ウールの洋服と羊の虐待を結ぶ関係
米国のアリシア・シルヴァーストーンという女優が、PETA (People for the Ethical Treatment of Animals = 動物の倫理的扱いを求める人々) のウール反対キャンペーンで、「ウールを着るぐらいなら裸で行くわ」 と宣言している。
PETA の同様のキャンペーンでは、毛皮に関するのが有名だ。世界中のセレブが「毛皮を着るぐらいなら、裸で行くわ」と言ってヌードになった。日本でも杉本彩がやっていたはずだ。そして今度はウールがターゲットになった。
実は私は 30年ほど前にウール関係でメシを食っていたことがあるので、今度のキャンペーンには少なからずショックを受けている。羊毛産業がそんなにまで羊を虐待しているとは、恥ずかしいことに知らなかったのだ。
羊の毛を刈ることをシアリング (shearing) というが、当時は手動式のバリカンから電気バリカンに移行して間もない頃で、毛が長く伸びた羊をちょこんと座らせて、まるでどてらを脱がせるように刈っていた。結構牧歌的な風景で、むしろ暑い季節を前に、羊としてもすっきりと涼しくなるのだと思っていた。以下のビデオのような感じである。
このように子どもにも見せる「毛刈りショー」なんてものが成立するぐらいだから、決して残酷なものではない。ところが最近は、相当に乱暴なやり方になっているところがあるようだ。次のビデオは、PETA が撮影したものというのだが、なるほど、確かに目を覆うほどの残酷さである。
私としては、すべてのシアリングがこんなにまで残虐な行為の上に成り立っているとは決して思わない。むしろこんなのはほんの一部だろう。牧羊農家としても羊は毎年ウールを生み出してくれる財産だから、大切に扱ってもらいたいはずなのだ。
しかし腕のいい職人が減って、素人が毛刈り現場に入ってきたことにより、こんなようなことも発生しているのかもしれない。ただ、あまりにもわざとらしい残虐さで、もしかしたら「やらせ」かもしれないとの疑念も浮かんでしまう。そのあたりは何とも言えない。
というわけで私としては、世界のアパレル企業に「残虐な工程で生産されたウールは使わない」という宣言をしてもらいたいのである。きちんとした工程管理をして、羊を虐待せずに生産されたという認証付きのウールだけを使用するのである。そのための認証制度を整える必要があるだろう。
もしかしたら中国などの新興国でウールスーツなどの需要が高まっていることが、シアリングの牧歌性を奪って残酷なものにしてしまっているのではないかと思う。だとすれば、我々としてはウール製品を毎年買うなんてことはせずに、同じ服をできるだけ長く着続けることが、羊に対する残虐行為を減らすことにつながると考える。
| 固定リンク
「ファッション・アクセサリ」カテゴリの記事
- 服の色によって、汗ジミの目立ち方に差があるのだね(2023.07.14)
- イッセイ・ミヤケ の死去と、「媚びないファッション」(2022.08.11)
- 福岡パルコの「攻めのジョーク」と「坊っちゃん団子」(2022.06.16)
- 「毛皮はカッコ悪い」と、ELLE も気付いたようで・・・(2021.12.05)
- 葬式の場でネクタイのディンプルは NG だって?(2021.09.16)
コメント
衝撃的な映像ですね。羊は農家にとって財産なので残酷なことをするはずがないと思いたい。
それにしてもこのような残酷なことをしなくても羊さんは毛を提供してくれると思うのですが...
やってる人間も毎日が楽しくないと思います。
もし本当なら認証制度は必要ですね。
ところで、相模鉄道は通勤電車の座席の一部を本革シートに変更しましたと、胸を張っています。当初から複雑な気分です。世界の潮流に大きく逆らっていますね。
http://www.sotetsu.co.jp/design-pj/
投稿: ハマッコー | 2016年11月26日 02:03
日本のお蚕さん文化からは、想像もできないなぁ。
「金の卵を産む鶏」に出てくる夫婦のようにはなりたくない。
投稿: 乙痴庵 | 2016年11月26日 08:56
ハマッコー さん:
本当に認証制度が必要と思い至りました。
ところで電車の本革シートなんて、「利用者にとって何のメリットがあるのか?」 と問いたくなりますね。
牛革は食肉の副産物で、わざわざ革のために殺すのではないから OK という指摘もありますが、そもそも肉食そのものが動物虐待だし、エコじゃないし、肉を食わない私としては、ベルトとか財布とか、最低限の使用にとどめたいと思っています。
投稿: tak | 2016年11月26日 13:31
乙痴庵 さん:
まさに、「お蚕さん」と呼ぶ文化とは対極のものですね。
投稿: tak | 2016年11月26日 15:35
養蚕王国だった群馬では蚕のことを昔から「おこさま」と言ってました。
「お蚕様」と表記して「おこさま」と読むようになったと思います。
「お羊様」という気持ちになれないかなあ。
そう思いながら仕事したほうが人間も幸せになれるのに。
シーシェパードはこっちの方を攻撃対象にするべきと思います。白人同士は争わないのでしょうが。
私の財布は化学繊維のもの、ベルトも靴も同様。ダサいですがそれでOK。
投稿: ハマッコー | 2016年11月26日 17:53
ハマッコー さん:
>シーシェパードはこっちの方を攻撃対象にするべきと思います。白人同士は争わないのでしょうが。
オーストラリア国内のことには目をつむるんでしょうかね。
>私の財布は化学繊維のもの、ベルトも靴も同様。ダサいですがそれでOK。
立派です。
投稿: tak | 2016年11月26日 20:12