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2016年12月 9日

どうして「箸」のことを "chopsticks" なんていうのか

長年にわたって疑問に思いながら、それについてつい調べそびれてきたということが、数えればいくつもある。普段はその疑問すらも忘れてしまっていて、年に 2〜3度ぐらいふと思い出すのだが、「時間ができたら調べてみよう」と思いつつ、気がつけば何十年も経っている。

Chop

 

というわけで、今回は一大決心をして、その一つを調べてみた。何かというと、「『箸』はどうして "chopsticks" というのか?」という疑問である。「箸は英語で『チョップスティックス』というんだよ」と習ったのは、多分中学生だった頃である。それも 1年生か 2年生の頃だ。ということは、ほぼ半世紀にわたって 「どうしてなんだろう」と思い続けてきたことになる。

当時は 「チョップ」 と言えば力道山の空手チョップを連想するしかない時代で、どうしてまた、「食べ物をひょいとつまむ道具」が、「叩き切る棒」というイメージの「チョップスティックス」なんてことになるんだろうと、わけがわからなかった。今なら「わからなかったら、とにかくググれ!」と言うところだが、当時はインターネットなんて存在しなかったので、疑問が疑問のままで残ったというわけだ。

で、今回初めてググってみたところ、疑問は呆気なく解決した。"【Kei式】カドを立てない英会話術辞典" というサイトに "【Kei式-世界史英会話】vol.332 箸はなぜ chopsticks という【語源】" というページがあり、そこに詳しく載っていたのである。

手短に言えば、"chopsticks" の語源はピジン・イングリッシュで、中国語(広東語を含む)と英語のチャンポンで使われていた言葉が、世界に広がってしまったもののようなのである。そうか、「箸」といえば日本食と思っていたが、元はといえば中国から広がったと考える方が自然だよね。

上述のページでの解説を、順を追って説明しよう。

  1. 箸は中国語で「筷子」(kuaizi)といい、「快」 は中国語では 「速い」 という意味。

  2. イギリス人は中国人の料理の様子を見ていて、タンタンタン……と食材を切断するのを "chop" と表現していた。

  3. 中国人は、イギリス人の言う "chop" は「切断」ではなく、「速い!」と言っているのだろう、と勘違いした。

  4. それで中国人は 「筷子=速い棒」を chop sticks と英訳し、それがそのまま世界中に拡がる中華料理とともに伝わり、chopsticks は一般的な英単語になってしまった。

ということのようだ。念のため Online Etymology Dictionary (オンライン語源辞典) に当たってみても、「広東語の "k'wai tse" (速い子) がピジン・イングリッシュになって広まった」 と、ほぼ同様のことが書いてある (参照)。

also chop-stick, 1690s, sailors' partial translation of Chinese k'wai tse, variously given as "fast ones" or "nimble boys," first element from pidgin English chop, from Cantonese kap "urgent." Chopsticks, the two-fingered piano exercise, is first attested 1893, probably from the resemblance of the fingers to chopsticks.

そして、Online Etymology Dictionary の方にはもう一つ、ピアノの練習における 2本指の快速演奏が、箸の動きと似ているからという説も併記してある。なるほどね。合わせ技でより納得しやすい。

蛇足だが上述のページには、香港人や韓国人(そして、それに影響された日本人)が、「お久しぶり」という意味でよく "Long time no see" と言うことについても解説してある。私としてはこの言い方にはとても違和感があって一度も使ったことがないのだが、やっぱりこれもピジン・イングリッシュのようだ。

これは中国語の 「好久不見」 を英語に直訳したものだという。なるほどね。道理で欧米人の口からは聞いたことがないわけだ。こればかりは ”chopsticks" のようには行かなかったわけである。

 

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コメント

この話には前日譚があります。

陸容「菽園雑記」に、「呉中。凡舟行諱住諱翻, 故呼箸為快子。」とあります。昔の船乗りは、「箸」の発音が「住」(舟が進まない)と同じなのを嫌い、敢えて逆の意味を持つ「快」に置き換えて「筷」と呼び習わすようになりました。この言い換えは中国全土に広まったため、今の中国人は「箸」という文字の意味がわからなくなっています。

投稿: tckwik | 2016年12月10日 22:11

tckwik さん:

ほほう、知りませんでした。
情報、ありがとうございます。

投稿: tak | 2016年12月12日 01:48

人気記事になっていたので今さらですが拝読したのですが。

若いころ(15年程前)定期的に集まってサッカーなどしていまして、その中にジョンというアメリカ人がいました。母語は英語で日本語はゆっくりはっきり簡易なものならわかるくらいの人でした。
あるとき半年ほどジョンが休み、また参加したときに「ジョン!久しぶりだね!」と。ここで知りたがり病が出まして「ジョン、英語で久しぶりって何て言うの?」と訊いたところ「Long time no see.」と教えてくれました(なお私の耳は悲惨なため当初はランタイノーシーと聞こえておりました(泣))。
世代や関係性によっては使うんじゃないでしょうか。

投稿: らむね | 2021年11月13日 18:27

らむね さん:

つらつら考えるに、日本語でいうところの「久しぶり」にぴったりとくる言葉が、英語にはないんですね。

それで、「また会えて嬉しい」(Glad to see you again)とか、別の言い方をすることが多いように思います。

John は、「久しぶり」という言葉の直訳として ”Lon time no see." を出したんじゃないでしょうかね。

投稿: tak | 2021年11月13日 20:57

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