「平等に貧しくなろう」 というのは
中日新聞に掲載された上野千鶴子氏のインタビュー記事が、ネット界隈でえらく話題になっている。というか、ほとんど炎上状態だ (参照)。
それにしても 「平等に貧しくなろう」 という見出しは、インパクトは強いが、かなり言葉足らずだと思う。念のため確認しておくが、この記事は上野氏の「寄稿」ではなく、インタビューをした大森雅弥という記者がまとめた記事である。だからこのタイトルも、上野氏の書いた原稿のタイトルではなく、新聞社側が付けたものだ。
このことをしっかりと押さえた上で考えると、とりあえず大きな話題になることを主目的とした見出しなら大成功だが、インタビュー内容をきちんと伝えようというなら、ほかにも言葉の選びようがあった。
新聞記事をきちんと初めから終わりまで読む人は少数派で、多くは見出しだけで判断してしまうのだから、こんな見出しでは物議を醸すことは初めからわかっていただろう。わかっていてやった確信犯なら、これだけ話題になったのは大成功ということになる。
それにしても人間のメンタリティとはおもしろいものである。「経済成長がすべてではない」 言えば、とりあえず 100%近い賛同を得ることができる。「金を儲けさえすればいいってもんじゃない」という言い方をしても、同様の賛同が得られるだろう。
「経済成長路線のほかにも道はある」という言い方でも、そんなに抵抗はなかろうし、「金のせいで道を誤る人は多い」 言うのも、「うん、確かにそうだよね」と反応してもらえる。多くの人が「必ずしも経済的に豊かでなくても、幸せになる道はいくらでもある」という言い方をしていて、それなりの共感を呼ぶ。
ところがそれを直接的に「平等に貧しくなろう」と言っちゃうと、「とんでもない、それはご免だ!」ということになる。
「金がすべてじゃない」というのはうなずけるし、「貧しくても幸せな人はいくらでもいる」というのも、「そりゃ、そうかもしれないね」と反応できる。しかし、「あんたも平等にその世界に入って、清貧の美徳を味わいましょう」と言われると、「それはイヤだ!」という。他人が「清く貧しく美しく」暮らす分にはいいが、自分だけは楽してリッチになりたいのである。
そんなわけで、「みんなで平等に貧しくなろう」と言っても、どうせわかってもらえるはずがないから、まず自分が率先して「金はそんなにないけど、結構気楽で幸せなんだよね」というライフスタイル・モデルを築いて実行すればいいのである。
要するに金儲けにあくせくするより、「まあ、金はないけど楽しく暮らしてるわいな」という生き方をする人が増えさえすればいいんでしょ。それがどうしても嫌なら、人口減少時代に移民が持ち込んでくる馴染みのない異文化に濃厚に接してもストレスを感じなくて済むように、タフな心になる準備をしておくことだ。
じいさんばあさんだけの世の中になるのは嫌だけど、自分が子どもを 3人以上育てるのもしんどい。その上、向こう三軒両隣に移民がゴロゴロ住んで、わけのわからない外国語が行き交うようになるのもまっぴらで、だけど、きちんと経済的に豊かな暮らしだけはしたいというのは、今や駄々っ子の言い草である。その点については、受け入れてもいいと思う。
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コメント
「金はないけど心配するな!」
現在工場(こうば)のオッサンですが、給料安い!作業はキツくないけど実働時間が長い!土日祝休みの勤務体系なのにだいたい日曜日に休めるぐらい!
でも(斜陽)地場産業に就いて、家族の理解を得て楽しく仕事してますし、なんとか生活も送っていけます。
ユニクロには近づけずワークマンで衣類を調達する、自家用車はかれこれ9年目…。
しかしここへ来てウチの小僧が大学進学決定で、学資調達をどうするか、悩みどころであります!
「そのうちなんとか、な〜るだ〜ろぉお〜!」
投稿: 乙痴庵 | 2017年2月14日 19:16
見出しって、編集者とかが「受け狙い」で内容と解離した、ギョッとするようなものをつける場合が多々ありますね。本文を読んでみて「そんなこと言ってないじゃん!」みたいな。こういうのがメディアの嫌いな点です。フ○ックオフメディア!(おいおい)
…「私たちは貧しくはなかった。ただ、金がなかっただけだよ」ある英国人の言葉ですが、心に響きますね。
投稿: 萩原ミズネッティーニ | 2017年2月14日 22:22
乙痴庵 さん:
「俺もないけど心配するな!」
投稿: tak | 2017年2月15日 00:04
萩原ミズネッティーニ さん:
確かにこの見出しは、ウケ狙い要素が大きいですね。
投稿: tak | 2017年2月15日 00:05
私には進行する人口減少に対して、女性が安心して子供を産み育てる環境整備も出来ず、移民に対しては拒絶反応を示す状況では、国全体で貧しくなっていくしかないでしょ!それでいいんですか、という結構まともな意見のように思えました。
私の読解力が足りないのでしょうか?
いわゆる左翼?リベラル系の人々からの反論は、日本に移民は根付かないという現状肯定的な言説に対する反射的な攻撃のように思えます。
投稿: ちくりん | 2017年2月15日 09:53
ちくりん さん:
今回の私の記事は、結構極端な視点からのものとなりましたが、普通に考えれば、おっしゃる通りのことだと思います。同感です。
投稿: tak | 2017年2月15日 21:53
なんちゃって左翼リベラル系の私としては、上野千鶴子が現状肯定的であるというよりは、むしろ逆に、現状を調べもせずに書いている、という方向の批判が説得力あるように思います。
http://migrants.jp/archives/news/170213openletter
投稿: 山辺響 | 2017年2月16日 10:36
山辺響様
繰り返しになりますが私の感想は、高田渡の「自衛隊に入ろう」を文字通り自衛隊勧誘の歌と誤解して批判しているように見える、ということです。
もちろん新聞記者がインタビューした結果をまとめた記事とはいえ、掲載に当たっては上野千鶴子氏に確認を取っているはず(?)ですので、タイトルの含めて彼女自身にも責任はあると思います。
投稿: ちくりん | 2017年2月16日 12:34
山辺響 さん:
上野氏の言い方は、乱暴すぎるところはありますね。大ざっぱな印象としては確かにそういうことはあるだろうけど、事実は全く違うというような。
まあ、そうした問題はこれに限らず世の中にいくらでもあるので、議論の余地はあるわけですが、上野氏にしては勇み足だろうという気もしますね。
投稿: tak | 2017年2月17日 08:18
ちくりん さん:
>高田渡の「自衛隊に入ろう」を文字通り自衛隊勧誘の歌と誤解して批判しているように見える
そういう気もしますね。ビミョーではありますが。
上野氏としては、「日本もしょうがないなあ、こうなったら、経済的には縮小傾向を甘んじて受けつつ、別の分野で大人になって行くしかないのかな」ってな気持ちなのかもしれません。
投稿: tak | 2017年2月17日 08:22