『イムジン河』 を遡る冒険
"『イムジン河』 物語" という本を読んだ。「"封印された歌" の真実」という副題が付いている。高校時代の友人が久しぶりにメールをくれて、この本を読んで 「歌の力はすごいと思いました」 と書かれていたので、その日のうちに Amazon で注文して読んだのである。
この『イムジン河』という歌は、私が中学校 3年生の時に、今は亡きフォーク・クルセダーズの歌 (下のYouTube 参照) で注目されて日本中に知れ渡り、正式なレコード発売直前に、発売中止となった。当時は北朝鮮からのクレームがついたためとしか知らされず、まあ、裏にややこしい事情があるのだろうと思っていた。
何はともあれ歌としてはとても魅力的な作品なので、私は深夜放送で知ったメロディを採譜し、高校に入ってからもギターの弾き語りで歌っていた。いくら政治的に葬ろうとしても、生き残るものは生き残る。歌ってそういうものだ。このほど私にメールをくれた友人ともコーラスしたりしていたので、彼は自分の読んで感動した本を、いち早く私に知らせてくれたのだろう。
『イムジン河』 のレコード発売禁止事件の裏事情に関しては、後になってからいろいろなルートで聞いてかなり知っていた。北朝鮮で作られた歌ではあるが、本国ではほとんど忘れ去られ、在日朝鮮人を通じて日本でこの歌を知った作詞家の松山猛が、ほぼ忠実な訳詞の 1番に、自由に発想した 2番と 3番の歌詞を加えたものが、放送禁止になったフォークル・バージョンである。
その後、北朝鮮総連主導で、オリジナルに近い『リムジンガン』という歌が発表されたが、あまりぱっとしたヒットにはならず、多分「うたごえ運動」みたいなところで細々と歌われたのだろうと思う。タイトルが 2通りあるということからして、ややこしい歌なのである。
漢字では 『臨津河』 と書くらしいのだが、なにしろ朝鮮半島では今や漢字はマイナーな文字だから、言っても仕方がない。どうやら北朝鮮の発音に近いのが 「リムジンガン」 で、韓国の発音だと 「イムジンガン」 に聞こえるらしい。
私としては、オリジナルとはメロディと拍子に一部違ったところがあるものの、フォークル・バージョンの 『イムジン河』 の方が気に入っていて、もっぱらそれを歌っていた。下の YouTube で聞いてもらえればわかるように、『リムジンガン』 はちょっとご大層なのである。「将軍様」 のご威光を感じてしまうのだよね。
前世紀末からにわかに復活してメジャーな舞台でも歌われるようになったのは、フォークル・バージョンの 『イムジン河』 が圧倒的に多いのもむべなるかなである。こっちの方がずっと馴染みやすいのだから、こればかりはしかたがない。
メジャーな舞台で復活してからは、キム・ヨンジャが歌って注目されたりしたが、私は彼女のバージョンを聞くと、「うたごえ版 リムジンガン」 以上に息苦しくなってしまうので、かなり苦手である。タイトルは 『イムジン河』 としているが、メロディとリズムはオリジナルの 『リムジンガン』 だしね。やっぱりフォークル・バージョンが一番しっくりくる。
私は『イムジン河』という歌を歌う時、音楽と社会 (とくに政治事情) の関わりについて複雑な思いを抱いてしまう。この年になって 「政治には積極的に関わりたくない」と思っているのは、若い頃の『イムジン河』体験が少しは影響しているのかもしれない。
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コメント
これはまさしく不朽の名曲ですね。音数が少ない演奏と男性三人のコーラスがなぜこんなにも心に沁みいるのでしょう。
それは多分、要素がシンプルなほど曲のよさと言葉がストレートに届くからでしょうね。
投稿: 萩原水音 | 2017年1月17日 13:37
萩原水音 さん:
この歌が現れて消え、また現れたというプロセスに、リアルタイムで立ち会えたのは、不思議な縁ではあります。
投稿: tak | 2017年1月17日 21:07