米国大統領選の裏に潜む 「象チャート」
米国の大統領選挙がいよいよ近付いてきた。今回の選挙はヒラリーとトランプの 2人とも嫌われ者だから、見ていて馬鹿馬鹿しくなるまでの様相を呈してしまっている。しかしいくら馬鹿馬鹿しくても、2人のうちどちらかが、世界で大きな影響力をもつ米国の大統領になってしまうのだから、関心を持たざるを得ない。いや、それでもやっぱり馬鹿馬鹿しいのだが。
今年になってから、米国大統領選関連で、案外結構な本数の記事を書いた。そのうちの主なものだけを以下に挙げてみよう。
1月 7日 | ドナルド・トランプと 「本音主義」 の危なさ |
5月 14日 | 近頃台頭している 「ぶっちゃけ本音主義」 |
6月 9日 | 米国大統領選挙について書く |
8月 11日 | 米国って人がいないのか |
10月 10日 | トランプのオウンゴールで…… |
10月 11日 | わかりやすいアイコンでないと、選挙に勝てない |
こうしてみると、8月以降、とくに 10月の 10日と 11日の記事なんて、ちょっと表面的なものになってしまっていて、より本質的なことは 1月 7日の "ドナルド・トランプと「本音主義」の危なさ" と、5月 14日の "近頃台頭している 「ぶっちゃけ本音主義」" の 2本で書いているような気がする。イベントが近付いてくると、大事なことが見えなくなってしまうのだね。
要するに、当初は冗談たっぷりの泡沫候補と思われていたドナルド・トランプが、「ふたを開けてみてびっくり」の正式な共和党候補になってしまったのは、世界が「ぶっちゃけ本音主義」に傾いていることを現すのだ。私自身は、そういうの好まないんだけどね。
その裏付けとして、「象チャート」というものがある。この記事の上の方に図で紹介してあるのは、"Knowledge Forum" というサイトの「低成長の環境を乗り切る投資」という記事から拝借しているのだが、要するに、昨今のグローバル化は世界の経済を満遍なく潤しているわけじゃないってことを端的に示すものだ。
最もグローバル化の恩恵を蒙っているのは、新興国の中間所得層(図の中の「A点」)と世界の富裕層(C点)で、一方で富裕国の中間所得層の所得は実質的に低下してしまっている。ぶっちゃけて言えばこの「富裕国の中間所得層」というカテゴリーには、日本の吾々の多くが含まれているのだから、「そう言えば、近頃暮らしがしんどくなったよね」と実感されている通りなのである。
このグラフの形状が、あたかも鼻を高く上げている象のような形に見えるので、「象チャート」と呼ばれているわけだ。なるほど、グローバル化の結果として唯一著しい経済的不利益を蒙っているのが、富裕国の中間所得層なのだから、ヨーロッパで「反グローバリズム」の影響下にある極右政党が支持を伸ばしたり、英国で EU 離脱が決まったりしているのも道理と言えば道理なのだよね。トランプがここまで支持を伸ばしたのも、その一環である。
で、もうちょっと言っちゃえば、今回の米国大統領選では、リベラルな民主党と、保守的な共和党という従来の図式が崩れてしまっているようなのだ。2人の候補の言ってることを聞く限りでは、「ヒラリーは変わり映えのしないエスタブリッシュメント代表で、トランプはラジカルな庶民代表」 みたいに思われてしまうのだよ。あの田中角栄が「庶民派の英雄」みたいに思われていたように。
どうやら世界は大きく変わってきているようなのだ。今回はおそらくヒラリーが勝ってしまうんだろうが、次はわからない。トランプの主張をもう少し上手に訴えられる候補が現れたら、きっと大きく支持されるだろう。その意味で民主党のバーニー・サンダースの登場は、半歩早すぎたのかもしれない。
それにしてもヒラリーは例の「私用メ—ル」問題で、「自分のメルアドを自分で使って、何が悪いのよ」 程度の浅はかな意識でいるようなのだが、それってデジタル音痴のゴーマンなオバサンと変わらない危なっかしさだよね。ホワイトハウスのサーバに残したくないような、ビミョーなメールのやり取りをしていたと勘ぐられるのは当然のことである。
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コメント
某通信サービス系新興企業の役員が「先進国の中間層1人が没落すれば途上国の低所得層数人が中の下くらいまで上昇するんだから、グローバリズムは世界的には格差の縮小につながっているんだ」みたいなことを主張していましたが、たぶんその人自身が属する「C点」のことは頭に入っていないのだろうなぁと思いました……。
投稿: 山辺響 | 2016年11月 8日 18:30
山辺響 さん:
鋭い指摘!
C点が没落したら、途上国の人間が何万人も豊かになれるんでしょうけどね (^o^)
投稿: tak | 2016年11月 8日 23:31