« 「鼻茸」 というものがあるらしい | トップページ | 「リアルなもの」 と 「リアルに感じられるもの」 »

2017年3月 7日

百貨店という業態は、既にオワコン

日本経済新聞が "「百貨店離れ」 誤算の連鎖 三越伊勢丹 HD 社長交代" という記事を報じている。主力の百貨店事業の不振で、2017年 3月期の純利益が前期比で半減する見通しのため、現社長の大西氏が業績悪化の責任を取り、任期途中で辞任するのだそうだ。

170308

私はずっと前から 「百貨店は歴史的使命を終えかけている」と言ってきた(参照)が、最近は「既に終わった」と言ってもいいんじゃないかとさえ思っている。はやりの言い方では「オワコン」(終わったコンテンツ)そのものである。

百貨店の売上高はバブル期ピークの 1991年には 9兆 7130億円に達したが、昨年は 5兆 9780億円と、約 60%にまで落ち込んだ。6兆円を割り込んだのは、36年ぶりという。つまり 36年前の、インターネットもケータイもなく、FAX すらも普及していなかった、遙かイニシエの時代の売り上げに戻ったということだよ。

36年前といったら、私がまだ 20代の頃で、その頃はファッショナブルな洋服を買おうと思ったら、百貨店に行くしかなかった。その前の 1960年代から 70年代半ばまでは専門店(今はなき「鈴屋」とかね)の時代だったが、70年代後半からは完全に百貨店の時代だった。とくに DC ブランドなんて言われた時代は、百貨店の全盛期だったろう。

その頃は、ユニクロはなかった。H&M もなかった。ファッショナブルを気取ろうと思ったら、百貨店で洋服を買うしかなかった。ほかに買う店がないのだから、儲かって当然だったのである。ところが今は、服を買う店は百貨店の他にいくらでもある。しかも百貨店の服の半額以下でそれなりの洋服が買える。

これは前にも書いたことだが、知り合いに「最近、百貨店で服買った?」と聞くと、90%以上が「この何年も、百貨店で服を買ったことなんてない」と答える。百貨店で服を買うのは、今どきになってもほかのチャネルで買うのが何となく憚られると思っている裕福で世間知らずな層だけである。いや、裕福な層でも服なんかに必要以上の金をかけるのは馬鹿馬鹿しいと思い始めている。

長くアパレル関連でメシを食った私が言うのだから、これは部外者のやっかみじゃない。私は別にファッションが好きでアパレルの仕事をしたわけじゃないから、ファッション大好き人間には見えないことが、ちゃんとよく見える。

去年あたりに、百貨店の売り上げがやや持ち直したように見えたことがあったが、あれはアベノミクスによる一時的な景気の復調と、中国からの観光客のいわゆる「インバウンド消費」のせいであって、百貨店業界が構造的に再び浮上したというわけじゃない。

このほど三越伊勢丹 HD の社長を辞めることになった大西氏という人は、伊勢丹新宿店のメンズ売り場で名を馳せた人である。バブルのちょっと前頃から、伊勢丹新宿店のメンズ売り場というのは、「ファッション・マーチャンダイジングのお手本」みたいにもてはやされていたが、私は全然別の冷めた見方をしていた。

「伊勢丹のメンズ売り場が好調なのは、その裏手にホストクラブがどっさりあって、ホストのお兄さんたちがしょっちゅう高級スーツを買うのだもの、当然じゃん」と思っていたのである。あんなにバブリーなメンズウェアを、フツーの男たちは着ない。着る必要がないのだ。

フツーじゃない男たちを相手に磨いたマーチャンダイジング手法を、フツーの都市の百貨店に適用したところで、通用しないのである。どうしてそこに気付かないかなあと、私はずっと不思議だった。甘い夢は、よくよくダメになるまで見続けたいもののようなのだ。

危なすぎる罠である。

|

« 「鼻茸」 というものがあるらしい | トップページ | 「リアルなもの」 と 「リアルに感じられるもの」 »

ニュース」カテゴリの記事

コメント

確かに百貨店で服を買わなくなりました。

ところで、関西で伊勢丹といえばJR京都駅の改装に伴って進出した京都店が当たって、大阪駅にも出店したところが散々な成績で三年で撤退しました。

京都では四条通りの大丸・高島屋が主流で、土地柄の悪い京都駅周辺は買い物する環境に無かったのが成功の主因だったのに、激戦の梅田に旧態然とした業態で乗り込んできたのですから驚きました。

大西さんの経歴を確認すると、大阪店出店の失敗と重なっていて妙に納得しました。

投稿: ちくりん | 2017年3月 8日 08:25

ちくりん さん:

京都駅の造作に関しては、私は京都の玄関口を最悪のビジュアルにしてしまったと思っています。その最悪の中核店が、伊勢丹なのですね。

あれは他にコンペチターのいないところだから、あの最悪の感覚でもやっていけるんであって、大阪の激戦区に出たら、「こいつ、何物?」 って感じになっちゃったんでしょうね。

投稿: tak | 2017年3月 8日 22:06

大手百貨店は難関私大卒の人材の墓場ですよ。都市銀行は無理、商社は無理という人たちの受け入れ先なんです。

入社して四、五年くらいは下働きをしますが、主任に昇格してからは仕事は減ります。係長から上は殆ど仕事はなく一日中ぶらぶらしていましたね。
夜は社員同士で居酒屋に行くというパターンですね。

あまり詳しくは長文になるので書きませんが、行儀が悪すぎます。倫理に反したことも当然のようにやります。
そして、つつがなく定年を迎えるのが連中の最重要関心事です。
こんな連中が時代の変化を読んで先手を打つなんて無理無理。

ところで、三越伊勢丹が梅田に出店したなんて業界人のくせに何もわかってないですね。梅田を起点とする阪急沿線は阪急百貨店に洗脳された信者が住むところです。同じく阪神沿線は阪神百貨店の信者が住むところ、最初から負け戦ですよ。

その阪急も堺北花田店、四条河原町店(京都線の終点駅で辛うじて沿線ではあった。撤退時はバブル期の30%の売上)は撤退、横浜の都築阪急は横浜の百貨店ではどん尻(年間売上げは50億程度、横浜高島屋の3%以下)で撤退は時間の問題とみています。

バブルの頃に出店した店舗は総崩れですね。

投稿: ハマッコー | 2017年3月 9日 01:36

ハマッコーさん、

その梅田の激戦地で百貨店の横に同時にオープンした専門店街のルクアは好調で、結局三年後にそちらを拡張して三越伊勢丹を吸収したんですから、百貨店側は面目丸つぶれですわ♪

投稿: ちくりん | 2017年3月 9日 08:25

ハマッコー さん:

>大手百貨店は難関私大卒の人材の墓場ですよ。都市銀行は無理、商社は無理という人たちの受け入れ先なんです。

なるほど。そう言われるとよくわかります。

率直に言って、世の中の動向を学ぼうという気がないですね。

「お客様、お客様」 と言ってさえいればいいというわけじゃないんですがね ^^;)

投稿: tak | 2017年3月 9日 14:42

ちくりん さん:

今は百貨店の時代じゃないんですね。百貨店に入るのは面倒ですもんね ^^;)

投稿: tak | 2017年3月 9日 14:45

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 百貨店という業態は、既にオワコン:

« 「鼻茸」 というものがあるらしい | トップページ | 「リアルなもの」 と 「リアルに感じられるもの」 »