落とし物を拾ったら
先日、ちょっと所用があって地元の警察署に行った。建物の一番近くの駐車スペースが空いていたのでそこに駐車し、ドアを開けて車から出ると、目の前に新品のタオルが落ちていた。普通の場面ならちょっと拾って近くの塀にでも引っかけておく程度で済ませただろうが、まあ、場所が警察署の正面玄関前ということもあり、気軽に拾って拾得物として届けることにした。
で、その程度の落とし物なら、「はい、どうも」 と受け取ってくれて、それでおしまいかと思ったのだが、そうではなかった。窓口の婦人警察官が一通りのことを聞いてくる。
「どちらで拾われましたか?」
「ここの正面玄関前です」
「いつ拾われましたか?」
「今しがたです」
「それでは、住所氏名をこちらに書いて下さい」
この辺りで、「おいおい、ちょっと大げさすぎるんじゃないの?」という気がしてきたが、へたに逆らってタイホされちゃ困るので、求められた通りに住所氏名を書く。すると「ただ今、書類を作成しますので、15分ぐらいお待ちください」と言うのである。
こんなことで 15分もかかるのかと思ったが、まあ、その間に本来の用事をささっと済ませてその窓口に戻ると、ワープロで綺麗に作成された届出書が印刷されている。それを前に、さらに聞かれる。
「持ち主が現れたら、あなたの住所氏名を知らせることを希望しますか?」
「へ? 何のために?」
「お礼を差し上げることもありますので」
「いや、タオル 1枚のお礼なんていりませんから、それには及びません」
こう言うと、彼女は書類の「知らせない」という項目にチェックを入れた。その上で私が内容を確認して署名し、これでようやく手続き完了で、解放されたのである。やれやれ。
そこで私は、ちょっとしたことを思い出した。もう 10年以上前のことになるが、あるショッピングビルのトイレで、分厚い革財布を拾ったのである。中には 1万円札がざっと見ても 10枚以上と、複数のクレジットカード(しかもすべてゴールドカード)が入っていた。
私はそのあたりはとても正直者なもので、そのトイレを出て一番近くの店の店員に、「これ、トイレに落ちてましたよ」と届けた。若い男の店員は、「はい、どうもありがとうございます」と、軽い気持ちで受け取ってくれた。
その時は、さすがに大金の入った財布だけに、こちらの住所氏名ぐらいは聞かれると思ったのだが、そんなことは全然なく、財布を渡しただけで呆気なく一丁上がりになってしまった。私としては、正直なところ「落とし主が現れたら、1割ぐらいお礼がもらえるかも」なんていう下心もなくはなかったのだが、あまりの呆気なさに拍子抜けして、そのまま帰って来てしまった。
ところが、タオル 1枚でこんなに面倒な届け出が必要ということを知ってしまうと、あの時の分厚い革財布の処理はどうなったんだか、今頃になって思い出され、気になってしまったのである。
あの店員、あの財布をどうしたんだろうか。落とし主が現れたとしても、あの店に問い合わせるとは考えられない。ということは、彼がトボけてしまえば、それでおしまいである。もしショッピングビルの管理事務所または警察に届けてくれたとしても、自分の手柄にしちゃって、ちゃっかりお礼を受け取ったりしてないだろうか。
なんだか割り切れない思いがするのである。私は今回の経験で、落とし物を拾ったら、拾った場所がどこであろうとも、例えば大きなショッピングセンターだったとしても、直接警察署に届け出ようと思ったのだった。ちょっと面倒だが、それが最も公明正大な、ということは、人を変な道に誘い込まなくて済む方法のようだから。
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コメント
警察に落とし物を届ける時は、”権利放棄します”と宣言すれば、住所氏名は聞かれますがそれ以上はありませんでしたよ。処理方法が変わったんでしょうか。そんなに手間がかかると届ける人が減ってしまいそうですね。
権利放棄宣言に警察官から ”えっ、二割の謝礼を貰えますよ” と言われたことがありますが、ええかっこしなので落し物は届けても謝礼は受け取らないことにしてます。
投稿: ハマッコー | 2016年8月31日 20:11
お札はともかく、はたから見て価値がないような落とし物(例えば、ぼろぼろのぬいぐるみとか、意味不明なことが書いてあるノオトとか、こきたない手袋とか、七三わけのかつらとか…w)でも、落とした本人にとっては大事なものかもしれないので、警察署に届けるというのは全くもって正しい処理ですね。
と、ここで私が思い出すのが、埼玉県のある交差点の歩道にちょこんとおいてある汚れたくまのぬいぐるみ。自転車で何回か通ってもいつもあるのです。
これは誰かが落としたものなのか、ここで亡くなった子どものために誰かが置いたものなのか、何かの目印なのか…う~ん、考え始めると、また妄想病が始まります(おいおい)。
投稿: はぎ腹みづ寝 | 2016年8月31日 22:43
ハマッコー さん:
>権利放棄宣言に警察官から ”えっ、二割の謝礼を貰えますよ” と言われたことがありますが、
「二割の謝礼」って、法的に決まってるのか、あるいは単なる慣習なのか、その辺がよくわかりませんね。
投稿: tak | 2016年9月 2日 05:21
はぎ腹みづ寝 さん:
>ここで亡くなった子どものために誰かが置いたものなのか、
その説に一票。
投稿: tak | 2016年9月 2日 05:22
遺失物法
第28条 物件(誤って占有した他人の物を除く。)の返還を受ける遺失者は、当該物件の価格(一部省略)の100の5以上百分の20以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。
------------------------------
つまり、遺失者は最低5%の謝礼を支払う義務がある。最大で20%までである。
(拾得者が50%の謝礼を要求してもそれは拒否することができ、遺失者は5〰20%の範囲で支払えばよい、ということのようです)
一般的には一万円程度の低額の場合は20%、一千万円などの高額の場合は最低の5%というのが”相場”のようです。
あくまでも遺失者の裁量によりますが。
投稿: ハマッコー | 2016年9月 2日 15:04
ハマッコー さん:
ほほう。初めて知りました。
じゃあ、権利放棄しなければ、落とし主の 「義務」 として支払わなければならないんですね。
投稿: tak | 2016年9月 2日 16:43
店舗や駅といった施設の落とし物は、その施設の管理者が報労金をもらう権利を有します。
お客さんが拾って届けた場合の報労金は、施設の管理者と折半になります。
それはともかく、拾い物は塀の上に置かないでください。そんなところに落とすことは絶対にありえないのですから、そんなところに置かれても落とした人は見つけることができません。
投稿: にっしー | 2017年3月 3日 00:04
にっしー さん:
>お客さんが拾って届けた場合の報労金は、施設の管理者と折半になります。
商業施設内で落とし物を拾ったら、近くの店員じゃなく、施設の管理事務所に届ける方がよさそうですね。
あるいは、近くに警察署があったら、直接警察に。
それから、塀の上に云々というのは、せいぜい低い生け垣程度 (1メートルちょっとぐらい)を想定して書いています。
いくらなんでも人の視線より上にひっかるような非常識はしませんので、よろしく。
投稿: tak | 2017年3月 3日 01:23