昔から、両者はかなり重なる部分が多いもののイコールの関係ではないのではないかと、漠然と思っていた。ただ、あまり漠然とした思いだったので、この年まで改めて検証してみるまでには至らなかったのである。

こういうことって、案外誰でもあるんじゃなかろうか。ぼんやりとした疑問を、長年胸の奥にしまい込みながら、何となく晴れない思いになっているってことが。最近、この長年の漠然たる疑問が熟成されて遂に「明確な疑問」と化してしまい、ようやく調べてみる気になった。

手始めに Wikipedia で「ハンチング帽」を調べると、次のように説明されている。

裕福なイギリス人の間ではシルクハットを被る習慣があったが、乗馬や狩猟などの激しい運動に向いていなかったため、頭の形に合っていてずれにくいハンチング帽が生まれた。実用性が高く安価に生産できるハンチング帽は、庶民にも広まっていった。特に庶民が好んで着用したことから、ハンチング帽は庶民のシンボルとなった。現在では風雨や寒さから頭部を護ると言う実用的な意味は薄れ、もっぱらファッションアイテムとして扱われている。

日本語では鳥打帽(とりうちぼう)とも呼ばれ、明治20年(1887年)頃から商人が被るようになったため、当時は商人の象徴となった。近年は刑事(特に特高)・探偵のイメージに使用される場合もある。

そして Wikipedia のこの項目に添えられた写真は、こんなやつだ。日本人の抱く「鳥打帽」のイメージにぴったりである。帽子の上の部分が前方にたぐられるようにして、つばの部分に引っ付いている。

Flatcap

なるほど、項目の説明にもぴったりのイメージである。これが「庶民のシンボル」となったということに関しては、古い洋画を見てもこんな帽子が労働階級のアイコンみたいに使われているし、一方日本で「商人の象徴」となったということについても、「なるほど、確かにそうだよね」と思う。富山の薬売りさんも、よくかぶっていた記憶がある。

しかしこの Wikipedia の項目には、次のような記述もある。

ハンチング帽には様々な種類が存在し、正統派とされるものは天井が真円に近く、一枚布で作られたものである。

そして、モナコハンチング、 アイビーハンティング、プロムナード-、キャスケット などのバリエーションが存在するという。キャスケットというのは、近年ではファッション・アイテムとして、可愛い女の子がかぶったりしている。

試しに英語の "hunting cap" で画像検索してみると、なるほど、確かにいろいろなスタイルのものがある(参照)。日本人のイメージする「鳥打帽」のまんまのものが最も多いようだが、そればかりではない。ベースボール・キャップのようなものもあり、はたまた耳覆いのついた越冬隊の帽子みたいなのもある。

やはり、日本人のイメージする「鳥打帽」は、本来の "hunting cap" の代表的なスタイルではあるが、それだけというわけではなく、どうやら「含む/含まれる」の関係のようなのだ。「鳥打帽」は "hunting cap" に含まれるというところに落ち着くと考えればいいだろう。

うん、これで「漠然たる疑問」は解決した。

しかし、新たな疑問も湧いてきた。Wikipedia の中の 「近年は刑事(特に特高)・探偵のイメージに使用される場合もある」 という部分である。なるほど、確かに鳥打帽は、昔の刑事や特高の、悪いイメージに使われることがあったと思う。しかしその理由がはっきりしない。

これに関しては、シャーロック・ホームズがかぶっていたからだという説があるが、実は彼がかぶっていたのは 「鳥打帽」 ではなく、「鹿打帽」 (deerstalker hat) というものだ。Wikipedia の「鹿撃ち帽」の項目には、こんな写真が添えられている。

Yellowhardhat

なるほど、確かにこれがシャーロック・ホームズのかぶっている帽子の、典型的なイメージだ。これは「鳥打帽」とは全然違う。じゃあ、どうして日本では「鳥打帽」が刑事や探偵のアイコンとして使用されたのだろう。これは大きな疑問である。

私が思うに、戦時中は「嫌われ者」だった特高を映画の中で描くのに、あえて「庶民の象徴」だった鳥打帽をかぶらせて、「国家権力」というもののイメージを引きずり下ろしたという意図があったのではなかろうか。貴族的なイメージの「鹿打帽」なんか、決してかぶらせてはいけなかったのである。

う〜む、「鳥打帽/ハンティング・キャップ」ということから、意外なところまで世界が広がってしまった。

 

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コメント

庶民に紛れて情報収集するスパイのイメージからなのかな、とも思ったり。

投稿: たに | 2016年8月 8日 11:08

たに さん:

>庶民に紛れて情報収集するスパイのイメージからなのかな、とも思ったり。

なるほど。
でも、いかにもイメージ通り過ぎて、かえって目立ったりして (^o^)

投稿: tak | 2016年8月 8日 14:44

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