この夏、逃水を見ていない
昨日と今日、茨城県内のあちこちに行く用事ができて、炎天下を車で走り回って気がついた。そういえば、今年の夏は逃水(にげみず)を見ていない。
逃水とは言うまでもなく蜃気楼の一種で、よく晴れた暑い日にアスファルト道路を走っていると、遠くの路面が水浸しになったように、青い空が映ったりしているように見える現象である。真夏のドライブではお馴染みだ。
ところがこの夏、その逃水を一度も見ていない。一つには、私自身がこの夏にそんなに長距離ドライブをしていないということがある。田舎の両親が亡くなってからというもの、真夏に帰省することが減って、帰るなら道路が混まず、暑くも寒くもないいい季節を選んだりしている。
とはいえ、近郊の道路を運転することはある。そしていつもの夏は、暑い日にちょっとした直線道路を走れば、当たり前のように逃水が見えたものなのだ。それを一度も見ていないというのは、一体どうしたことなんだろう。
逃水というのは、熱せられた路面とその上の空気層に温度差が生じて、光の屈折率がかわってしまうことで起こる現象だ。ということは、世の中が暑くなりすぎて、熱せられた路面との温度差が小さくなってしまったのだろうか。いやいや、その辺りのことはよくわからないが、来年の夏はごく当たり前に逃水を見て、少しは安心したいものだ。
ちなみに逃水という現象は昔からあったようで、歳時記にも取り上げられている。しかしそれは、春の季語として載っているようなのだ(参照)。アスファルト道路のない昔は、春によく見られる現象だったんだろうか。環境が変わると季節感まで変わってしまうもののようなのだ。
源俊頼の歌に「あづま路にありといふなる逃げ水のにげのがれても世を過ぐすかな」というのがある。昔は都路では逃水が滅多に発生せず、遙か東国ではよく見るというようなものだったのだろうか。
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