ストラディバリウスの音を聞き分けられるか
いつだったか忘れたが(3〜4年前だった気がするが)、テレビでストラディバリウスの音色を聞き分けることができるかどうかという企画を見た。娯楽番組のことだから全然厳密なものではなく、プロの演奏家が 2台のバイオリンを弾き、どちらがストラトバリウスかを、出演していた何人かのタレントたちが当てるという趣向だったように思う。
2台のバイオリンのうち、1台は正真正銘のストラトバリウスだが、もう 1台は安物ではないにしても、ごく普通の普及品ということだった。そして出演者たちは、それら 2台の演奏を聞いても違いがわからないらしく、完全に戸惑っていた。
しかしその番組を見ていた(聴いていた?)私にとっては、「なんでまた、この違いがわからないかなあ?」と言いたくなるほど、音色の違いは歴然としていて、簡単に言い当てることができた。しかしたまたま一緒にその番組を見ていた友人たちは、「全然わからん」と匙を投げていた。
友人たちは、「tak は、さすがに昔から音楽やってただけあって、耳がいいなあ」 と感心してくれて、私もちょっと悦に入っていたのだが、それからしばらくして、「ストラディバリウスと現代のバイオリンの音色は大差なし」というレポートが出され、わけがわからくなった。はたして私の耳は、本当にいいのだろうか。
権威あるレポートによると、ストラディバリウスと現代の最高級品のバイオリンの「音色の良さ」には、ほとんど違いがないらしい。それどころか、超一流のバイオリニストたちの多くは、現代の最高級品の音色を支持したというのである。その詳細は、こちらの記事に書かれている。
じゃあ、あの時のテレビでは、どうしてあんなにも歴然とした違いがあったのだろう。一緒に見ていた友人たちは「さっぱりわからん」と言っていたが、私にははっきりとわかったのだから、やはり「音の艶」にはちゃんと差があったのだ。
考えられる理由の 1つは、あの番組では、ストラディバリウスと比較されたのが、「ごく普通の普及品」だったからというものだ。それなら、違いがわかって当然だ。普通のリスナーの耳には違いがわかりにくいというのは、ちょっと悲しい現実だが、少なくとも「聞く耳」さえ持っていれば、ちゃんとわかる。
もう 1つ考えられる要素は、テレビの音響技術者が音をコントロールしたのではないかということだ。ほとんどのテレビ視聴者にとって「違いなんてさっぱりわからない」なんてことになったら、さすがにまずいという配慮が働いて、「聴く人が聴けば、ちゃんとわかる」程度にコントロールした音を電波に乗せたということは、十分に考えられる。
もしかしたら、「ストラディバリウスと現代の最高級品を聞き分ける」というテーマだったとしても、テレビの音響技術者は、現代の最高級品の音質を意図的に落として電波に乗せたりしたかもしれない。そのくらいの微妙な演出(ビミョーなソンタク?)は、ありがちなことではないかという気がする。
というわけで、私は本当に「ストラトバリウスと普及品の音の違い」を聞き分けることができたのかどうか、よく考えるとわからなくなってしまった。もしかしたら、音響技術者の演出に乗せられただけなのかもしれない。何しろ、ナマ音を聞いたのではなく、ごくフツーのテレビを通して聞いただけなのだから。
いや、それでもやはり、「私は音が聞き分けられた」 ということにしようと思う。ストラディバリウスと現代の最高級品の違いは、最高レベルのプロでも言い当てることは難しいというのだが、どこにでもある普及品との違いぐらいなら、私のレベルでも聞けばちゃんとわかると信じたい。
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コメント
テレビの音響さんもプロですから。録音したのをそのままテレビのスピーカーから流したのでは、生で聴くのとは全然違った音になる。
そこで「生で聴いたのと同じ感じになる」ように音響をコントロールするのでしょう。
(テレビによってスピーカー性能も千差万別、というのはまあ置いといて)
つまり、テレビを通して違いが分かったのなら、生で聴いても違いは分かる。と信じておきます。
投稿: 風花 | 2017年6月 5日 22:21
風花 さん:
なるほど、彼らの職人魂を信じて、その延長として自分の耳も信じることにします。
投稿: tak | 2017年6月 5日 22:41
「芸能人格付けチェック」という番組ですね。私もその週の番組は見ました。それぞれの音の違いは明確に分かりましたが、私はハズレでした。やや渋みがあったのが普通のヴァイオリンで、わざとらしく艶があったのがストラディバリウスでした。という理由で前者を選びハズレでした。
生の音を聴いたらどう判断したか、やはりハズレかそれとも正解するのか今では確かめようがありません。
考えてみれば、そもそも生のストラディバリウスを聴いたことがないので、「どっちがストラディバリウス?」はタフなクイズだったと思います。
ちなみに、ABC放送(テレビ朝日)の音声のカットオフ周波数は15Khz(FM放送と同じ)だそうで、それ以上は情報としてありません(NHKとフジTVは20Khz)
一方、テレビの音声はただのスピーカー(多分一個千円程度)からなのでテレビ番組には不向きなクイズでした。
娯楽番組としては楽しみました。
投稿: ハマッコー | 2017年6月 5日 23:52
其の企画のテェマは一見「どつちが最高級品のヴィオロンの音でせう」と思はせておいて、実は「人間の先入観について面白ひ実験をしてみましたよ(ニヤリ)」といふことなのではなゐだらうか。。私がテレビ局の人間だつたら、こういふ企画をやつて、色々な情報を与えられ過ぎてかえって訳がわからなくなり、混乱する民衆を見て楽しむかも知れません。テレビ局の人間といふのは大規模な社会実験をやつて面白がっている恐るべき人種なのかも知れませんね。くわばらくわばら。
投稿: 萩原千間 | 2017年6月 6日 09:42
いつも興味深い記事をありがとうございます。
さて、揚げ足取りのようで恐縮なのですが、「ストラトバリウス」という名称はtak様の記憶違いではないでしょうか?下記ご参照いただければ幸いに思います。
https://kotobank.jp/word/ストラディバリウス-190224
投稿: 通りすがり | 2017年6月 6日 11:11
ハマッコー さん:
おぉ、同じ番組をご覧になってましたか。
私の場合、「クラシック系では、こういう音を 『いい音』 っていうのよね」 という経験則があったので、すぐにわかったのかもしれません。
投稿: tak | 2017年6月 6日 13:47
萩原千間 さん:
逆に、「クラシック音楽におけるいい音」 というのが、あまり馴染まれていないことを照明する結果になったのかもしれません。
ポップスの耳になってしまうと、わからなくなるでしょうね。
「情報偏重」 が問題なのかも。
投稿: tak | 2017年6月 6日 13:50
通りすがりさん:
あは、本当だ!
口で言う時には 「ストラディバリウス」 と言ってるのに、なんでまたこんなことに? と考えてみましたが。無意識のうちに、エレクトリックギターの 「ストラトキャスター」 と混じっちゃったようです (^o^)
さっそく訂正します。ありがとうございました。
投稿: tak | 2017年6月 6日 13:52
いつも拝見しております。
ストラトバリウスという有名なバンドがおりますので
自動入力されてしまったのかもしれませんョ。
投稿: あかまみれ | 2017年6月 6日 20:31
あかまみれ さん:
自動入力だったかどうかは記憶にありませんが、するっと変換されちゃいましたね ^^;)
で、一度間違えた変換を確定しちゃったので、あとはずっと自動変換ということだったんでしょうね。
あぶない、あぶない。
投稿: tak | 2017年6月 7日 06:47
聞き分け方を載せなさい。そして改善なさい。
投稿: 神様 | 2021年1月 1日 20:06
神様:
斎戒沐浴して聞くことです。
投稿: tak | 2021年1月 1日 20:45