馬鹿はひたすら「進め!」と叫ぶ
近頃、『腰まで泥まみれ』という昔のフォークソングを思い出して歌っている。原曲は Pete Seeger 作詞・作曲の "Waist Deep in the Big Muddy" という歌。中川五郎の訳詞で、日本でも 60年代後半から 70年頃まで多くのフォークシンガーが歌っていた。
その歌が今、もう一度意味をもってよみがえっているように思う。比較的新しいところでは元ちとせも歌っているし、訳詞した中川五郎が沖縄で歌うビデオ (2012年制作) も YouTube に収録されているので、ちょっと聞いてみてもらいたい。歌の内容は次のようなものだ。
昔、軍隊の演習で隊長は歩いて川を渡れと命令したが、軍曹は「危ない、引き返そう」と諫める。しかし隊長は「そんな弱気でどうするか、俺についてこい」と渡り始める。腰まで、そして首まで泥まみれとなったところで、隊長は溺れ、軍曹以下の隊員は引き返して命拾いする。
この歌にはとりたてて押しつけがましい教訓は含まれない。ただ歌の後半、「馬鹿は叫ぶ、進め!」というフレーズが繰り返されるだけだ。
この歌は60年代のベトナム戦争が泥沼にはまりかけていた状況を反映したものと言われるが、いつの時代でも馬鹿はただ闇雲に「進め!」と叫ぶ。 Pete Seeger の原詞では、「馬鹿」は "big fool" で、タイトルの "Big Muddy"(大きな泥地)と共通の、ズブズブのイメージが喚起される。
そして途中までは "the big fool said to push on" (馬鹿は「進め」と言った)と過去形だが、最後は "the big fool says to push on" (馬鹿は「進め」と言う)と現在形で繰り返される。今も変わらないのだ。
ここにことさらではないが明確なメッセージがあるだろう。あれから 50年以上経ち、21世紀となった今も、馬鹿どもは相変わらず「進め!」と叫びたがり、「お友達」同士で寄り集まり、幻想に酔いながら好き放題をし、泥沼の中で自滅の道を辿る。
最後に元祖 Peet Seeger のビデオも紹介しておく。最後のリフレインで現在形の繰り返しになるのに注目だ。彼がこの歌を最初にテレビで歌った時には、実際の放送ではカットされていたという。
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