「せやみ」という言葉を巡る冒険
庄内弁に「せやみ」という言葉がある。意味は「寒がり、ものぐさ」で、派生語として「せやみこぎ」がある。「こぎ」は、「馬鹿こくでねえ!」の「こく」の名詞形。意味は「寒くて囲炉裏やこたつから離れようとしない人のこと」(参照) だ。
仮に「せやみ」と表記されるが、実際の発音は「しぇやみ/しやみ」に近く、酒田では「寒がり」の意味が強いので、私は「冷や身」が語源なのだと信じていた。ところが Web の世界の多くは、「背病み」が語源であるとしている。
『横手/方言散歩』 というサイト(参照)では、「せぼねやみ(背骨病) の略にて、負担を命ぜられたる場合に背骨に病ありと称してズルケル意味の語なり」という説を紹介している。しかし私の感覚としては、それはたまたま「せやみ」と標記してしまったことに引きずられすぎたもので、取って付けた感ありありの不自然さを覚える。
そんな中で最近、偶然に「かんしょやみ」という言葉を知った。大阪などの上方では昔から使われてきた言葉で、漢字は「癇性病み」。Weblio 辞書では「神経質、潔癖症などのこと。小さな事でも気になってしまう気質や体質」としている (参照)。
上方言葉は北陸を経て東北日本海側に伝播しやすく、「せやみ」という言葉は、まさにこの地域で使われる。そこで私は、この「かんしょやみ」の「かん」が落っこちて、「しょやみ」→ しぇやみ/せやみ」に変化したという仮説を立ててみた。
神経質な潔癖症はいろいろ面倒なことを言い立てて、ぐずぐずすることがある。そこでそんなやつのことを「せやみ」と言うように変化したのではあるまいか。布団から出たがらないので、「寒がり」というイメージも加わったのだろう。
言葉の意味というのは、案外簡単に変化するもので、例えば「お笑いぐさ」という意味の「笑止」が、我が庄内地方では「しょす」に変化して「恥ずかしい」という意味になり、米沢地方では「おしょうしな」に変わって、「ありがとう」という意味になった。「かんしょやみ」が「せやみ」になって意味も変わるぐらいのことは十分あり得る。
本日はサービスとして、庄内昔話を聞いていただこう。ちなみに動画のタイトルは 「せやみこぎ」 だが、聞いてみればわかるように、庄内弁の実際の発音は 「しぇやみこぎ」 になる。そして当然ながら私は、ここで語られる庄内弁は全て理解できちゃうのだよね。
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