"Poco a poco" を巡る冒険
"Poco a poco" というスペイン語がある。発音は「ポコ・ア・ポコ」とカタカナ読みで通じる。昔、この名前の喫茶店があって、悪い友達が 「あの店の名前の意味は『ここはどこ?』ということだ」 と言うので、一瞬信じそうになった。ずっと信じてしまったやつもいるらしい。
本当は音楽用語として使われることが多い言葉で、「徐々に」とか「だんだんと」とかいう意味である。上の画像では "poco a poco accelerando" という指定があるが、"accelerando" (アッチェレランド)というのは 「次第に速く」という意味で、英語なら "accelerate" (加速する)だろう。
この場合はその前にある "poco a poco" との合わせ技で、「徐々に」プラス「次第に」とくどいほどに意味が強められている。単なるアッチェレランドと、加速具合がどのくらい違うのか、私としてはよくわからない。結局のところ演奏者や指揮者のお好み次第なのだろう。
そして "poco a poco rit." となると、"rit." というのは "ritardando"(リタルダンド)の略で、意味は ”accelerando" の反対の「次第に遅く」だから、逆方向の合わせ技になる。印象では "poco a poco rit." の方がよく多く見られる気がするが、調べ尽くしたわけじゃないから、本当のところはわからない。
ちなみに上の画像の真ん中辺りにある "poco cresc" というのは 「ポコ・クレッシェンド」で、「ちょっと次第に強く」 ということになる。「ポコ」は「ちょっと」で、「ポコ・ア・ポコ」は 「ちょっとずつ」である。こうなると、その厳密な違いなんてまったくよくわからない。
このあたりで想像がついたと思うが、イタリア語、スペイン語の "poco" は英語の "little" であり (この場合は "a little" という方が正確かな?)、"poco a poco" は "little by little" ということになる。なんだ、初めからそう言ってくれればわかるのに、音楽用語はイタリア語やドイツ語が混在するのでわかりにくい。(でも、主流はイタリア語かな?)
論理的なドイツ語だと、「ちょっとずつだんだん速く」なんて、妙にくどい言い方はしなさそうから、情緒的なイタリア語にして、初めて恥ずかしげもなく言えるニュアンスなのかもしれない。このあたりはまったく感覚の世界だけで通用するお話だと思う。
それにしても、"poco a poco" が「ここはどこ?」というのは、とてもよくできたデタラメだと思う。音韻の共通加減が絶妙だ。もしかしたら、まだ信じ続けてるやつがいるかもしれない。
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コメント
poco a pocoって、イタリア語ではないでしょうか?スペイン語でも同じなのだと思いますが、音楽用語で"poco a poco rit." と表記されているのはあくまで全体がイタリア語で、スペイン語とイタリア語を組み合わせているわけではないと思いますが。
投稿: bambi | 2016年11月14日 20:49
bambi さん:
あれ、本当だ。
イタリア語ではスペルがちょっと違ってたように記憶していたのですが、同じですね。きちんと確認すべきでした。
ご指摘ありがとうございます。記事を訂正しておきます。
投稿: tak | 2016年11月15日 08:16
昔昔、テレビで「トッポ ジージョ」の人形劇をやっていて、その中でジージョがギター抱えておセンチ(死語)な歌を歌うのですが、歌詞の「ポコ ア ポコ」というのと「時々お目目がマンマミーア」というのをよく覚えています。そうか、ジージョはイタリアンねずみだったんですね(気づくの遅いよ)
投稿: のうさぎマリオ | 2016年11月15日 12:46
のうさぎマリオ さん:
トッポ・ジージョは、なぜか記憶が褪せてしまっていて、ずっとアニメだと思っていたのですが、人形劇だったんですね。どうやら 「トムとジェリー」 とごっちゃになっていたみたいです。
まあ。確かにイタリアの名前ですよね。さて、どんなんだけ。
投稿: tak | 2016年11月16日 01:21
テレビの「トッポ・ジージョ」は、ネコくらいの大きさの人形(鼠形)を人間が下から操る、古式ゆかしい人形劇でしたね。そのちっちゃい奴が人間の出演者と会話する、今でいう「ニャンチュウ」みたいな感じでしょうか。
ジージョの声は、有名な声優の山崎さん(お名前は失念)が担当されてました。今のゆるキャラを見慣れた目にはすっとぼけた、しょぼいルックスですが、私は好きでしたね(記事とあまり関係ない話ですみません)。
投稿: のうさぎマリオ | 2016年11月16日 12:41
のうさぎマリオ さん:
断片的な記憶がよみがえりました。
「ねぇ、ロージー」 「なぁに、ジージョ」 という会話です。
それ以上はなんだかおぼろすぎます。
どうやら私が一番テレビから遠ざかっていた時期に、日本ではやったもののようですね。
投稿: tak | 2016年11月16日 17:18