「けんちん汁」を巡る冒険
世の中には「けんちん汁」というものがあり、Google で画像検索してみるとその圧倒的なバラエティが見られる。共通しているのは具だくさんの汁物というだけのことで、体裁は白味噌あり、赤味噌あり、しょう油仕立てあり、豆腐がどっさりフィーチャーされているものあり、豆腐なしのものありと、けんちん汁の定義はかなり難しそうだ。
Wikipedia で調べてみると、次のようになる。(参照)
大根、にんじん、ゴボウ、里芋、蒟蒻、豆腐を胡麻油で炒め、出汁を加えて煮込み、最後に醤油で味を調えたすまし汁である。地域や家庭によって、味噌仕立ての場合もある。
元来は精進料理なので、肉や魚は加えず、出汁も鰹節や煮干ではなく、昆布や椎茸から取ったものを用いた。
というわけで、けんちん汁が元々は精進料理だったのだと初めて知った。さらに語源については次のように説明されている (どうでもいいけど、ちょっと悪文)
「けんちん汁」の語源については、定かではないが、神奈川県鎌倉市にある建長寺の修行僧が作っていたため、「建長汁」がなまって「けんちん汁」になったといわれる説が有力だが、普茶料理の巻繊(ケンチャン - 野菜を刻み、豆腐を混ぜて炒め、油揚げか湯葉で巻いて油で揚げた料理)がアレンジされ、けんちん汁になった説などがある。
なにしろ私は東北の日本海側にある地方都市の出身とて、子どもの頃は家庭で「けんちん汁」などというものを食べさせられたことがない。小学校に入ると、給食で時々「けんちん汁」という献立があったが、きちんと意識して食っていたわけじゃないので、「ああ、あの田舎風の汁物か」程度の認識で、とくに好きでも嫌いでもなかった。
ところが 30歳前にして茨城県つくばの地に引っ越してみると、当地では「けんちん汁」というのが代表的郷土料理と言っていいほどのものなのである。単に食事の際の汁物としてだけでなく、蕎麦でさえもけんちん汁で食すのが定番みたいなのだ。Wikipedia にも、次のように記されている。
茨城県では、特産の蕎麦にけんちん汁をかけ「けんちん蕎麦」としても食されており、また、けんちん汁をつけ汁とした「つけけんちん蕎麦」も存在する。
まだ 20代の頃、町の主催(当時はまだ「市」じゃなく「町」だったのだよ)で催された「蕎麦打ち講習会」というものに、2000円(だったかな?)の会費を払って参加したことがある。ところがその講習会では、蕎麦打ちと同じくらいの時間を 「けんちん汁」 の作り方にも割かれたのである。
この地では、テキトーに太めに打った蕎麦を、具を細かく切ったけんちん汁に絡めて食うのが定番のようなのだ。この「絡めて食う」というのは、まさに文字通りの表現で、熱い「かけ汁」として使うのでもなく、「ぶっかけ」といえばぶっかけなのだが、フツーのぶっかけよりもまだ汁気の少ない、生暖かいものにする。まさに「絡めて食う」のだ。それを自分で作らされて自分で食わされたのである。
「蕎麦打ち講習会」というのだから、てっきりすっきりとした江戸前蕎麦の打ち方を指南してくれるものと思っていたのだが、そのイメージは完全に裏切られた。この「けんちん絡み蕎麦」とも言うべき食い物は、自分が下手な作り手ということもあっただろうが、あまりおいしいと思えなかった。一緒に参加した人たちと、「なんか、だまされたような感じですね」と呟きながら帰って来たのを覚えている。
けんちん汁を暖かいたっぷりのかけ汁として使った、いわゆるフツーの「けんちん蕎麦」ならまだ食えそうだが、あの時の経験がトラウマとなって、一度も注文したことがない。せっかくの蕎麦を、けんちんまみれにする気には、なかなかなれないのだ。
しかし近頃は、蕎麦を離れたフツーの「けんちん汁」なら結構馴染んでしまった。わが家でも時々作って食べている。もっとも庄内風の「芋煮」とほとんど区別付かないものになっているので、出自は争えないわけだが。
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コメント
けんちん汁も蕎麦も好物ですが、「からめて喰ふ」のはまづさうですね。別々に喰つたほうがはるかにうまゐ気がします。熱々のけんちん汁に蕎麦を入れて「けんちん蕎麦」にするのはうまさうです。なんだか夜中だといふのにそんな汁物が喰ひたくなつてきました。
投稿: 萩原千間 | 2017年4月10日 23:31
萩原千間 さん:
けんちん汁のからみ蕎麦は、決して 「まずくて食えない」 というわけではないのですが、私の感覚としては、蕎麦の持ち味がこわれてしまって、「そうして食うことの意味がわからん!」という感じでした。
まあ、地元の人にしてみれば、「慣れ親しんだおふくろの味」なのかもしれませんが。
投稿: tak | 2017年4月11日 22:10