国民の 61%が 『坊ちゃん』 を読んでいるというのだが
私は 2013年 5月に 「漱石文学って、もっと読まれてもいいと思うのだが」 という記事の中で、「『坊ちゃん』 を読むぐらいは日本人の常識で、少なくとも 3人に 2人は読んでいるものと信じていた」 のだが、高校に入って 「クラスの半分もいないみたい」 と気付いたと書いている。
ところが、ちょっと古い記事で恐縮だが、昨年 10月の毎日新聞の 「読書世論調査」 という記事の見出しに、『坊ちゃん』 は国民の 61%に読まれているとある。もしそれが本当なら、「少なくとも 3人に 2人は読んでいる」という私の中学校時代の思い込みはほぼ正しかったことになるが、にわかには信じられない数字だ。
毎日新聞の記事をきちんと読んでみてわかったのだが、『坊ちゃん』を読んだことがあるという回答が多かったのは、国語の教科書に載っているからということらしい。記事中から引用しよう。
「読んだことがある」 人の多い作品は、小中学校の教科書で取り上げられてきた。1906年に発表された「坊っちゃん」は小中学生向け国語、「アンネの日記」は 52年に日本語版が刊行され、中学生向けの国語や英語の教材に採用。「坊っちゃん」は現在も中学国語の教科書に載っており、国民的文学といえる。
なんだ、そうだったのか。私の使っていた中学校時代の国語教科書には 『坊ちゃん』 は載っていなかった(『アンネの日記』 は載っていたと思うが)ので、そんなこととは少しも知らなかった。しかし教科書に採用されているのは、『坊ちゃん』のほんの一部だろう。
どの部分が採用されているのかと思い、ググってみると、WKIBOOKS というサイトに 「中学校国語/現代文/坊っちゃん」 というページがあり、それによると、「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている」という有名な書き出しから、坊ちゃんが松山に旅立つために汽車に乗ったところまでである。
こんな冒頭の部分だけ教科書で読んで「読んだことがある」なんて言う人は、こう言っちゃナンだが、ちょっと図々しい。『坊ちゃん』が実際におもしろくなるのはここから先のことなのだから、ぜひ最後まで読んでみることをお薦めしたい。
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コメント
ほかの人は違う感想かもしれませんが、わたしは「坊っちゃん」は漱石さんの作品の中ではそんなによい出来とは思えませんでした。登場人物に魅力がないし、ストーリーもがさつな感じ。発表当時はこういう破天荒なキャラクターが好まれたのかもしれませんが、「草枕」のような感性のきらめきもなく、なんだかドタバタやっているうちに終了、みたいな。
かといって後期の「道草」などは読んでいて、よそのうちの家庭内のトラブルを延々と聞かされているような陰鬱な気分になるし、漱石さんという人は微妙な精神的バランスの上にいたんだなぁと思いました(夏休みの読書感想文より(笑))。
投稿: 萩原水音子(小学校四年) | 2017年1月28日 23:27
萩原水音子(小学校四年) さん;
たしかに 『坊ちゃん』 は、やたらと単純な世界ではあります。ちょっと間違えると、どうでもいい勧善懲悪ストーリーになりかねません。
しかし、ビミョーなところでその危険性から救われていると、私は思います。その魅力は多分、あの文体からきているんじゃないかと思うんですよね。
文体がすべてを救っているという感じです。
私は実は『三四郎』 が一番好きだったりするんですけどね。
投稿: tak | 2017年1月29日 23:13